上 下
204 / 384
4 騎士と破壊のお姫さま編

4-7

しおりを挟む
「ラウ、ちょっとボコボコにしてくるね」

「ここで待ってる。気をつけるんだぞ」

「うん」

 ちょっとそこまで、と散歩に行くかのような気軽さで、フィアから声がかかった。

 その直後。

 もの凄い圧がこの場にかかる。フィアの魔力圧だ。かなり怒ってるな。

 俺すらも、胃から何かがせり上がってくるような、どうしようもない吐き気に襲われた。
 さすがに総師団長と第二師団長は耐えているが、ベルンドゥアン卿と元護衛は今にも吐きそうだ。

 と思ったそばから、ベルンドゥアン卿が倒れる。

 第二師団長が慌ててベルンドゥアン卿の身体を支え、建物の方へ避難させた。
 グランミスト嬢が向かったところに連れて行ったのだろう。

 はぁ。

 弱いな。普通種はこの程度か。




 大神殿には約束の時間通りにたどり着いた。
 フィアのリクエスト通り、飛竜で颯爽と降り立つ。格好いいぞ、俺。

 そこには、グランミスト師団長とその娘、ベルンドゥアン第二師団長とその兄、そして元護衛が揃っていた。

 大神殿側の立会人として、赤種のチビと神官長がいる他、国側の立会人として、レクスも来ている。

 話し合いは完全に平行線だった。

 元護衛もその親も、総師団長も勝手なことばかり。対して、フィアはどっちもぶった斬った。
 元護衛の話はつまらない、総師団長の思いは興味なし。

 そりゃそうだ。

 ネージュとして死んだ時点で、フィアは新しい人生を始めたんだ。なんで、いまさら、過去に向かう必要がある?

 そこへ赤種の三番目だとかいう、黒猫がやってきて見せたのが、ネージュの最期とフィアの最初の記録映像。 

 フィアとチビは菓子を食いながら見ていたが。
 とてもじゃないが、穏やかな気持ちでなんて、見ていられなかった。

 ネージュの兄も妹も、グランフレイムの護衛も、その場に居合わせたら、全員消してやったのに。

 そして、ネージュの最期の叫びが耳に残った。




「黒竜。何、ニヤニヤしてるんだよ」

 赤種のチビが俺を現実に引き戻す。

 記録映像の後、俺を侮辱した黒猫に突然攻撃を仕掛けたフィア。それから俺だけに言葉をかけて消えたフィア。

 うん、俺は愛されている。間違いない。

「俺のフィアが、俺だけに言葉をくれたんだ。これぞ、俺だけ愛されている証」

「けっ」

 頷く俺を、変なものでも見るように、ジロッと見る赤種のチビ。
 そこへ、総師団長が割り込んだ。

「ドラグニール、そういうのは要らないから。何がどうなってるんだか説明してくれ」

「見て分からんのか?」

「分かるかよ」

「俺の奥さんは最強だってことだ」

 自慢げに胸を張る俺。
 伴侶の強さは俺の強さにも繋がる。逆もまた然り。

 俺の堂々とした宣言が総師団長は気に入らなかったようで、嫌そうな顔をした。

「お前に説明を求めた俺がバカだった」

「オッサンは、臆面もなくここに顔を出してる時点でバカだろ」

 嫌な顔の総師団長に対して、もっと嫌そうな顔をしているチビがつっこむ。

「あれほど警告したのにな」

 どうやら、事前に何らかの話があったようだ。チビの言葉にぱっと顔を赤くする。

「師匠。つまり、さっきの黒猫が変化の赤種、三番目のクロエル様ってことだよな」

「そうだな」

「三番目のクロエル様が関与をして、クロエル補佐官の覚醒につながった」

「それは何とも言えないな」

 レクスが話をまとめにかかるが、チビが待ったをかけた。

「違うのか、師匠?」

「運命なんて、そんな単純なものじゃない。いろいろなものが複雑に絡み合っているんだ」

 チビのくせに、訳知り顔でものを語る。
 こういうところが、本当に子どもらしくない。

「なら、複雑に絡み合った結果、クロエル補佐官は赤種として覚醒したと?」

「まぁ、そういうことだな」

「それで、現在はラウゼルトがクロエル補佐官を縛っている」

「騙して同意させて、縛り付けているわけですよね」

 レクスの言葉に、記録映像を見て呆然としていた元護衛が復活してきやがった。
 しかし、元護衛をチビが否定する。

「それは違うぞ。ネージュの元護衛。赤種の四番目は最強なんだ。本人に自覚がないだけで」

「だから、何だと言うんですか」

「だから、黒竜が四番目を縛っているんじゃない。四番目が黒竜に縛られてやってるんだよ」

 俺がフィアを選んだだけではなく、フィアも俺を選んでくれたってことか。
 嬉しくて顔が緩む。

 元護衛の方は声も顔も硬くしていた。

「本人の意志だと言うんですか」

「当然だな。破壊の赤種は神をも壊す。伴侶の契約なんて簡単に壊せるはずだ」

「でも、クロエル補佐官はそうはしなかった」

「つまり、俺は愛されてるってことだ」

 そのとき、緩みっぱなしの俺にチビがチクリと警告を放った。

「お前も調子に乗るなよ、黒竜。竜種の愛は一方通行。いつどこで、破壊の赤種の癇に障るか分からんぞ」

 一瞬で、俺の心は引き締まる。

「分かってる。だから、お互い、すれ違わないよう、考えてること、思っていることは伝えあってる」

「その辺は進歩したな」

 俺は顔の緩みを抑えて話を続ける。

「それに、愛されるための努力は欠かしてない」

「多少ずれてるけどな」

「お前は、何も努力してないだろ」

 俺は元護衛を揶揄するように声をかけた。

 ムカつくこいつは、硬い顔のまま下を向いていたが、俺に話を振られ、身体をビクンとさせる。

「五年間、常にネージュ様に寄り添い、持てるすべてを捧げてお守りしていました。努力は怠っていません」

 なんだと。なら、なんでネージュは死んだんだ?!

 挑むような元護衛の言葉が耳に入るや否や、俺の怒りが突然、膨れ上がった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。 番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています 6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

公爵令嬢 メアリの逆襲 ~魔の森に作った湯船が 王子 で溢れて困ってます~

薄味メロン
恋愛
 HOTランキング 1位 (2019.9.18)  お気に入り4000人突破しました。  次世代の王妃と言われていたメアリは、その日、すべての地位を奪われた。  だが、誰も知らなかった。 「荷物よし。魔力よし。決意、よし!」 「出発するわ! 目指すは源泉掛け流し!」  メアリが、追放の準備を整えていたことに。

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜
恋愛
 王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。 そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。  ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。  その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。  しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

悪役令嬢はお断りです

あみにあ
恋愛
あの日、初めて王子を見た瞬間、私は全てを思い出した。 この世界が前世で大好きだった小説と類似している事実を————。 その小説は王子と侍女との切ない恋物語。 そして私はというと……小説に登場する悪役令嬢だった。 侍女に執拗な虐めを繰り返し、最後は断罪されてしまう哀れな令嬢。 このまま進めば断罪コースは確定。 寒い牢屋で孤独に過ごすなんて、そんなの嫌だ。 何とかしないと。 でもせっかく大好きだった小説のストーリー……王子から離れ見られないのは悲しい。 そう思い飛び出した言葉が、王子の護衛騎士へ志願することだった。 剣も持ったことのない温室育ちの令嬢が 女の騎士がいないこの世界で、初の女騎士になるべく奮闘していきます。 そんな小説の世界に転生した令嬢の恋物語。 ●表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_) ●毎日21時更新(サクサク進みます) ●全四部構成:133話完結+おまけ(2021年4月2日 21時完結)  (第一章16話完結/第二章44話完結/第三章78話完結/第四章133話で完結)。

処理中です...