上 下
200 / 384
4 騎士と破壊のお姫さま編

4-3

しおりを挟む
 第六師団と第二師団とで、半壊した第四師団をめぐっての話し合いがもたれる予定の日。

 約束の時間より三十分も早く、ベルンドゥアン師団長の来訪を受けた。

 はぁ。

 俺は、何度、同じ話を聞かされないといけないんだ?
 こいつもこいつだ。いつまで自慢の甥とやらの話を優先させるつもりだ?
 いい加減にしてもらいたいものだ。

「ドラグニール、少しでいいんだ。話をする時間を取ってほしい」

「必要ない」

「このままじゃ、お互いにスッキリしないと思わないか?」

「思わないな」

「それはお前だけだろう。お前の奥さんだって家族や親族が気になるだろうし」

「それはないぞ」

 必死に訴えるベルンドゥアンに対して、面倒なので手短に返す。

「どうして、そう言えるんだ? 奥さんに確認したのか?」

「俺もフィアも、他に家族はいない」

 息を飲むベルンドゥアン。
 ここに至って、ようやく、俺がどういう人間が思い出してくれたらしい。

「ベルンドゥアンは、俺とフィアの大切な時間を奪うつもりか?」

 まったく。

 話し合いを持ちたいと言ってるのは、そっちの勝手。

 こっちにしてみれば、話し合いを持たされる上、フィアとの時間も削られる。譲歩してさらに譲歩する状況だ。

 普通、断られるだろ。

「そうでなくても、第四師団問題で残業続き。フィアとの大切な時間が削られる一方だというのに」

「落ち着け、ドラグニール。そんなつもりじゃない」

「なら、いい。それに今日はお前の個人的な話で呼んだ訳じゃない」

「そうだったな」

 はぁ。

 ため息を一つ付き、俺たちは本題へと入った。




 第四師団の支援については、第六師団が受け持つ予定だった部分も含めて、すべて、第二師団が受け持つこととなった。

 第四師団は第八師団とも問題を起こしていたので、そっちも、第二師団持ちだという。

 ま、そんなとこだよな。

 あの第四師団の連中。

 実力者と言われるやつらはスヴェートに引き抜かれたか、命を落としたか。
 なので、残っているのは中途半端なやつらばかりだ。それでいて態度はデカい。

 そもそも、俺たちや第八師団とそりが合うわけがない。

 紫竜も仕事とはいえ大変だよな、あんな使えない連中たちの相手をするなんて。

 紫竜からは、無法者のような第六師団の連中を相手にする方が大変だと言われたが、意味が分からない。

 ともあれ、話し合いも無事に終わって、席を立とうとしたとき、ベルンドゥアンの合図で誰かが入室してきた。

「失礼いたします」

 入り口付近から聞こえる声を聞き、俺はあからさまに表情を消す。

 はぁ。

 わざわざ、声のする方を見ないでも分かる。この声は、

「ジンクレスト・ベルンドゥアンです」

 元護衛、ドゥアン卿だ。

 俺はあの小柄な美少年顔を思い浮かべて、顔を歪めた。
 本名のベルンドゥアンを名乗っている。
 グランフレイムの騎士としてではなく、ベルンドゥアンとしてやってきたのか。

 臆することもなく、ムカつく元護衛が俺に話しかける。

「ドラグニール師団長、ネージュ様に会わせてください」

「追い出せ」

「私がネージュ様にお会いしても、困ることなどないはずですよね」

「関係者以外は立ち入り禁止だ」

「困ることがなければ、お会いしても問題ないでしょう?」

 俺とムカつく元護衛とのやりとりを見て、困ったような顔をする第二師団長。

「ベルンドゥアン、関係ないやつは連れてくるな」

「ドラグニール、ジンだけでも会わせてもらえないか?」

 傷ついたような顔で懇願してきやがる。

 なんだ、その被害者面は。どっちかと言えば被害者はこっちだぞ。

 しつこく面会の申請書やら書状やら送りつけやがって。フィアに見つからないように処理しているこっちの手間も考えてもらいたい。

「ァア? お前ら、バカか?」

 それに要求がムチャクチャだ。

「自分の伴侶を、他の男に会わせる竜種なんて、いるわけないだろうが」

「しかし、ドラグニール」

 ドカーーーン

 派手な音に身体をビクリとさせる二人のベルンドゥアン。
 この程度でビクビクしてるようなら、まだまだだな。

「俺で良かったな、ベルンドゥアン。金竜なら、口にしたとたん殴り飛ばされるぞ」

 金竜は俺と違って、短気で血の気が多い。金竜相手なら、こんな穏やかに話し合うことなどできないからな。

 銀竜も穏やかに見えて物騒だからな。銀竜なら即氷漬けか、この世から消されるかのどっちかだな。

 本当にこいつらは運がいい。

「俺は温厚だからな」

 俺は第二師団長の目を見つめたまま、ゆっくりテーブルから拳を引き抜いた。

 脇にいる元護衛には目もくれない。

「無礼は机一つで我慢してやる」

 ガタガタと音がして、テーブルだったものが床に散らばった。
 俺は残骸を片付けるように指示して、その場を後にする。

 はぁ。
 この調子だと、まだまだ絡まれるな。

 今日、何度目かのため息が出てきた。

 まぁ、いい。

 何度絡まれようとも、フィアの伴侶はこの俺だ。この座を誰にも譲る気はない。
 しつこく絡みつくやつは、根こそぎ始末するだけ。

 そう心に誓って、俺はフィアの待つ師団長室に戻っていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。 番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています 6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜
恋愛
 王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。 そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。  ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。  その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。  しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

愛する貴方の愛する彼女の愛する人から愛されています

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「ユスティーナ様、ごめんなさい。今日はレナードとお茶をしたい気分だからお借りしますね」 先に彼とお茶の約束していたのは私なのに……。 「ジュディットがどうしても二人きりが良いと聞かなくてな」「すまない」貴方はそう言って、婚約者の私ではなく、何時も彼女を優先させる。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 公爵令嬢のユスティーナには愛する婚約者の第二王子であるレナードがいる。 だがレナードには、恋慕する女性がいた。その女性は侯爵令嬢のジュディット。絶世の美女と呼ばれている彼女は、彼の兄である王太子のヴォルフラムの婚約者だった。 そんなジュディットは、事ある事にレナードの元を訪れてはユスティーナとレナードとの仲を邪魔してくる。だがレナードは彼女を諌めるどころか、彼女を庇い彼女を何時も優先させる。例えユスティーナがレナードと先に約束をしていたとしても、ジュディットが一言言えば彼は彼女の言いなりだ。だがそんなジュディットは、実は自分の婚約者のヴォルフラムにぞっこんだった。だがしかし、ヴォルフラムはジュディットに全く関心がないようで、相手にされていない。どうやらヴォルフラムにも別に想う女性がいるようで……。

公爵令嬢 メアリの逆襲 ~魔の森に作った湯船が 王子 で溢れて困ってます~

薄味メロン
恋愛
 HOTランキング 1位 (2019.9.18)  お気に入り4000人突破しました。  次世代の王妃と言われていたメアリは、その日、すべての地位を奪われた。  だが、誰も知らなかった。 「荷物よし。魔力よし。決意、よし!」 「出発するわ! 目指すは源泉掛け流し!」  メアリが、追放の準備を整えていたことに。

処理中です...