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4 騎士と破壊のお姫さま編

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 視界が回復すると、私を突き刺していた三番目の槍はすべて、跡形もなく消え失せていた。

 むーっと上半身を起こし、槍が突き刺さっていたであろう部分を見る。
 あれほど焼けるような痛みで苛まされていたのに、傷ひとつない。もちろん、痛みもまったく残っていない。

「な!」

 三番目の悲鳴のような声が聞こえた。

 そんなのより、まずは自分の身体の確認をしないと。

 上半身を起こした状態のままで、手のひらを握ったり開いたりしてみる。
 うん、問題ないな。

「な、なんだよこれは!」

 騒ぐ声は後回しにして、私はゆっくりと立ち上がってみた。片足ずつ、とんとん、とんとんと床を蹴ってみる。
 うん、問題ないな。

「どういうことだよ!」

 両腕をぐるんと回して、さらに上に伸びた。背中の翼も大きく広げたり、閉じたりしてみる。
 うん、問題ないない。

「おい、四番目!」

 ここで、さっきから騒ぎまくる声の方に顔を向けた。

 そこには、紅の鎖に巻きつかれ、締め上げられている三番目の姿があった。
 形勢逆転というやつだよね。

「大袈裟だなぁ」

 うん、口も塞いどけば良かったな。
 ちょっとだけ、最後のやつを発動させなかったことを後悔する。

「ラウのために作ったんだけど、けっこう役に立つね、これ」

 そう。

 三番目の魔力を打ち消し、さらには三番目の動きを封じたのは、腰につけていた大きい方の組み紐飾りだったのだ。

 ラウとお揃いで作ったこの組み紐飾り。

 小さい方は通信用の魔道具で、大きい方は護身用の魔道具になっている。

 すっかり服のアクセサリーと化していて、魔道具だってことは、キレイさっぱり忘れていたけど。

 まぁ、いざというときに役立ってこその護身用。これでラウの安全も問題ないに違いない。

「なんだよ、それ!」

「ラウが危なくないようにと思って」

 私はお揃いで作った当時を思い出す。

「《魔力封印》と《捕縛》と《劫火》。三つの魔法陣を組み込んだ、護身用の魔道具を作ったんだよね!」

 えへん、と自慢げに胸を張ってみた。

 魔道具作りの基礎は、ナルフェブル補佐官に教えてもらった。

 簡単に作れると思った魔道具は、意外と大変だった。普通に発動させる魔法陣とはまた、描き方が少し違う。
 仕組みとコツを教えてもらっても、なかなか思い通りに動かない。

 とくに大変だったのは小さい方。こっちはお手本にするものがなく、一から作ったので苦労した。

 それでも、無事に作り上げられて、きちんと発動できて。
 ナルフェブル補佐官には、初めての魔道具作りでここまでできれば十分だと、誉めてもらって。

 魔道具作りのおもしろさが、ちょっと分かったような気がした。

 大満足の私に対して、三番目はなんだか不満げ、というか恐ろしげな顔をする。

「それって、相手の魔力を封じて、身柄を拘束して、最後に劫火をぶち込むってことか?! 防御も逃亡もできなけりゃ、相手、死ぬだろ!」

「大丈夫。無力化できれば劫火は発動しないようになってるし」

 そういえば、と当時を思い出す。

 出来上がりを確認してもらおうと、試しにぜんぶ発動させてみせたら、ナルフェブル補佐官、なんだか、青い顔をしてたな。

 テラには発動したところ見せたことないのに、魔道具を一目見るなり、許可なく二度と作るなって言われたな。

「それって、護身用じゃなくて思いっきり攻撃用だぞ。しかも災害級。そんな魔道具、トカゲに要るか? 絶対に要らんだろ!」

「えー、ラウに何かあったら心配だから」

 そう言って、紅の鎖を引っ張ると、三番目から「ぐえっ」と音がする。

 ふん、いい気味だ。

「最近は、迷惑な赤種もいることだしね」

「冗談だろ。オレの魔法が。権能が」

 鎖で締め上げられたまま、愕然とした顔をする三番目。

 裸で裸足で、直に微妙な丈の外套を着てて、鎖でぐるぐる巻き。もう、見た目が完全にヤバい人。
 正直、こんなのと同種だなんて思われたくない。

 私の心の中の感想はともかく、三番目はかなり衝撃を受けたようだった。

「『変化』を『破壊』するだなんて」

 ある意味、三番目の権能は万能だ。
 創造も、進化も、破壊も、終焉も、すべては変化の一種に過ぎないのだから。

 それゆえ、すべてを兼ね備えているからこそ、特化された権能には敵わない。

「現実は直視しないとね」

 私は六枚の翼を大きく広げる。

 ここは時空の狭間。神様しかいない場所。
 ここなら多少、魔力操作や魔力制御を失敗しても大丈夫だろう。多少、暴走しても問題ないだろう。

 三番目を見て、思わず笑みがこぼれる。

「まさか、オレに破壊の力を使う気じゃないよな?」

「先に力を使ったのはそっちだよね?」

 自分の行動を完全に無視した三番目の質問に、私は質問を返した。

 すでに手には破壊の大鎌がある。

「うぐ…………」

「さぁ、これで終わり」

 存分に恐怖を味わってもらうべく、私はゆっくりゆっくり、三番目に歩み寄る。

 紅の鎖は、身体の動きを封じるだけじゃない。魔力の動きも封じてくれる。
 三番目は動けないだけでなく、権能も一切使えない。

 私だって、さっき散々やられたんだ。

 手にした大鎌を振り上げた瞬間、

「止メナサイ」

 私と三番目の間に、突然、白い猫が現れた。
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