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3 武道大会編

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 四月に入って早、一週間。

 師団全体の入団式も終わり、第六師団にも異動してきた新人が何人かやってきた。

 第六師団に入ってくる新人に、新入団の新人はいない。
 通常のような新人研修がないため、研修期間は数日で終わり、新たなメンバーでの日常が始まっていた。

 カーシェイさんも、第六師団を去り、今は総師団長付き副官として働いている。

 第六師団の執務室は、メンバーが替われど、朝から騒がしかった。

「カーネリウスさん、ここは二つ練度を下げてくださいませ! この部隊の体力レベルと合いませんわ!」

 うん、声が筒抜け。

 こっちは師団長室にいるのに、隣の執務室の声がはっきり聞こえてくるよ。

「カーネリウスさん、あたくし、すべて表にして、渡しましたわよね?!」

 うん、そして、カーネリウスさんがまた怒られている。

「あら! そうですの? ホホホホホホ! それでしたらお任せくださいませ! あたくし、しっかりサポートいたしますわ!」

 あれ? 上手く返したのかな。

「計画案の修正は以上にしまして。次は、外に行きますわよ! あたくしの歩くスピードに合わせてくださいませ!」

 今度は各部隊の訓練にでも行くようだ。

「さあ、カーネリウスさん、行きますわよ!」

 バタンと扉の閉まる音がして、それから隣は静かになった。

「カーネリウスさん、なんとかなって良かったね」

 カーシェイさんか最後まで心配していたけど、意外とどうにかやっている。

「あれでいいのか? 完全にエレバウトペースだよな?」

 そう、エレバウトさんのおかげで。

「うーん、でも、エレバウトさんはカーネリウスさんのサポートしてるだけだし」

 そう、エレバウトさん、けっきょく第六師団長付き副官補佐の募集に応募。

 応募者はエレバウトさんだけではあったものの、試験の手は抜かず。
 書類選考、筆記、実技で合格点を上回り、見事に採用となった。

「そうなんだけどな。カーネリウスのやつ、エレバウトに働かせられてるよな?」

「えー、副官さんなんだから、ちゃんと働かないとダメでしょ?」

 そして、四月から晴れて副官補佐を勤めている。かなりバリバリと。楽しそうに。

 同時に、カーネリウスさんの仕事振りがまともになった。

 立案のマズいところはエレバウトさんに具体的に突っ込まれ。
 言動のマズいところもエレバウトさんにすぐさま叱られる。

 目の前で叱られてボロボロになっているカーネリウスさんに対して、さらに、何か言おうとする人はいない。

 むしろ、同情されている。

 でも、自分自身が原因なので、最終的には「自業自得だよな」と残念な目で見られて終わりになる。

 エレバウトさん、様々である。

 高飛車で高笑いが似合うお嬢様なエレバウトさんは、メンタル以外も強かった。

 戦闘部隊にも、普通に混ざる。
 さすがに体力や筋力は、部隊の平均より下の方にはなるけど、訓練についていく。

 訓練だけでなく、実戦にも混ざる。

 甲高い声が目立つけど、フリル付きの補佐官服がちょっと浮いてるけど、カーネリウスさんよりよっぽど副官ぽいけど。

 エレバウトさんのサポートで、カーネリウスさんが使える人になってきた。

 エレバウトさん、凄いな。

「エレバウトも、性格と行動に問題はあるが、優秀だからな」

 ラウも、エレバウトさんの能力は認めているらしい。

 第一塔でも人気部署、鑑定室所属だった。
 フィールズ補佐官もエレバウトさんは実力十分と太鼓判を押していたしね。

「それに。問題があると言っても、エルヴェスほどじゃないしな」

「エルヴェスさんて、前の部署で何やったの?」

「あぁ、そろそろフィアに教えてもいいかな」

 ようやく、ラウから教えてもらったエルヴェスさんの話。

「あいつな、視察で来た他国の要人に一服、盛ったんだ。
 好みのタイプだったから、ベタベタ触って、間近で匂いを嗅ぎたかったそうだ」

 ヤバい度がケタ違いだった。

「けっきょく、何を飲ませたのかは分からず終いだったようだけどな。
 お茶に混ぜて飲ませて、気絶したところをベタベタ触って、満足げに笑ってたらしいぞ」

 よく、お咎めなしで済んだものだと思うくらい、とんでもないものだった。

 エルヴェスさんと比べたら、エレバウトさんなんてかわいいものだ。
 いや、比べること自体が間違っている。

「そもそも、エルヴェスさんと並ぶくらいの人なんて、いるの?」

「いなくはないな」

「へーーー、いるんだ、そんな人」

「基本、上位竜種は似たようなものだし」

「あ」

 忘れてた。

「でも俺は、フィア、一筋だから」

 そうだった、最近まともだったから、すっかり安心していたけど。

 ラウも、十分、ヤバい夫だった。

 エルヴェスさんと同じ行動、一服盛る以外は毎晩されてるな、私。




 先日も、第六師団の料理長と副料理長に泣きつかれたばかり。

 あのときは焦った。

 まさか、ラウが、私の使ったカトラリーや食器をぜんぶ買い占めていたなんて。

 使ったカトラリーをラウが回収している話、聞いてはいたんだよね。

 私が使ったカトラリーを他の人が使うのは許せない、そんな理由ですべて回収していると。

「フィアの口に入ったカトラリーが、他の男の口に入るなんて許せるわけないだろ! 俺の口に入るべきだ!」

 というのがラウの言い分だ。

 うん、ちょっとよく分からない。

 ラウが私が使ったカトラリーを欲しがるから、他の食堂はなるべく利用しないように、ということだとばかり思っていた。

 ところが。

 第六師団食堂でも同じことをしていたらしい。

「保管用倉庫が手狭になってしまったので、どうにかしてほしい」

「できれば、お相手様専用品を作って、使い回してほしい」

 正副二人の料理長に泣きつかれ、ここがそうだと、ラウといっしょに倉庫の中を確認した。

 めまいがした。

「ラウ! 全部集めていたらキリがないって最初に言ったよね!」

 うん、言った。確かに言った。
 大神殿からラウの官舎に引っ越すときに、絶対に言った。

 言ったはずなのに。

 目の前の倉庫は、様々な使用済み品で溢れかえっていた。

 もはや、私が使ったものなのかさえ、分からない品々。

 それに、カトラリーや食器だけではない。

 ちょっと口に出せない物や、え?なんでそんなものまで?という物まで。
 ありとあらゆる使用済み品が揃っていた。

「フィアを他のやつに渡すなんて、俺にはできない」

「私じゃないよね! 私が使い終わった物だよね!」

 渋るラウを説得し、私の服や下着の購入以外に、カトラリーや食器など私専用品の製作と購入の許可も出し。

 ようやく、倉庫の品の処分と再利用を承諾させる。

 不要品は《劫火》で灰一つ残さず燃やし尽くし、食器やカトラリーなど使えるものは《浄化》して食堂に戻してもらった。

 この作業に半日。

 思い起こせば起こすほど、エルヴェスさんのヤバささえ、かわいく思えた。
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