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4 騎士と破壊のお姫さま編

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 大神殿での話し合いの翌日。

 私とラウはいつものように第六師団に出勤していた。

 話し合いをしようがしまいが、私の存在に変わりはないし、私とラウの関係にも変わりはない。

「あれ?」

 でもなんか、離れていても、ラウがはっきり感じられるような気がするような、しないような?

「フィア、どうかしたか?」

「なんでもないような、あるような?」

 珍しくラウと離れて座っているのに、隣でベッタリくっつかれているような感触がある。

「昨日の今日で疲れてるんじゃないか?」

「そうなのかな?」

 むむむ。

 なんとなく、疲れとは別のもののような気がするけど。

 ラウがはっきり感じられる以外、とくに変わりはないし。
 そもそも、ラウが感じられても問題はまったくないから。別にどうでもいいよね。

 私は会議に集中することにした。

 今日の会議も第四師団関係のことだった。

 予想通り、大神殿の北に位置する黒の樹林が、第六師団に割り振られたので、調整の大詰めだ。

 大神殿の北にはいくつか黒の樹林があるが、そこから、さらに北上すると、スヴェート帝国と国境を接する中立エリアとなる。

 中立エリアまで行くと、辺境騎士団の第七師団の領域になるので、第六師団の割り当てはその手前まで。

 うん、こんな重要地域も第四師団が適当に管理していたんだと思うと、かなり怖い。
 三番目が潜んでいるのはこの辺りの黒の樹林のようだ。
 この前、変な反応があったところじゃないかなーと睨んでいる。テラも同意見だったし。

 あぁ、面倒臭そうな臭いしかしない。
 私は、はぁとため息をつくのだった。




「それで、師団長。そういうところもクロスフィアさんと似ていますわね!」

「フィアと俺が似ている?!」

 会議が終わり、副師団長さんたちと部隊長さんたちが、それぞれの業務に戻っていった後。残った七人で話が続いていた。

「クロスフィアさんも気に入らない相手の机を、魔剣で崩壊させておりましたわ!」

「そんな報告、受けてないぞ?」

 グリモさんの机を叩き斬ったやつだね。

 うん、私も報告はしてないけど、なんで、ルミアーナさんは知ってるのかな?

 周りを見ると、エルヴェスさん以外の全員が動きを止めている。

「塔長室での話ですので、護衛班も、さすがに目が行き届きませんわね」

 得意げに答えるルミアーナさんに、カーネリウスさんが突っ込んだ。

「護衛班の目が行き届かないところの情報を、なんで、エレバウトさんがご存知なんですか?」

 そうだよね、カーネリウスさんもそう思ったよね!

「ホホホホホホ。会員間の秘密ネットワークですわ!」

 自慢げに答えるルミアーナさんに、私は思わず突っ込む。

「秘密って自分でバラしてる」

「クロスフィアさんにはバレても問題ございませんわ!」

 今度はなぜか、誇らしげに言い切った。

「クリムトのメンバーはいつでもどこでも、クロスフィアさんを応援しておりますもの!」

「「クリムト?」」

 私、ラウ、カーネリウスさんの三人が声を合わせる。

 なんだ、それ?

 私たちの声に最初に反応したのは、おもしろそうに反応を眺めていたエルヴェスさんだった。

「マー、一種の宗教よねー」

 エルヴェスさんは、ウンウンと頷いて、チラッとルミアーナさんを見ると、ルミアーナさんが解説を始めた。

「クリムゾン様を尊ぶ会。略して『クリムト』ですわ」

 え?

「どういう略語?」

「フィア、突っ込むのはそこじゃない」

「え? そうなの?」

 いやだって。

 クリムゾンの『クリム』と尊ぶの『と』で『クリムト』って、どうなの? 略語としておかしくない?

 他に突っ込みどころがあるのかと思って、ラウを見ると、ラウは顔を赤くしていた。

 うん、これは恥ずかしいとか照れてる赤じゃなくて、怒ってる赤だ。だいぶ区別がつくようになってきたな。

「なんで、フィアが関係するものに、俺が招待されてないんだ?!」

「え、そっち?」

「当然だろ!」

「師団長がこうおっしゃってますけど。いかがいたします、会長?」

「会長?」

「エルヴェスが?」

 私とラウが揃って声を上げる。

 なんで、エルヴェスさんが、私のファンクラブ的なものの会長やってんの?
 まさか、そういう商売的なやつ?

 思い当たることがあるのか、補佐一号さんと二号さんが揃って手をポンと打った。

「あー、なんか、布教活動してたっすねー」

「あー、黒竜録の営業活動かと思ってましたよ」

「ソノ活動を経て得た同志が、今のクリムトを作り上げたのよ!」

 訳、分からないんだけど!

「そのってどっち?」

 布教活動? 営業活動?

「フィア、突っ込むのはそこじゃない」

「え? そうかな?」

 さらに、顔が赤くなってるラウ。
 上位竜種は怒ると冷気が漏れる。今のラウも顔の赤さに比例して、冷気が漏れてきている。
 大丈夫かな、これ。

「なんで、フィアのファンクラブの会長が俺でなくエルヴェスなんだ?!」

「え、そっちか」

 ラウ、夫は普通、ファンクラブ的なものの会長はやらないと思うよ。

 と心の中で思ったものの、状況がさらに混沌としてしまってもこまるので、クリムトの会長に対応を任せることにした。

 つまり、私は傍観する道を選んだ。

「オットがファンクラブの会長って、マズいでしょー」

「会員は、よくてお友達までですわね!」

 ほらほら。

 エルヴェスさんとルミアーナさんが立て続けに反論してくれる。
 この二人。ラウの扱いに慣れてるよね。

「くっ、それなら仕方ない」

 よくてお友達宣言を聞き、ラウが素直に引き下がった。ラウは夫だからね。お友達に格下げしたくないよね。

 ところで、ルミアーナさんはカーネリウスさんの補佐。なのに、自棄にエルヴェスさんと息ピッタリ。

 普段はあまりエルヴェスさんに会わないはずなのに。

「ルミアーナさんも何かやってるの?」

 不思議に思った私はルミアーナさんに質問する。

 ルミアーナさんは基本的に裏表のない人なので、いろいろと質問しやすい。
 そして、答えられる範囲で即座に返事が返ってくる。

「あたくしは副会長ですわ!」

 マジか。正副が揃ってるし。
 息ピッタリなはずだわ。

「クルクルちゃんは技能があるからねー」

「技能? 何の技能?」

「クルクルちゃんは、そういう技能を持ってるのよー」

「「そういう技能?!」」

 出た、そういう技能!

 この前も塔長にはぐらかされたし、ノルンガルスさんは尊敬の目で見ていたし。

 今日こそは訊くんだ、そういう技能の正体を。と思って期待の眼差しでルミアーナさんを見る。見るだけじゃなく視る。

 そして、ついに『そういう技能』の正体が明かされた。
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