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1 鑑定の儀編

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「では、ネージュ・グランフレイム様、こちらへ」

 私は、神官の呼び出しに応じて、神官長の前に進み出た。指示された場所に立つ。
白い石造り床には魔法陣が刻まれており、指示された場所はその中心だった。
 もう一人の神官は鑑定結果の記録係のようだ。分厚い帳面を持ち、ペンで何か書き込んでいる。

「なぜ、あんなもの(=私)がマリーより先に」

「年齢順に行いますので、どうぞお静かに」

「チッ」

 兄はマリージュが優先されると、勝手に思っていたらしい。まぁ、私が優先されることなんて滅多にないけどね。

 私への文句が口から出たところを、神官が被せるように補足した。
 年齢順という言葉に大人しく引き下がる兄。
 行儀悪く舌打ちしたような音が聞こえたが、目の前に神官は、聞こえなかったのか、それともまるっと無視をしているのか、にこやかに微笑むだけ。
 理由を説明され文句を言えなくなったようで、兄はそれ以降は静かだった。

 神官長を前にして、後ろにいる兄の表情は確認できないけど、きっとムカッとしているんだろうな。
 そもそも、大神殿であんなもの(=私)呼ばわりするって、お子さまか? お子さまだな! うん、そう思うとなんかすっきりした。

「これが最後の能力鑑定となります」

 神官長に向き合った。胸のペンダントに手を沿え、私はペコリと頭を下げる。
 自分の努力でどうにもならないのが悔しいけれど、この鑑定結果に、家での立場やら将来やら、いろいろなものがかかっていた。

「では失礼して。始めますね」

 神官長が両手を前に出し、手のひらを私に向けて、つぶやいた。

「《鑑定》」

 床の魔法陣が光る。
 私自身も光に包まれて、発光は数分間続いた。

 二度目の鑑定で技能が増えていたり上級技能に進化していたりする事例はあるが、最後の鑑定での変化は滅多にない。
 稀に、二度目の鑑定後に先天技能が目覚た事例があり、最後の鑑定で精霊魔法技能が発現した人もいたそうだ。

 なので、もしかして、もしかしたら、と。淡い希望にすがる。

 心臓がドクンドクンと音を立てて、呼吸が乱れる。頭が痛い。気持ち悪い。

 唐突に光が消え、呼吸を整えて、神官長が語り出した。

「ネージュ・グランフレイム、
 リクヨクの加護に包まれ眠りしもの。
 非精霊魔法技能所持、鑑定技能所持」

 鑑定結果を聞いて思わず目を閉じる。
 もしかして、もしかしたら、と思っていたのに。
 淡い希望すらなくなった。
 奇跡なんてそうそう起こらない。
 これが現実だ。

 がっかりしても仕方ない。現実を受け止め、考えていた独立計画を進めよう。

 ジン、がっかりするかな。
 それともいつもの口調で、最後で発現するのは稀ですから仕方ありませんね、とか言うのかな。ああ、ジンなら言いそうだな。
 メモリアは、言うまでもなく、無表情で無言だな。
 ジンとメモリアのことを考えていたら、がっかりした気持ちが少し軽くなった。

 ところで鑑定結果に聞き慣れない言葉があった。『リクヨク』って聞こえたけれど、いったい何だろう。解説ないの?
 私の表情を読み取って、神官長が付け加える。

「残念ですが、精霊魔法技能はありません」

 いや、そっちの解説はいらないし。
 後ろで、ため息ついたり舌打ちしたりするのが聞こえてるし。

「質問でしたら、また後の時間で。あちらにお下がりください」

「はい、ありがとうございました」

 交代を促されて、私はしぶしぶ下がった。

「さっさと動け、マリージュを待たせるな」

 無言の父にイラつく兄。
 マリージュが終わるまで、この二人のそばに控えていないといけないのか。キツい。

「次に、マリージュ・グランフレイム様、こちらへ」

 次はマリージュの番だ。
 進み出て、魔法陣の中央に立つ。

「では始めますね」

 そこから先は私と同じだ。神官長が両手を前に出し、手のひらをマリージュに向けて、つぶやく。

「《鑑定》」

 そしてマリージュが虹色の光に包まれた。

「凄い。キレイ」

 隣で父も兄も感動しているようだ。マリージュの光に見入っている。
 マリージュの虹色は全属性に愛されている証拠なんだと、私は自然と理解した。

 この光。自分からは眩しくてよく見えない。でも、私の光は虹色じゃなかったと思う。私の色は何色だろうか。

「マリージュ・グランフレイム、
 精霊に好かれ精霊とともに生きる乙女。
 精霊魔法技能所持、中~高位、
 全属性に適性あり」

 頷く父に満面の笑みの兄。
 マリージュの鑑定結果も二回目と変わらなかった。我が家の自慢。精霊に愛される乙女。全属性に適性のある天才精霊魔法使い。

「最後の鑑定書は、帰りの際にお渡しします」

 呼び出し係の神官がそう締めくくり、儀の重要部分が終了した。

 疲れた。立って鑑定してもらっただけなのに、何かを吸い取られたような感じで気怠い。
 次はまた個室へ移動する。

「お前も分かっているとは思うが」

 移動を待っていると、突然、父が話し出した。

「精霊魔法技能がないとなると、身の振り方も変わってくるが」

 ああ、そうですねー

「技能なしでもいいと言ってくれているところが、いくつかある」

 それ、今言うー?

「私はこれから会議へ行くが、お前はしっかり祝福を受けるように」

「はい「後は任せてください」

 私の返事にかぶせるように、兄が割り込んだ。
 この兄、本当に失礼だよね。

「ああ、任せた。マリーもな」

「はい! しっかり祝福をいただいてきます!」

 そして、父は出ていった。

 二度目の鑑定が終わった後には、私の将来をどうするか、父は考えていただろうし、この前の面談のときには決まっていたのだろう。
 あの感じからすると、婚姻相手ももう決まっていそうだ。私の意思に関係なく。
 精霊魔法技能がなくても心配いらないぞ、とでも、言いたかったんだろうか。
 もしかしてもしかしたら、技能があるかもしれない。そんな期待は最初からなかったんだろうね。

「お父さま、行ってらっしゃい!」

「お父さま、お気をつけて」

 マリージュに合わせて、父の背中に向かって一礼した。
 マリージュは朗らかに笑っていて、残念ながら、それには合わせることはできず、私は寂しく笑った。
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