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3 武道大会編

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 第一塔塔長室に出勤した日の翌日からは、私はラウにピッタリ寄り添い、仕事に励んだ。

 まぁ、イスが二人掛けなので、言葉通りピッタリくっついているんだけどね。

 第六師団の人たちは、この二人掛けの様子を見ても、誰も何も言わない。

 言わないどころか、

「師団長の機嫌が良くて助かっている」

「師団長の仕事が早くて助かっている」

 と、皆に感謝されている。

 うん、訳が分からない。

 唯一、普通の反応だったのは、塔長と例の金短髪男だ。

 仕事がらみでラウに用があったらしく、突然フラッとやってきたこの二人組。

 師団長室に入るやいなや、目を大きく見開いて、動きを止めた。

「ラウゼルト。そのイス、おかしいだろ」

 だよね。二人掛けのイスで仕事って、普通はないよね。
 普通が何か、もはや、よく分からないけど。これはたぶん違うよね。

「ァア?! 特注だぞ。点検もしっかりやってる」

 安全性の問題じゃないと思う。

 ていうか、イスの点検、やってたんだ。

「そういう意味じゃない! くっついて座ってたら、仕事にならんだろ」

「何を言ってるんだ。くっついてないと、仕事にならんだろ」

 言ってる意味もよく分からない。

 最終的には、ラウの超速な仕事振りを目の当たりにすることになった二人組。

 用事を終えると、思いっきり同情するような目を私に向けて、さっさと帰っていった。

「クロエル補佐官も大変だな」

 そんな一言を残して。
 



 私の業務は概ね順調だった。

 一週間であれこれ叩き込まれたので、おぼつかないところもあるけど。
 基本的に、第六師団の人たちは親切だ。
 技能なしということを理由に意地悪なこともしない。

 第六師団以外で絡まれるのは相変わらず。

 エレバウトさん、第八師団のノルンガルズさんが絡んでくるのはいつも通り。
 でもこの二人は第六師団の人たち同様、技能なしを理由に絡むわけではない。

 同じノルンガルズさんでも、第四師団のノルンガルズさんは技能なしとバカにしてくるけどね。しかも集団で。

 こっちは第八師団のノルンガルズさんの姉妹のようだ。同じノルンガルズでも、考え方が違うのだろう。

 さて、第六師団だけど、技能なしがどうのというよりは、実力主義という感じだ。

 実力があれば技能がどうであろうと関係ない。ある意味、厳しいところ。

 だから、実力が伴わない者には厳しい。

 そして実力があっても、考えなしな者にはさらに厳しい。

 第六師団はそういうところだった。

「カーネリウス副官、いい加減にしてくれよ!」

「カーネリウス、これもですか?!」

 今日も隣の執務室から、カーネリウスさんを叱責する声が響いてくる。

 どうやら隣は、まだまだ落ち着きそうもない。

 私とラウは顔を見合わせ、ここからでは見えもしない執務室に顔を向けた。
 カーシェイさんには悪いが、ここは、カーシェイさんに頑張ってもらう他ない。

「しかし、困ったな」

 ラウが珍しく、弱々しい声を出す。

「カーシェイがここにいられるのも、あと、一週間だ。それまでにカーネリウスをどうにかしないと」

「ラウが大変だよね」

「副官があれではな」

 ラウがため息をついた。

「エルヴェスは、基本的には連れて歩けないし。カーネリウスがあそこまで酷いとは、想定外だったな」

「カーネリウスさんの問題点は、暴言だけ?」

「違うな。立案にも問題がある。なんというか、そぐわないんだ」

 そう言って、ラウはカーシェイさんからの報告書とカーネリウスさんの作成書類を見せてくれた。

「なるほど」

 報告書と作成書類、すべてに目を通して、カーネリウスさんの問題点が浮かび上がってきた。

 そういえば、補佐一号さんと二号さんが言ってたな。
 あの二人は最初からカーネリウスさんを把握していたんだ。

 カーネリウスさんの問題点。

「自分の能力が頭抜けていることを理解していない」

 カーネリウスさんは竜種だ。

 上位竜種ではないものの、普通竜種の中ではトップクラスの能力値を持つ。
 数字だけ比べると、カーシェイさんを上回る。

 剣技や体技などの攻撃能力もトップクラスだし、分析力や立案能力も優れている。

 問題なのは、これを普通だと思っているところだ。

「相手の能力がどの程度であるかを把握できていない」

 分析力は優れているくせに、相手を把握することができていない。

「自分の能力と相手の能力にズレがあることを理解していない」

 相手も自分くらいはできると思い込んでいる。

 だから、相手の能力や実情にそぐわない立案をしたり、相手をバカにしていると取られかねない発言になってしまったり。

「フィアの指摘通りなんだけどな。それをどうにかしようと、今、カーシェイが頑張っているんだが」

「思うようにいかない訳だね」

「あぁ」

 苦い表情でラウが答える。

「能力把握や現状分析は、補佐官の得意分野だよ、ラウ」

「そうだったな。でも、ダメだ。フィアは誰にも渡さない。俺だけのものだ」

「うん、私はラウのフィアだからね」

 ラウが慌てて私をギュッと抱きしめてくる前に、『ラウのフィア』を強調しておいた。

 間一髪、間に合ったというか、締め上げられずに済んで、思わずホッとする。

 なんだか、ラウの扱いがどんどん上手くなっているような気がしてならない。

「私以外の誰か。補佐官か補佐をつけることはできないの?」

 補佐官か補佐をつけて、監督させておけば、ぐっと良くなると思うけど。

「やりたがるやつがいると思うか?」

 ラウから返ってきたのは、想像もしなかった答え。

 補佐官か補佐をつけるのはできるけど、希望者がいないってこと?!

「やりたい人いないの? 私はラウの補佐官、やりたかったけど?」

 そうか、カーネリウスさんは人気がないんだ。ちょっとかわいそうだな。

「うぐっ、俺のフィアがかわいすぎる」

「カーネリウスさん、かわいそうだね」

 なんか、私とラウの考えてることがズレているような気がしなくもないけど。

 取り急ぎ、カーネリウスさんの補佐官か補佐を募集してみよう、というところで話は落ち着いた。

 無事に希望者が現れますように。
 赤種を作った創造と終焉の神、デュク様にでも祈っておこう。
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