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3 武道大会編

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 最終試合、私はカーネリウスさんと対峙していた。

 周りには第六師団の騎士たち。私たち二人を大きく囲んでいる。

 少し離れたところにはラウと副師団長。

 エレバウトさんを含めた補佐さんたちはその後ろに控えていて、私たちを見守っていた。

 心配そうに私を見つめるラウに向かって、軽く手を振ると、私はカーネリウスさんに向き直る。

 カーネリウスさんの表情はよく分からない。

「準備はイイかしら? はっじめるわよー」

 ピィィィィーーー

 エルヴェスさんの合図で、私とカーネリウスさんは同時に動き始めた。

 ワァァァァァァ

 周りから歓声が沸き起こる。

「フィア!」「カーネリウス、行けー!」 
「お相手様、ガンバレ!」「ファイトですわ!」

 周りから様々な応援が聞こえる。 

 師団内選考会の最終試合。
 私とカーネリウスさんの対戦が始まった。




 前の試合で分かったのは、カーネリウスさんも神器持ちだということ。

 神器は加護の一種。

 始まりの三神が加護で『赤種』を作り出したように、破壊の神スイルと守護の神ザヒドは加護で『神器』を作り出した。

 破壊の神の神器は武器、守護の神の神器は防具。

 破壊の神の神器は魔剣と呼ばれ、中でも力の強い五つの魔剣が『破壊の魔剣』と呼ばれている。
 ラウの持つ『破壊の双剣』、私の持つ『破壊の大鎌』はそのひとつ。

 残念ながら、神器持ちかどうかは赤種の鑑定眼でも分からない。顕現させて初めて神器持ちかが分かる。

 神器が誰に与えられるか、法則みたいなものがあるのかどうかも不明だ。

 分かっているのは、赤種や竜種といった加護の塊みたいな存在にも、有名家門でもない普通の人にも、神器持ちが存在すること。

 神様の気まぐれとしか言いようがない。

 カーネリウスさんの神器は『破壊の魔剣』ではなく、普通のものだった。
 それを、自分の手足のように自由自在に使いこなしている。

 カーネリウスさんに魔剣。厄介だな。

 そして、想定以上にスピードがある。

 ドラグゼルンさんやメモリアも速かったけど、カーネリウスさんはその上を行く。

 魔剣持ちな上に、あのスピード。厄介この上ない。

 まぁ、考えていても仕方ない。
 こっちは戦闘の初心者なんだ、当たって砕けるだけ。




 カーネリウスさんの動きは予想通り、素早く鋭かった。

 お互い素手同士の近接戦。

 私が蹴りを繰り出そうとする瞬間を狙って、軸足に脚払いをかけてきたり、こっちの動きの先を読んでくる。

「ショボクレ、やるわねー ほわほわちゃんの動きを見切ってるわー」

「あら、クロエルさんだって、やりますわよ! すべて回避してますわ!」

 向こうの攻撃をなんとか避けているけど、こっちは攻撃すら繰り出せない。

 体技だけではムリ。
 だとすると、次は魔法を絡めた攻撃だ。

 おそらく向こうも。

 鑑定眼を光らせる。

 視えた。

 カーネリウスさんの回りで精霊が動く。

 私は瞬時に魔法陣を複数展開。そのひとつを拳に纏わせ、その勢いのまま殴った。

 力を込めて。

 精霊を。

「ええっ?! 嘘っ?! 」

 殴られて、シューンと吹き飛ぶ精霊。

 一瞬、動きが止まるカーネリウスさん。

 そこ!

 同時に展開させた脚の魔法陣を発動させ、カーネリウスさんを蹴り飛ばす!

 そして走る。

 カーネリウスさんは、とっさに魔剣を顕現させて直撃を防ぐも、魔法を乗せた私の蹴りの勢いは殺しきれない。

 ズザザザッと音を立てて、カーネリウスさんが後ろにずり下がった。
 土煙がもうもうと辺り一面にあがり、視界も悪くなる。

 もう一発!

 この隙を狙って、カーネリウスさんの目の前に展開した魔法陣を発動!

「甘いですね!」

 視界が悪い中、魔法陣を察知したカーネリウスさん。
 発動する前に、魔剣で魔法陣ごと叩ききった。

 でも、

「え? いない?!」

 ドガッ

 私はカーネリウスさんの真後ろから、無防備な背中を蹴り上げる。

 そのまま吹っ飛んだカーネリウスさんは、審判の判定により敗退となった。

 うん、わざわざ前から攻撃する必要なんて、ないもんね。

「フィア!」

 満面の笑顔でラウが駆け寄ってくる。

「優勝おめでとう」

 近くに来ると、私の顔を覗き込みながら真面目な顔で、

「でもな、スカートで蹴りはやっちゃダメだからな」

 と、余計な心配をするラウ。

 さすがにスカートで蹴りはやらない。今日もスラックスだ。

「スカートでの蹴りは俺だけにしてくれ」

 うん、それはスカート姿の私に蹴られたいってことかな?!

「踏みつけるのでもいいぞ」

「そういう趣味、ないから!」

 相変わらず、夫がおかしい。

 それとも竜種という生き物は、奥さんに蹴られたり踏まれたりして、喜ぶ生き物なんだろうか。

 ふと、ドラグゼルンさんに目が止まる。

「おかしいのは、師団長だけですから!」

 何も言ってないのに。
 聞きたかった返事が早口で返ってくる。
 返事は早口でも、相変わらず、私に対しては丁寧口調。

 でも、これで、竜種から見てもラウはおかしいことが判明した。
 優勝したというのになんだろう、この残念な気持ちは。

「ホホホホホホ、カーネリウスさんも、まだまだですわね!」

 そして、エルヴェスさんとエレバウトさんの前まで吹き飛んだカーネリウスさんは、二人から散々に言われていた。

「マー、見えない中、魔法陣を察知したまでは良かったんだけどねー アレ、オトリよねー」

「ですわね! クロエルさんは背後に移動されてましたわ!」

「てことで、アンタも一生、ショボクレって呼んであげるわー」

「そ、そんなぁ。俺、準優勝なのに」

 カーネリウスさんは、私以上に残念な気持ちになったようだ。

 こうして、師団内選考会は、私の優勝で幕を閉じた。

「第六師団の団体戦出場は、文句ナシで、師団長とほわほわちゃんね!」

 エルヴェスさんの一声で、団体戦出場が決まる。当然ながら、反対する人はひとりとしていなかった。




「だいたい、精霊を殴るなんてありなんですか?!」

 執務室に戻り、エレバウトさんに擦り傷を手当てしてもらいながら、カーネリウスさんが騒ぐ。

「精霊を殴っちゃいけないってルール、ありましたっけ?」

 選考会後、ラウは副師団長や一部の部隊長とその場に居残りのため、私も執務室にいた。

「ないっすね」「ないですね」

 私の質問に、微妙な顔をしながらも、口をそろえて答える補佐さんたち。
 言い返されて、なんだか、がっくりしているカーネリウスさん。

「これから大会までの間に、師団長と作戦を練っておくようですね」

 カーネリウスさんを無視して、掃討部隊長さんが声をかけてきた。

 掃討部隊長さんは副師団長さんに負けて、初戦敗退。
 ラウから居残りの声をかけられなかったそうで、いっしょにこっちに戻ってきた。

「団体戦の相手は各師団長なので、能力、技能、得意な戦法があらかじめ分かりますから」

「あぁ、戦力把握や分析は得意だわ」

 補佐官だもの。得意分野だね。

「「ですよね」」

「あと、師団長と手合わせの練習もしておいた方がいいですね」

「それなんだけど」

 私はまだ帰ってこないラウを気にかけながら、疑問を口にした。
 他に帰ってこないのは、副師団長さん、ドラグゼルンさん、戦闘部隊長さんだ。

「ラウ、私に蹴ってほしいとか、踏まれたいとか、言わないよね?」

 私の疑問に沈黙で答えが返ってきた。
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