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2 新人研修編

6-2 副官という仕事

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 今日も今日とて、第六師団の執務室は賑やかでしたね。頭が痛くなるほど。自然とため息が出ますね。

 ここの執務室での仕事も、あと一ヶ月ほどで終わりだと思うと、感慨深いものがあります。

「で、カーネリウスはどうなんです?」

「あのバカ、体つきはいいっす」

「あのバカ、動きもいいんです」

 終業後、俺はエルヴェスの補佐たちを呼び出し、カーネリウスについての報告を受けていました。

「で、仕込み具合は?」

「あのバカ、頭の回転も悪くないっす」

「あのバカ、物覚えも悪くないです」

 補佐たちはカーネリウスをバカ扱い。

 カーネリウスはあれでも、普通竜種の中では群を抜いて力が強いんですけどね。

 まぁ、この補佐たちも癖はあれども、かなりのやり手。
 カーネリウス程度では、バカ扱いされるのも仕方ありませんかねぇ。

「で、仕上がり具合は?」

「最悪っす」「最悪ですね」

 能力良し、仕込み具合良し。なのに、仕上がりが最悪って。
 いったいどこに原因が?

「「なにせ、バカなんで」」

「バカの一言で、すべてを片づけないでもらえます?」

 バカバカ言う補佐たちに思わず苦言を呈してしまいましたよ。

「性能は上々、頭脳的にも問題なし。なのに、行動させてみるとダメなツボを押して回る」

「これをバカって言わないで、なんて、言えばいいんすか?」

「才能をあんなに殺してしまう竜種って、俺ら、初めて見ましたよ」

「何も考えずに行動しても許される、下っ端向きっすよね」

 えっ…………。

 言い返す言葉も出てきません。

 まさか、カーネリウスが酷すぎるってことですか?!

 カーネリウスは、昔から素直で真面目で扱いやすい竜種だったんですよ。
 いつも、誰かの後ろに隠れて行動するような、控えめな子でした。

 むしろ、うちの師団長の方が、やんちゃで、やることなすことムチャクチャで、暴れん坊の大問題竜種でしたね。

 養成所時代は、気に入らない相手を捻りあげる、殺気を向けて気絶させるを繰り返していましたし。
 師団入りした後はレクシルド王子とつるんで脱走して飲み歩いたり、暴れて物を壊したりと、やっぱり問題ばかり起こしてましたしね。

 あの師団長、昔はあれほど大変だったのに。

 って今でも取り扱い要注意は変わりありませんが、立派になったものです。

 さて、今は師団長ではなくカーネリウスです。

「で、エルヴェスはなんて?」

 人選と言えばエルヴェスですよ。

 異動前のチェックで気になるところがあるにも関わらず、異動を早めて採用するほどですから。

 エルヴェスの嗅覚に引っかかる何かを、カーネリウスは持っているはず。

「最初から、期待してなかったみたいっすよ」

「はい?」

 どういう意味で?

「あとは任せたって言ってたっす」

「待ってください。俺に丸投げされても」

「あとはカーシェイ副官の引継部分だけですから」

「他のことは終了したってことですか?」

 第六師団は非常事態専門。
 あらゆる専門部隊が揃っているため、覚えることはたくさんあったはずなのに。

「当然っす」

「頭の回転も物覚えも悪くないって、言いましたよね」

 確かにそう言っていました。

 もうぜんぶ覚えたんですか。
 というか、この双子に叩き込まれたんですね、カーネリウス。

 潜在的な能力は悪くなさそうで、少し安心しました。

「で、残るは俺の引継だけと?」

「「そこは、俺ら、管轄外なんで!」」

 元気よく返事をする補佐二人。

 はぁ。

 三人しかいない執務室に俺のため息だけが聞こえます。

 そういえば。

「今日は半日不在にしましたが。執務室は大騒ぎだったみたいですね」

「あぁ、今日はお相手様の執務室見学日っすね」

「見学だけなら騒ぐ必要ありませんよね。いったい何をしていたんですかね」

「あぁ、黒竜録、閲覧室で見てたのがバレて怒られていましたね」

 また、黒竜録ですか。

 ドラグゼルンもカーネリウスも、大人気だと言っていましたが、何がそんなに良いのかが分かりません。

 見れば分かると言われて、見たりもしましたけど。

 あの大問題竜種が、本当に伴侶を捕獲できたんだなぁ、と。

 安心してホッとしたというか。肩の荷が降りたというか。出来の悪い弟を見守る兄のような気持ちになりました。

 実際の捕獲現場は映像記録の何十倍もの圧が漂っていて。死の恐怖すら感じるものでしたからねぇ。

 あの恐怖を乗り越えないと伴侶を捕獲できないんだとしたら、俺は捕獲なんて遠慮したいですね。

「まったく。黒竜録の何がそんなに人気なんですかね」

 ぼやく俺の言葉をどう受け止めたのか、補佐二人はにっこりと笑いました。

「じゃ、そういう訳で、カーシェイ副官」

「え?」

「後はよろしくっす」

「は?」

 二人が指し示したのは俺の机の上に積まれた、見慣れぬ書類の山。

 なんですか、これ?
 さっきまでは何もありませんでしたよね?

 一枚、また一枚と捲る俺の額から、なんだか嫌な汗がでてきました。

 まさか、これ、ぜんぶ、カーネリウスの始末書?!

「そもそも異動前から、第六師団絡みの始末書があるって」

 と言いかけて、俺は口を閉じました。

 目の前には、いえ、執務室には俺以外、誰もいません。いつの間にか、あの補佐二人は消えていました。

 はぁ、してやられましたね。

「これは、引継が楽しみですね」
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