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2 新人研修編

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 目を開けた。

 ここは寝室のベッドだ。自宅の。

 いつもラウといっしょに寝てる、いつものベッドだ。

 あれ?

 私、ラウと別々にしようと思って。荷物を持って家を出たんだよね。
 けっきょく、家を別々はダメだったか。

 まだ、箱は返してもらってないから、私の中で別々は続いているけど。

 空から落ちるところを、ラウに助けてもらったから、お礼は言っておかないとな。

 にしても。

 身体が動かない。

 この前は一週間、寝たままだったから動かなくなるのは分かる。

 でも今回はそんなに長くない。

「うーん」

 声は普通に出るな。

 なんで動かないんだろう。
 まるで、締め付けられているみたいに。

 …………まさか。

「ラウ」

 ここで、ようやく、私ははっきり目が覚めた。

 確か、ラウはベッドの脇に座っていて、眠る私を心配そうに眺めていた、ように思ったんだけど。

 いっしょに寝てるし。

 しかもガッチリ私を抱きしめたまま寝ていて、見事に締め付けられている。

 これじゃあ、ベッドを別々もダメだ。

 それに抱きしめる力が強い。苦しい。死ぬ。

「ラ、ラウ」

 もう一度声をかけてみた。
 ラウの胸に顔を押し付ける感じになっているので、声もそんなに大きく出せない。

 なにしろ苦しい。ヤバい。

「ラウ!」

 ピクッとしてラウが少しずつ動く。
 少しだけラウと私の身体の間に隙間ができた。良かった、助かった。

 首を上に向けてラウを見る。

 ラウのぼんやりとしていた顔が、ぱっと明るくなった。

「フィア! 良かった! 気がついたか!」

 ギューーーーー

「良くない。苦しい。死ぬ」

 力を込めなくていいから、腕に。

「良かった、良かった、フィア」

「良くない。苦しい。力、緩めて」

 私の無事を喜んでくれるのはいいけど、今まさに、喜ばしくない状況になった。

 ギューーーーー

 本気で苦しい。

 私とラウ、二人で横になってもまだ余裕のあるくらい大きいベッドも、ラウの力に軋んでギシギシと音を立てている。

「良かった、本当に良かった。また、しばらく目が覚めないかと思った」

「良くない。暑苦しい。気持ち悪い。二度と目が覚めなくなる」

 どの言葉に反応したのかは分からないけど、ラウが急に腕の力を緩めた。

「だ、大丈夫か、フィア?!」

「大丈夫じゃない。力、緩めて」

 ふー

 ああ、生き返る。胸に空気が自由に入ってくる。深呼吸だってできる。

 夫に抱きしめ殺されなくて良かった。

「だいたい、ラウの力でギリギリと締め上げたら、私の骨、折れるからね」

「折れたのか?!」

「いや、折れてないけど。そのくらい、力が強いってこと! もっと優しく抱きしめてよ」

 …………あ。また言葉を間違えたような気がする。

「分かった、フィア! ずっと優しく抱きしめてるから」

 違う。ずっとじゃなくていい。

「私、またずっと眠ってたの?」

「いや、自然公園で捕獲したのが昨日だから、一日くらい?」

 捕獲。

 ラウにとっては、救助じゃなくて捕獲なのか。

 せっかく捕獲した奥さんが逃げたとでも思ってるのかな。思っていそうだよな。

 ラウに、受け止めてくれて、助けてくれてありがとう、って言うつもりだったけど。

 これだと、捕獲してくれてありがとう、って感じに捉えられかねない。

 なんとも言えない気分になって、視線を逸らした先では、カーテンが明るんでいた。

 朝だ。

「もう起きるのか?」

 ラウには答えず、身体を起こして、布団から出る。

「箱を返してもらうまで、別々だから」

 かわいくない言葉を返すと、ラウも布団から出てきて、私を後ろから抱きしめた。

「フィア、ごめん。箱は返すから。だから別々は終わりにしてほしい」

「箱、返してくれるの?」

 それなら別々は終わりだ。

 自分から別々って言っておきながら、別々が終わることに、ホッとする。

「あぁ、だから、いっしょに寝よう」

 そこに戻るの?!
 今、起きたばかりだよね?!

「朝だから、もう寝なくていいよね?」

 それに仕事もあるよね?!

「じゃあ、風呂、入ろう」

 はい?? お風呂??

「朝だよ?」

「朝風呂はいいぞ、フィア」

「本当に?」

「あぁ、気持ちいいぞ」

「へー」

 そういえば、私、お風呂に入ってない。

 さすがに、私を勝手にお風呂に入れたりしてないだろうし。

 朝早くのお風呂。出勤前のお風呂。
 想像するだけでも気持ちよさそう。

 想像しているときにニコニコしていたのを、了承だと思ったラウが声をかけてきた。

「じゃ、風呂だな、いっしょに」

「へ?」

 そのまま私は、ラウによって浴室に連行されて、隅から隅まで、キレイにされた。

 ラウはとても機嫌が良かった。

 そして、

「フィアのキレイな銀髪も肌も土埃まみれだったから」

 という理由で、昨日、ラウは私を勝手にお風呂に入れていた。

 ま、意識がなかったから反対もできなかったけど、意識がない人をお風呂に入れていいものなんだろうか。

 それに、昨日、お風呂に入ってるなら、今、入る必要ないよね?

 憮然とする私と上機嫌なラウ。

『ちょっとぽわんとして天然なところがあってヤバすぎる最強竜種の夫にほぼ丸め込まれている新人補佐官の赤種』

 唐突に、ナルフェブル補佐官の私への寸評が頭の中をよぎった。
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