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4 騎士と破壊のお姫さま編
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第六師団と第二師団とで、半壊した第四師団をめぐっての話し合いがもたれる予定の日。
約束の時間より三十分も早く、ベルンドゥアン師団長の来訪を受けた。
はぁ。
俺は、何度、同じ話を聞かされないといけないんだ?
こいつもこいつだ。いつまで自慢の甥とやらの話を優先させるつもりだ?
いい加減にしてもらいたいものだ。
「ドラグニール、少しでいいんだ。話をする時間を取ってほしい」
「必要ない」
「このままじゃ、お互いにスッキリしないと思わないか?」
「思わないな」
「それはお前だけだろう。お前の奥さんだって家族や親族が気になるだろうし」
「それはないぞ」
必死に訴えるベルンドゥアンに対して、面倒なので手短に返す。
「どうして、そう言えるんだ? 奥さんに確認したのか?」
「俺もフィアも、他に家族はいない」
息を飲むベルンドゥアン。
ここに至って、ようやく、俺がどういう人間が思い出してくれたらしい。
「ベルンドゥアンは、俺とフィアの大切な時間を奪うつもりか?」
まったく。
話し合いを持ちたいと言ってるのは、そっちの勝手。
こっちにしてみれば、話し合いを持たされる上、フィアとの時間も削られる。譲歩してさらに譲歩する状況だ。
普通、断られるだろ。
「そうでなくても、第四師団問題で残業続き。フィアとの大切な時間が削られる一方だというのに」
「落ち着け、ドラグニール。そんなつもりじゃない」
「なら、いい。それに今日はお前の個人的な話で呼んだ訳じゃない」
「そうだったな」
はぁ。
ため息を一つ付き、俺たちは本題へと入った。
第四師団の支援については、第六師団が受け持つ予定だった部分も含めて、すべて、第二師団が受け持つこととなった。
第四師団は第八師団とも問題を起こしていたので、そっちも、第二師団持ちだという。
ま、そんなとこだよな。
あの第四師団の連中。
実力者と言われるやつらはスヴェートに引き抜かれたか、命を落としたか。
なので、残っているのは中途半端なやつらばかりだ。それでいて態度はデカい。
そもそも、俺たちや第八師団とそりが合うわけがない。
紫竜も仕事とはいえ大変だよな、あんな使えない連中たちの相手をするなんて。
紫竜からは、無法者のような第六師団の連中を相手にする方が大変だと言われたが、意味が分からない。
ともあれ、話し合いも無事に終わって、席を立とうとしたとき、ベルンドゥアンの合図で誰かが入室してきた。
「失礼いたします」
入り口付近から聞こえる声を聞き、俺はあからさまに表情を消す。
はぁ。
わざわざ、声のする方を見ないでも分かる。この声は、
「ジンクレスト・ベルンドゥアンです」
元護衛、ドゥアン卿だ。
俺はあの小柄な美少年顔を思い浮かべて、顔を歪めた。
本名のベルンドゥアンを名乗っている。
グランフレイムの騎士としてではなく、ベルンドゥアンとしてやってきたのか。
臆することもなく、ムカつく元護衛が俺に話しかける。
「ドラグニール師団長、ネージュ様に会わせてください」
「追い出せ」
「私がネージュ様にお会いしても、困ることなどないはずですよね」
「関係者以外は立ち入り禁止だ」
「困ることがなければ、お会いしても問題ないでしょう?」
俺とムカつく元護衛とのやりとりを見て、困ったような顔をする第二師団長。
「ベルンドゥアン、関係ないやつは連れてくるな」
「ドラグニール、ジンだけでも会わせてもらえないか?」
傷ついたような顔で懇願してきやがる。
なんだ、その被害者面は。どっちかと言えば被害者はこっちだぞ。
しつこく面会の申請書やら書状やら送りつけやがって。フィアに見つからないように処理しているこっちの手間も考えてもらいたい。
「ァア? お前ら、バカか?」
それに要求がムチャクチャだ。
「自分の伴侶を、他の男に会わせる竜種なんて、いるわけないだろうが」
「しかし、ドラグニール」
ドカーーーン
派手な音に身体をビクリとさせる二人のベルンドゥアン。
この程度でビクビクしてるようなら、まだまだだな。
「俺で良かったな、ベルンドゥアン。金竜なら、口にしたとたん殴り飛ばされるぞ」
金竜は俺と違って、短気で血の気が多い。金竜相手なら、こんな穏やかに話し合うことなどできないからな。
銀竜も穏やかに見えて物騒だからな。銀竜なら即氷漬けか、この世から消されるかのどっちかだな。
本当にこいつらは運がいい。
「俺は温厚だからな」
俺は第二師団長の目を見つめたまま、ゆっくりテーブルから拳を引き抜いた。
脇にいる元護衛には目もくれない。
「無礼は机一つで我慢してやる」
ガタガタと音がして、テーブルだったものが床に散らばった。
俺は残骸を片付けるように指示して、その場を後にする。
はぁ。
この調子だと、まだまだ絡まれるな。
今日、何度目かのため息が出てきた。
まぁ、いい。
何度絡まれようとも、フィアの伴侶はこの俺だ。この座を誰にも譲る気はない。
しつこく絡みつくやつは、根こそぎ始末するだけ。
そう心に誓って、俺はフィアの待つ師団長室に戻っていった。
約束の時間より三十分も早く、ベルンドゥアン師団長の来訪を受けた。
はぁ。
俺は、何度、同じ話を聞かされないといけないんだ?
こいつもこいつだ。いつまで自慢の甥とやらの話を優先させるつもりだ?
いい加減にしてもらいたいものだ。
「ドラグニール、少しでいいんだ。話をする時間を取ってほしい」
「必要ない」
「このままじゃ、お互いにスッキリしないと思わないか?」
「思わないな」
「それはお前だけだろう。お前の奥さんだって家族や親族が気になるだろうし」
「それはないぞ」
必死に訴えるベルンドゥアンに対して、面倒なので手短に返す。
「どうして、そう言えるんだ? 奥さんに確認したのか?」
「俺もフィアも、他に家族はいない」
息を飲むベルンドゥアン。
ここに至って、ようやく、俺がどういう人間が思い出してくれたらしい。
「ベルンドゥアンは、俺とフィアの大切な時間を奪うつもりか?」
まったく。
話し合いを持ちたいと言ってるのは、そっちの勝手。
こっちにしてみれば、話し合いを持たされる上、フィアとの時間も削られる。譲歩してさらに譲歩する状況だ。
普通、断られるだろ。
「そうでなくても、第四師団問題で残業続き。フィアとの大切な時間が削られる一方だというのに」
「落ち着け、ドラグニール。そんなつもりじゃない」
「なら、いい。それに今日はお前の個人的な話で呼んだ訳じゃない」
「そうだったな」
はぁ。
ため息を一つ付き、俺たちは本題へと入った。
第四師団の支援については、第六師団が受け持つ予定だった部分も含めて、すべて、第二師団が受け持つこととなった。
第四師団は第八師団とも問題を起こしていたので、そっちも、第二師団持ちだという。
ま、そんなとこだよな。
あの第四師団の連中。
実力者と言われるやつらはスヴェートに引き抜かれたか、命を落としたか。
なので、残っているのは中途半端なやつらばかりだ。それでいて態度はデカい。
そもそも、俺たちや第八師団とそりが合うわけがない。
紫竜も仕事とはいえ大変だよな、あんな使えない連中たちの相手をするなんて。
紫竜からは、無法者のような第六師団の連中を相手にする方が大変だと言われたが、意味が分からない。
ともあれ、話し合いも無事に終わって、席を立とうとしたとき、ベルンドゥアンの合図で誰かが入室してきた。
「失礼いたします」
入り口付近から聞こえる声を聞き、俺はあからさまに表情を消す。
はぁ。
わざわざ、声のする方を見ないでも分かる。この声は、
「ジンクレスト・ベルンドゥアンです」
元護衛、ドゥアン卿だ。
俺はあの小柄な美少年顔を思い浮かべて、顔を歪めた。
本名のベルンドゥアンを名乗っている。
グランフレイムの騎士としてではなく、ベルンドゥアンとしてやってきたのか。
臆することもなく、ムカつく元護衛が俺に話しかける。
「ドラグニール師団長、ネージュ様に会わせてください」
「追い出せ」
「私がネージュ様にお会いしても、困ることなどないはずですよね」
「関係者以外は立ち入り禁止だ」
「困ることがなければ、お会いしても問題ないでしょう?」
俺とムカつく元護衛とのやりとりを見て、困ったような顔をする第二師団長。
「ベルンドゥアン、関係ないやつは連れてくるな」
「ドラグニール、ジンだけでも会わせてもらえないか?」
傷ついたような顔で懇願してきやがる。
なんだ、その被害者面は。どっちかと言えば被害者はこっちだぞ。
しつこく面会の申請書やら書状やら送りつけやがって。フィアに見つからないように処理しているこっちの手間も考えてもらいたい。
「ァア? お前ら、バカか?」
それに要求がムチャクチャだ。
「自分の伴侶を、他の男に会わせる竜種なんて、いるわけないだろうが」
「しかし、ドラグニール」
ドカーーーン
派手な音に身体をビクリとさせる二人のベルンドゥアン。
この程度でビクビクしてるようなら、まだまだだな。
「俺で良かったな、ベルンドゥアン。金竜なら、口にしたとたん殴り飛ばされるぞ」
金竜は俺と違って、短気で血の気が多い。金竜相手なら、こんな穏やかに話し合うことなどできないからな。
銀竜も穏やかに見えて物騒だからな。銀竜なら即氷漬けか、この世から消されるかのどっちかだな。
本当にこいつらは運がいい。
「俺は温厚だからな」
俺は第二師団長の目を見つめたまま、ゆっくりテーブルから拳を引き抜いた。
脇にいる元護衛には目もくれない。
「無礼は机一つで我慢してやる」
ガタガタと音がして、テーブルだったものが床に散らばった。
俺は残骸を片付けるように指示して、その場を後にする。
はぁ。
この調子だと、まだまだ絡まれるな。
今日、何度目かのため息が出てきた。
まぁ、いい。
何度絡まれようとも、フィアの伴侶はこの俺だ。この座を誰にも譲る気はない。
しつこく絡みつくやつは、根こそぎ始末するだけ。
そう心に誓って、俺はフィアの待つ師団長室に戻っていった。
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