196 / 384
4 騎士と破壊のお姫さま編
3-9
しおりを挟む
視界が回復すると、私を突き刺していた三番目の槍はすべて、跡形もなく消え失せていた。
むーっと上半身を起こし、槍が突き刺さっていたであろう部分を見る。
あれほど焼けるような痛みで苛まされていたのに、傷ひとつない。もちろん、痛みもまったく残っていない。
「な!」
三番目の悲鳴のような声が聞こえた。
そんなのより、まずは自分の身体の確認をしないと。
上半身を起こした状態のままで、手のひらを握ったり開いたりしてみる。
うん、問題ないな。
「な、なんだよこれは!」
騒ぐ声は後回しにして、私はゆっくりと立ち上がってみた。片足ずつ、とんとん、とんとんと床を蹴ってみる。
うん、問題ないな。
「どういうことだよ!」
両腕をぐるんと回して、さらに上に伸びた。背中の翼も大きく広げたり、閉じたりしてみる。
うん、問題ないない。
「おい、四番目!」
ここで、さっきから騒ぎまくる声の方に顔を向けた。
そこには、紅の鎖に巻きつかれ、締め上げられている三番目の姿があった。
形勢逆転というやつだよね。
「大袈裟だなぁ」
うん、口も塞いどけば良かったな。
ちょっとだけ、最後のやつを発動させなかったことを後悔する。
「ラウのために作ったんだけど、けっこう役に立つね、これ」
そう。
三番目の魔力を打ち消し、さらには三番目の動きを封じたのは、腰につけていた大きい方の組み紐飾りだったのだ。
ラウとお揃いで作ったこの組み紐飾り。
小さい方は通信用の魔道具で、大きい方は護身用の魔道具になっている。
すっかり服のアクセサリーと化していて、魔道具だってことは、キレイさっぱり忘れていたけど。
まぁ、いざというときに役立ってこその護身用。これでラウの安全も問題ないに違いない。
「なんだよ、それ!」
「ラウが危なくないようにと思って」
私はお揃いで作った当時を思い出す。
「《魔力封印》と《捕縛》と《劫火》。三つの魔法陣を組み込んだ、護身用の魔道具を作ったんだよね!」
えへん、と自慢げに胸を張ってみた。
魔道具作りの基礎は、ナルフェブル補佐官に教えてもらった。
簡単に作れると思った魔道具は、意外と大変だった。普通に発動させる魔法陣とはまた、描き方が少し違う。
仕組みとコツを教えてもらっても、なかなか思い通りに動かない。
とくに大変だったのは小さい方。こっちはお手本にするものがなく、一から作ったので苦労した。
それでも、無事に作り上げられて、きちんと発動できて。
ナルフェブル補佐官には、初めての魔道具作りでここまでできれば十分だと、誉めてもらって。
魔道具作りのおもしろさが、ちょっと分かったような気がした。
大満足の私に対して、三番目はなんだか不満げ、というか恐ろしげな顔をする。
「それって、相手の魔力を封じて、身柄を拘束して、最後に劫火をぶち込むってことか?! 防御も逃亡もできなけりゃ、相手、死ぬだろ!」
「大丈夫。無力化できれば劫火は発動しないようになってるし」
そういえば、と当時を思い出す。
出来上がりを確認してもらおうと、試しにぜんぶ発動させてみせたら、ナルフェブル補佐官、なんだか、青い顔をしてたな。
テラには発動したところ見せたことないのに、魔道具を一目見るなり、許可なく二度と作るなって言われたな。
「それって、護身用じゃなくて思いっきり攻撃用だぞ。しかも災害級。そんな魔道具、トカゲに要るか? 絶対に要らんだろ!」
「えー、ラウに何かあったら心配だから」
そう言って、紅の鎖を引っ張ると、三番目から「ぐえっ」と音がする。
ふん、いい気味だ。
「最近は、迷惑な赤種もいることだしね」
「冗談だろ。オレの魔法が。権能が」
鎖で締め上げられたまま、愕然とした顔をする三番目。
裸で裸足で、直に微妙な丈の外套を着てて、鎖でぐるぐる巻き。もう、見た目が完全にヤバい人。
正直、こんなのと同種だなんて思われたくない。
私の心の中の感想はともかく、三番目はかなり衝撃を受けたようだった。
「『変化』を『破壊』するだなんて」
ある意味、三番目の権能は万能だ。
創造も、進化も、破壊も、終焉も、すべては変化の一種に過ぎないのだから。
それゆえ、すべてを兼ね備えているからこそ、特化された権能には敵わない。
「現実は直視しないとね」
私は六枚の翼を大きく広げる。
ここは時空の狭間。神様しかいない場所。
ここなら多少、魔力操作や魔力制御を失敗しても大丈夫だろう。多少、暴走しても問題ないだろう。
三番目を見て、思わず笑みがこぼれる。
「まさか、オレに破壊の力を使う気じゃないよな?」
「先に力を使ったのはそっちだよね?」
自分の行動を完全に無視した三番目の質問に、私は質問を返した。
すでに手には破壊の大鎌がある。
「うぐ…………」
「さぁ、これで終わり」
存分に恐怖を味わってもらうべく、私はゆっくりゆっくり、三番目に歩み寄る。
紅の鎖は、身体の動きを封じるだけじゃない。魔力の動きも封じてくれる。
三番目は動けないだけでなく、権能も一切使えない。
私だって、さっき散々やられたんだ。
手にした大鎌を振り上げた瞬間、
「止メナサイ」
私と三番目の間に、突然、白い猫が現れた。
むーっと上半身を起こし、槍が突き刺さっていたであろう部分を見る。
あれほど焼けるような痛みで苛まされていたのに、傷ひとつない。もちろん、痛みもまったく残っていない。
「な!」
三番目の悲鳴のような声が聞こえた。
そんなのより、まずは自分の身体の確認をしないと。
上半身を起こした状態のままで、手のひらを握ったり開いたりしてみる。
うん、問題ないな。
「な、なんだよこれは!」
騒ぐ声は後回しにして、私はゆっくりと立ち上がってみた。片足ずつ、とんとん、とんとんと床を蹴ってみる。
うん、問題ないな。
「どういうことだよ!」
両腕をぐるんと回して、さらに上に伸びた。背中の翼も大きく広げたり、閉じたりしてみる。
うん、問題ないない。
「おい、四番目!」
ここで、さっきから騒ぎまくる声の方に顔を向けた。
そこには、紅の鎖に巻きつかれ、締め上げられている三番目の姿があった。
形勢逆転というやつだよね。
「大袈裟だなぁ」
うん、口も塞いどけば良かったな。
ちょっとだけ、最後のやつを発動させなかったことを後悔する。
「ラウのために作ったんだけど、けっこう役に立つね、これ」
そう。
三番目の魔力を打ち消し、さらには三番目の動きを封じたのは、腰につけていた大きい方の組み紐飾りだったのだ。
ラウとお揃いで作ったこの組み紐飾り。
小さい方は通信用の魔道具で、大きい方は護身用の魔道具になっている。
すっかり服のアクセサリーと化していて、魔道具だってことは、キレイさっぱり忘れていたけど。
まぁ、いざというときに役立ってこその護身用。これでラウの安全も問題ないに違いない。
「なんだよ、それ!」
「ラウが危なくないようにと思って」
私はお揃いで作った当時を思い出す。
「《魔力封印》と《捕縛》と《劫火》。三つの魔法陣を組み込んだ、護身用の魔道具を作ったんだよね!」
えへん、と自慢げに胸を張ってみた。
魔道具作りの基礎は、ナルフェブル補佐官に教えてもらった。
簡単に作れると思った魔道具は、意外と大変だった。普通に発動させる魔法陣とはまた、描き方が少し違う。
仕組みとコツを教えてもらっても、なかなか思い通りに動かない。
とくに大変だったのは小さい方。こっちはお手本にするものがなく、一から作ったので苦労した。
それでも、無事に作り上げられて、きちんと発動できて。
ナルフェブル補佐官には、初めての魔道具作りでここまでできれば十分だと、誉めてもらって。
魔道具作りのおもしろさが、ちょっと分かったような気がした。
大満足の私に対して、三番目はなんだか不満げ、というか恐ろしげな顔をする。
「それって、相手の魔力を封じて、身柄を拘束して、最後に劫火をぶち込むってことか?! 防御も逃亡もできなけりゃ、相手、死ぬだろ!」
「大丈夫。無力化できれば劫火は発動しないようになってるし」
そういえば、と当時を思い出す。
出来上がりを確認してもらおうと、試しにぜんぶ発動させてみせたら、ナルフェブル補佐官、なんだか、青い顔をしてたな。
テラには発動したところ見せたことないのに、魔道具を一目見るなり、許可なく二度と作るなって言われたな。
「それって、護身用じゃなくて思いっきり攻撃用だぞ。しかも災害級。そんな魔道具、トカゲに要るか? 絶対に要らんだろ!」
「えー、ラウに何かあったら心配だから」
そう言って、紅の鎖を引っ張ると、三番目から「ぐえっ」と音がする。
ふん、いい気味だ。
「最近は、迷惑な赤種もいることだしね」
「冗談だろ。オレの魔法が。権能が」
鎖で締め上げられたまま、愕然とした顔をする三番目。
裸で裸足で、直に微妙な丈の外套を着てて、鎖でぐるぐる巻き。もう、見た目が完全にヤバい人。
正直、こんなのと同種だなんて思われたくない。
私の心の中の感想はともかく、三番目はかなり衝撃を受けたようだった。
「『変化』を『破壊』するだなんて」
ある意味、三番目の権能は万能だ。
創造も、進化も、破壊も、終焉も、すべては変化の一種に過ぎないのだから。
それゆえ、すべてを兼ね備えているからこそ、特化された権能には敵わない。
「現実は直視しないとね」
私は六枚の翼を大きく広げる。
ここは時空の狭間。神様しかいない場所。
ここなら多少、魔力操作や魔力制御を失敗しても大丈夫だろう。多少、暴走しても問題ないだろう。
三番目を見て、思わず笑みがこぼれる。
「まさか、オレに破壊の力を使う気じゃないよな?」
「先に力を使ったのはそっちだよね?」
自分の行動を完全に無視した三番目の質問に、私は質問を返した。
すでに手には破壊の大鎌がある。
「うぐ…………」
「さぁ、これで終わり」
存分に恐怖を味わってもらうべく、私はゆっくりゆっくり、三番目に歩み寄る。
紅の鎖は、身体の動きを封じるだけじゃない。魔力の動きも封じてくれる。
三番目は動けないだけでなく、権能も一切使えない。
私だって、さっき散々やられたんだ。
手にした大鎌を振り上げた瞬間、
「止メナサイ」
私と三番目の間に、突然、白い猫が現れた。
10
お気に入りに追加
230
あなたにおすすめの小説
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
家出した伯爵令嬢【完結済】
弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。
番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています
6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております
「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~
卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」
絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。
だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。
ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。
なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!?
「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」
書き溜めがある内は、1日1~話更新します
それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります
*仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。
*ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。
*コメディ強めです。
*hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!
【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?
雨宮羽那
恋愛
元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。
◇◇◇◇
名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。
自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。
運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!
なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!?
◇◇◇◇
お気に入り登録、エールありがとうございます♡
※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。
※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。
※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。
完菜
恋愛
王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。
そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。
ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。
その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。
しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)
公爵令嬢 メアリの逆襲 ~魔の森に作った湯船が 王子 で溢れて困ってます~
薄味メロン
恋愛
HOTランキング 1位 (2019.9.18)
お気に入り4000人突破しました。
次世代の王妃と言われていたメアリは、その日、すべての地位を奪われた。
だが、誰も知らなかった。
「荷物よし。魔力よし。決意、よし!」
「出発するわ! 目指すは源泉掛け流し!」
メアリが、追放の準備を整えていたことに。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる