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3 武道大会編

3-6

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 さぁ、決勝戦だ。

 スヴェートの騎士が整然とした動きで、試合場に登場する。

 身体の部分部分を覆う鎧をつけた出で立ち。各部分鎧にはスヴェート帝国の紋章が入っていた。
 軽装ではあるが、儀礼でも十分使えそうな仕様だ。
 部分鎧と同色の白銀の剣を身に付けている。

 騎士たちは、スヴェートではよくある、茶褐色の髪に同色の瞳。
 筋肉が付き過ぎもせず、かといって細くもなく、スラッとした三人が私たちの相手のようだ。

 エルメンティアの師団長がやられているのにも関わらず、スヴェート騎士チームの人気はまずまず。女性人気は上々。

 キャーーー

 観客席に向かって、スヴェート騎士が手を挙げたとたんに、この歓声。

 ムカッ

「なんで?」

 ムカムカッ

「ラウの方が何倍も格好いいのに!」

 納得がいかない。

 こっちが登場したときより、歓声が大きいだなんて!

「まぁ、あれだ。俺たちは既婚者だから」

 頭をポリポリと掻きながら、ちょっと顔を赤くしながら、ラウが解説をする。

「こういう大会は独身者の方が人気なんだよ、フィア」

「へー」

 なんだ。そうなんだ。

 さすが、毎年出場しているだけあって、ラウは詳しい。

「ラウは凄いね。なんでも知ってるんだね」

「ま、まぁな」

 頭をポリポリと掻きながら、さらに顔を赤くしながら、ラウが返事をする。

 さて、決勝戦だ。

 お互い所定の位置に立ち、開始の合図を待つ。

「フィア、無理はするなよ」

「分かった」

 相手は三人。ラウが二人と相対するとしても、もう一人は私の方に来るはず。

 下手をしたら、さっきの第四師団チームのように、私だけを狙ってくる。

 息を吐いた。

 次の瞬間、試合開始の合図が鳴り響く。

 ピィィィィーーー

 スッとラウが動いて、二人を相手取る。

 もう一人は?

 私の方へは来ないで、後ろに下がった。

 魔力を練っているのが視える。ただの騎士じゃない。魔導騎士だ。

 こっちだって、ラウは上位竜種。精霊魔法も扱えるし、精霊騎士との戦い方にも長けている。

 相手にとって不足はない。

「気をつけろ、四番目」

 突然、テラの声が聞こえた。

「詠唱魔法でしょ。問題ないわ」

 テラの声に返事を返すと、今度は予想外の言葉が聞こえてくる。

「魔力に混沌の気が混じってる」

「え?!」

「来るぞ」

 テラの言葉に慌てて、魔導騎士を視た。

 両手の手のひらを前に向けて、力のある言葉を唱える。

 魔法陣がない!

 しまった! 魔導具だ!

 瞬時に辺りに魔力を巡らせる。
 遅れて、魔導騎士の言葉が耳に入ってきた。

「《混乱》」

 え?

「「混乱魔法?!」」

 テラと私の声が重なる。

 混乱魔法は、名もなき混乱と感情の神から力を引き出して行使する魔法だ。
 その昔、文字通り、世界を混乱に陥れた元凶。

 名もなき混乱と感情の神は、混乱魔法の他、感情を操る精神魔法を司る。
 そのため、今でも、混乱魔法と精神魔法は禁忌とされる分野なのに。

「ぐっ」

「ラウ!」

 残りの二人が防壁の魔法を展開しながら、ラウに剣を振るう。
 魔導騎士に近づかせないつもりだ。

 観客席からは、叫び声に混じって、ググググと唸る声が聞こえてきた。

「なんだ、どうした?」

「これは、魔法?」

「しっかりしろ!」

 混乱魔法が観客席にも!

 今日の観客席は、師団に所属する騎士や職員、そして一般の観客で溢れかえっている。

 その中のあちこちから、意味の分からない唸り声と叫び声があがった。
 騎士もいれば、若い女性もいる。手当たり次第、周りの人に掴みかかっているのが見えた。

「ダメだ、正気じゃない」

「とにかく、押さえつけろ」

「ケガ人がいるぞ、慎重に運べ」

 被害が徐々に広がっていく。

 混乱して正気を失った人たちに加えて、白銀の部分鎧をつけた男たちが剣を振るい始めた。

 スヴェート騎士だ。

 混乱に乗じて攻撃してくるなんて。
 何が親善だ。

 確か、国王やテラも観客席に混じっているはず。

「テラ!」

「こっちは大丈夫だ」

 呼びかけにテラが不機嫌そうな声を返してきた。

「この規模は魔導具じゃないぞ、どこかに魔法陣があるはずだ」

「魔法陣なんてどこに?!」

「術者から見えるところだ。そこから視てみろ。国王は僕と舎弟で守ってるから」

 そんなこと言われたって。

「フィア!」

 急に、腕を引かれた。

 ラウ?

 ザシュッ!

 さっきまで私がいたところに、剣が振り下ろされる。

「ふぇえ?!」

「紫竜! しっかりしろ!」

 ラウが私の前に立ちふさがった状態で叫ぶ。ラウの背中しか見えないけど、第四師団長だ。

「ググググ」

 第四師団長が変な声をあげる。
 上位竜種まで、混乱した?!

 ガシーーーン

 剣戟が重い。
 ラウが防戦に追い込まれている。

 そっと、ラウの後ろから覗き見た第四師団長からは、変な声が漏れ出ていて。虚ろな目をラウに向けている。

 ゆらっと動く第四師団長。

 剣を振り上げ、そして、

 ドガッ

 いきなり真横に吹っ飛んだ。

 え?

「いったい、何がどうなってる?!」

「金竜!」

「紫竜のやつ、完全に意識が飛んでるな」

「銀竜!」

 どうやら、第五師団長と第七師団長が加勢に来てくれたらしいんだけど。

 うん、第四師団長、思いっきり吹っ飛んだよ。いいの、これ? 首、曲がってない?

 上位竜種は同種であろうと容赦ない。思わず戦慄する。

「紫竜はこっちに任せろ!」

「黒竜は、元凶の方を頼むよ」

 とはいえ、味方になってくれる分には心強い。

 術者である魔導騎士は、相変わらず、他のスヴェート騎士に守られた状態。

 団体戦のメンバー以外も集まっていて、さらに攻撃が通りづらくなっていた。

 にしても、

「なんで、第四師団長だけ」

 ラウ、第五、第七師団長と第四師団長の違いは?

 ゆらりと第四師団長が立ち上がった。
 胸元の組み紐のお守りも、ゆらりと揺れている。

「あれだ」

 鑑定眼に《鑑定》を重ねると、組み紐のお守りの中身が視えた。

 スヴェートの魔導騎士も視てみると、こっちも、からくりが判明する。

「やっぱり」

 スヴェート騎士と剣戟を交わす、ラウの背中に隠れながら、テラに声を飛ばした。

「テラ、分かった」

 スヴェート騎士からは炎の魔法も飛んでくる。ラウの動きに合わせながら、なんとか避ける。

「あの魔導騎士、小さいメダルを持ってる。あれが魔導具だわ」

「あり得ないぞ。魔導具でこの規模は」

 ううん、間違いない。

「組み紐のお守り。持ってる人だけ発動してる」

「媒介か! 舎弟のやつ、あれ自体は効力なかったって言ってたな」

「うん、単体ではね」

 魔導具の小さいメダル、組み紐のお守り、そして魔力と混沌の気、力のある言葉。

 すべて揃って発動したんだ。

 なんとも、手が込んでいる。

 さらに言えば、あの魔導騎士が持つ小さいメダルは、自然公園で見つかったものと似ている。

 何か繋がりがあるはずだ。

「どうする? 観客の持ち物だろ。ぜんぶ取り上げる訳にもいかないぞ」

「まとめて浄化する」

 このくらい、どうってことない。

 私は断言した。

「分かった。闘技場全体に結界を張る」

 テラも私の意図を正確に理解してくれたようだ。
 私はラウの背中に隠れながら、魔法陣を展開させて、

「《魔防結界》」

「《浄化》」

 テラの言葉に少し遅れて、力のある言葉を発した。

 光が闘技場全体を包む。

 数秒後、光が消えたときには、魔導騎士の持つ小さいメダルも、組み紐のお守りも、浄化の光に覆い尽くされていた。

 そして、

「あなたが破壊の赤種だったのね」

 いつの間にか、ラウの目の前に見慣れたピンクが姿を現していた。
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