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4 騎士と破壊のお姫さま編

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「それで、劇はどうでしたの?」

 デートの翌日。

 第六師団にラウと出勤すると、ルミアーナさんが勢いよく話しかけてきた。

 私は目を閉じて昨日の観劇を思い起こすと、昨日の興奮が蘇ってくる。

「すごくすごく良かった!」

「ですわよね。それで、占い師には会えましたの?」

「それなんだけどね……」

 観劇の後、ラウといっしょに市場通りに繰り出した。
 必要としている人にだけ、たどり着けるという占い師のお店を探しに。

 お昼時だったので、市場の屋台からはいい匂いがして、あちこち、ラウと覗いて回ったのも、とても楽しかった。

 少し休憩しようと、少し暗い脇道に入ったところで、そのお店が目の前にあった。

 よく当たる人気の占い師のお店。

 いっけん普通の家のような感じで何かが違う、そんな場所だった。

『あなたの運と未来を教えます』

 扉にはそんな文言が書かれた紙がペラッと貼ってあるだけ。とても大人気とは思えない外観で、逆に興味をそそられた。

 人気の占い師って、いったいどんな人なんだろう。

 扉に手をかけて中に入ると、そこには……

「ほわほわちゃんに、クルクルちゃん!」

 突然、賑やかな声がかけられ、私の思考はそこで停止した。
 声の主は、観劇のチケットでお世話になったあの人だ。

「エルヴェスさん」

 ラウの話だと、エルヴェスさんがシュタムの会長夫人その人だそうなんだけど、どこからどう見ても、エルヴェスさんだ。

 かわいい女の子が大好きで、かわいい男の子も大好きで、優秀な人も大好きで、ふだんはちょっとカタコトっぽい喋り方をするエルヴェスさん。

 第六師団ではラウ直属の副官を勤め、特務部隊と情報部隊のトップとして統括する。

 とても、大グループの会長夫人には見えない。

 ふだんほとんど会わないので鑑定したこともなかったから、結婚してただなんて知らなかった。エルヴェスさんは謎が多い。

 その謎多き女性、エルヴェスさんが声をかけてきた。

「観劇はドーだったかしらー」

「すごくすごく良かったです!」

 劇も良かったし、劇場も良かった。
 観劇した席なんて、特別観覧席の最特上。まさに夢心地だ。

「ソーでしょー、ソーでしょー 自信作ナノよねー」

「え? まさか、お話作ったの、エルヴェスさん?」

「ウヘ」

 第六師団の仕事をしながら、劇場の方も携わってるわけ?!

 凄すぎる!と言おうとしたタイミングで、横から冷めた声がかかった。

「違うっす」

 エルヴェスさんの補佐を勤める補佐一号さんだ。二号さんもいる。

「ウヘヘヘヘ」

 変な笑い声をあげるエルヴェスさんを横目に見ながら、一号さんが説明を始めた。

「エルヴェス副官、元々は黒竜録を複製して大儲けしようとしてたんすけど、あれ、重要資料なんで持ち出し禁止なんすよね」

「うん、知ってる」

 エルヴェスさんの大儲け計画が頓挫した話はラウから聞いた。エルヴェスさんは、竜種の稀少記録が重要資料になることを知らなかったらしい。

「舞台化しようとしたら、題名からして世界が滅びそうだったので。自分で作るのは諦めて、協力者に原作を依頼したんです」

「あら! 原作者がいらっしゃるのね!」

「それで、その協力者に原作となるお話を書いてもらったんすよ。その話を脚色して舞台化したのが、今回の劇ってことで」

「へー、手が掛かってる」

 エルヴェスさんが作ったのではないにしろ、原作者がいて、脚本家がいて、いろいろな人がいて、あの劇ができたんだ。

 師団の仕事もそうだけど、いろいろな人が自分の仕事をきっちりこなして、それで全体が上手くいく。

 あの劇も様々な人が携わって、あの規模のものになったのだと思うと感慨深い。

 いろいろな感傷に浸っている私そっちのけで、エルヴェスさんは衝撃的なひとことを放った。

「だから原作料、支払わないといけないのよね、チビッコに」

「「チビッコ?」」

 私とルミアーナさんの動きがピタッと止まる。
 ギギギっという感じで、ゆっくり首を動かして、お互いを見る。

 最初に口を開いたのはルミアーナさんだ。

「クロスフィアさん、エルヴェス副官の言う『チビッコ』はバーミリオン様ではなくて?」

「そうだと思う」

 ルミアーナさんのヒソヒソ声を聞き、ルミアーナさんも私と同じ事を考えていたんだなーと再認識。

 だよね。エルヴェスさんがチビッコって言ったら、間違いなくテラのことだよね。

 て、マジか。テラが原作者か。

「クロスフィアさん、バーミリオン様はお話なんて書いてらっしゃるのかしら?」

「創造の赤種だから、創作もできるんじゃないかな」

 テラが作家活動してるだなんて聞いたことがない。

 でも、私が知らないだけで、こっそりやっていたのかな。

 何しろ、テラは創造の権能があり、過去の様々な記憶がある。過去の実話を基にしてお話を書いていても、おかしくはない。

「クロスフィアさん、バーミリオン様がお話の原作料なんて請求されるかしら?」

「するね、絶対」

 大神殿の人たちって基本的に、寄付金大好き人間だ。 

 神官長からして、お金大好き人間の匂いがする。テラがあの神官長に影響されていても不思議ではない。

「ウヘヘヘヘ」

 エルヴェスさんはエルヴェスさんで、奇妙な笑い声をあげているし。
 うん、本当に会長夫人なのか怪しくなってきた。

「創造の赤種って人気作の創作もバッチリよねー もうガポガポだわー」

 あの劇で、かなり儲けているらしい。
 エルヴェスさんが満面の笑みを浮かべている。まるで、お金の魔力に取り付かれた人のようだ。

「ちなみに、原作料は純利益の三割よー」

「お金で手を打ったんだね、テラ」

 テラもか。テラも取り付かれていたか。

「本物の黒竜と破壊の赤種も観劇したって話題だしー さらに人気急上昇よー」

「え? 私たち、お話と無関係だよ?」

 同じなのは、竜と破壊というところだけ。後はまったく違う。なのに、何が本物なのか、理解が追いつかない。

「世間一般では、バーミリオン様が創造したお話だなんて知らないっす」

「世間一般では、黒竜と破壊の赤種の実話を脚色して舞台化したと思われてます」

 いや、待って、そうなっちゃうの?
 それって、誰得?

 そんな話をここでされても!

 ここで騒いだり否定したりしたところで、世間一般の評価というものは変わりがないのは分かってるけど。

「ええー?」

「ウヘヘヘヘ」

 私の口からは抗議というか、なんでそんな話になるの?という不満を込めた悲鳴が溢れ、エルヴェスさんからはいつもの奇声が発せられ。

 ラウとカーネリウスさんが問題を抱えて帰ってくるまで、執務室は賑わっていたのだった。
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