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08 サツキのこと
しおりを挟む眠っているマユをそのままにして、前夜の狂乱の現場を掃除し、シャワーを浴び、いつもより早めに家を出ました。
「ごめん。頭でわかっていても、心が言うことを聞かないんだ。落ち着くことが出来たら、連絡する。それから今後のことを話そう」
メモを書いてテーブルの上に置きました。
いつもよりだいぶ早い電車に乗りました。
ガラガラでした。ゆったりとベンチ席に座り目を瞑りました。会社まで少しでも休みたかったのです。疲れているのになかなか眠くなりませんでした。経済新聞を読んだり、ケータイのメールを確認したり、窓外に流れる景色を見たりしても、落ち着かないのです。
俺はマユに出会うまで童貞でした。彼女は明らかに経験が豊富でした。結婚以来いつも彼女に満足を与えていたとは言えません。
俺に黙って俺が憎んでいるオヤジと示し合わせ、性交に及ぶ。
俺と付き合う以前からオヤジと付き合っていた。
マユのセックスの成熟はその果実だった。
それを誇示するかのようなオヤジと彼女との非常に濃い性行為を目の当たりにした。
抑えきれない嫉妬。屈服させたはずなのに残る屈辱感。
そして何よりも傷つけられたプライド・・・。
それらを全て天秤に掛けると、マユへの思いよりも重いという現実。
それなのに、俺と別れたくない、一番好きなのは俺だと言うのです。一体どういうことなのでしょう。俺にどうしろというのでしょう。
ドアが開いてガヤガヤとした集団が乗り込んできました。おそろいの制服。顔はどの子も真っ黒に日焼けしていました。大きなスポーツバッグを持ち込んで輪になってその上に座ったり床に直に胡坐をかいたりして欠伸をしていました。太腿が露わでしたが、彼女たちは気にも留めていないようでした。この時間は高校生たちが部活の遠征や朝練習に出かける時間帯なのでしょう。かったりー。朝からアヂーよォ。なんで制服? 朝早ええよ、チョーウザイ。というような乱暴な言葉の端々が聴こえてきました。
マユも中学から大学まで女子校だったことを思い出しました。
「小学生の時、ママにオナニーしてるの見つかっちゃって。中学からずーっと女子校になっちゃった。でもね、ママなんにも知らないんだなって思った。だって、女子高のコって共学の子よりめっちゃヤリヤリだもん」
マユに出会うまで、ほとんど女性とは無縁の時間を過ごしてきました。
「無縁」と書くと大げさですが、女の子とまともに顔を合わせることができず、話すらロクにできなかったので、付き合うなんてことは殆ど無かったのです。
唯一の例外は高校二年の時。彼女の名前はサツキといいました。
オヤジの遺伝なのか、中学に上がる頃には既に背丈が百七十センチを超えていました。そのせいか何かと目立ってしまい、男子だけでなく女子からも頻繁に話しかけられました。でもまともに女子と会話ができないのでそれ以上に発展することはありませんでした。女性に対して興味がなかったのではありません。むしろその逆で、成長が早かったのに加え思春期の入り口でオヤジの淫蕩な性癖を目の当たりにしたせいで、むしろ性への目覚めは他の子供より早かったんじゃないかと思います。
「陰毛恐怖症」とでも言うのでしょうか。
例のその性癖が無ければ、俺の思春期はもっとバラ色だったに違いありません。授業中なら何とか普通にしていられるのですが、休み時間や放課後や部活の時など、親しげに話しかけてくれる女の子たちがいたりすると、
「ああ・・・。この子にも毛が生えているんだよな」
そう思ったら最後、恐ろしくなって言葉がうまく出て来なくなるのです。
自分にだって生えているのに、「女性の陰毛」が悍ましく、恐ろしくてたまらず、気分が悪くなって吐いてしまう・・・。俺はそうした深刻な「ビョーキ」に蝕まれていたのです。
そんなわけですから、自分から女子に話しかけなければならないような状況は苦痛でした。その苦痛に陥らないためにも、勉強と部活の剣道、この二つだけに猛然と集中しようとしていました。
そんな中、一人の女の子が俺の前に現れました。
サツキは一緒のクラスではなかったし、部活でも校内活動でも顔を合わせたことはなく、学校の廊下で声を掛けられるまでは全くの他人でした。とびきり美人という感じじゃなく、かわいいというタイプでもなく、かといってツンとしたところもない、普通ならあまり目立たないタイプの女の子でした。
ですが、彼女は理数科専門の特別クラスにいて、常に上位の成績を維持していて、かつ二学年連続で学級委員をしていたのです。同じ学年の生徒だけでなく、教師たちからも一目置かれる、要するに優等生であり、有名人だったのです。テスト後に廊下に張り出される上位五十名の名簿の一番上を見ると、大体いつも彼女の名前が見つかりました。
「ハセガワ君?」
ある日廊下を歩いていると背後から呼ばれました。
長い黒髪をポニーテールにして凛とした目の、「優等生」サツキに声を掛けられ、それは始まりました。その日のうちに告白され、女が苦手なはずなのに何故か俺たちは付き合うことになりました。
「わたし、ハセガワ君が好き。今付き合っているひと、いる?」
たまたま帰り道が同じだったことから、登下校を一緒にしているうちに三日目には生まれて初めてキスをし、一週間後にはデートするところまで行きました。全てサツキにリードされました。例の「ビョーキ」は、サツキに対しては不思議に起りませんでした。
部活もない日曜日、街に出て映画を見たり通りをぶらついたりしました。
いつものポニーテールではなく、長い髪を下ろし、白いブラウスの胸元のボタンを大胆に外し、お揃いの黒いデニムのベストとミニスカートに、黒いヒールのついたサンダルを履いていました。アイラインを少し強調してリップを引いた装いは、彼女をぐっと大人びて魅せていました。
「ハセガワ君の部屋に行ってもいい?」
部屋に来る、というのは俺たちの関係がキス以上に進展する可能性を意味するものでしたが、当時俺はあいにくと寮暮らしで大学生と相部屋でしたから無理だと言うと、近所のアパートに住んでいる従兄の部屋が使えるよ、と言うのです。
「部屋を使う」
何気ないサツキのその言葉が、俺の胸を否応なしに高鳴らせました。
彼女は俺の先に立ってそのアパートの外つきの鉄の階段をカンカンと鳴らし昇ってゆきました。目の前のミニスカートの下の白い太腿に見とれている間に、彼女は小さなポーチから手慣れたように鍵を出し、するりと部屋の中に入りました。
「どうぞ。入って」
サツキに続いて部屋に入りました。サンダルを脱ぎ捨てたサツキの素足に赤いペディキュアが施されているのを見て勃起してしまいました。
そこは男の部屋でした。
キッチンは余分な調度がなく小ざっぱりしていて、続く六畳間には畳の上にフローリングが張られ、教科書や辞書が載ったシンプルなデスクと椅子、ガラス製の低いカフェテーブルがあり、壁にはアコースティックギターが立てかけられ、「ルート66」のポスターが飾られ、簡素なパイプベッドを見下ろしていました。そのベッドの上に、サツキはドスンと座りました。
「あー、いっぱい歩いたねェ。・・・ねえ、ハセガワ君。立ってないで、来て」
ぽんぽんと傍らを叩き、座れと催促しました。サツキは、普段学校で見せることが無い女の顔をしていました。
久しく感じることのなかった嫌悪感、それに付随した吐き気がやってきました。俺は硬直しました。それなのに、俺の股間は痛いほど張りつめていました。
「しょうがないな」
サツキは立ち上がって俺の手を取り、ベッドに引っ張りました。俺の頭を掻き抱いて、強引に唇を押し付けてきました。
「抱いて、ハセガワ君」
初めて交わした唇と唇を触れ合わせるような初々しいキスとは違い、ねっとりとした艶めかしい大人のキスでした。
彼女の唇が俺の唇にぶちゅうっと吸いつき、舌が唇をこじ開けて強引に侵入してきて、舌や歯茎を思うさま舐りました。舐りながら、俺のシャツを脱がし、白いTシャツを捲り上げると冷たい手で腹に触れました。頭の後ろが痺れてきて、車酔いみたいに酸っぱい唾液が口の中に広がってきました。
ああ、吐きたい・・・。
吐き気が徐々に高まり、俺の忍耐力を試していました。
そんな俺に構うことなく、サツキは俺のTシャツを捲り上げ、肩や腕や胸を撫でまわし始めました。
「ああ、スゴイ。ハセガワ君、思った通り。スゴイ体だね」
自分の手を追うように俺の肌に唇を這わせ、キスしてゆきます。吐き気を紛らわそうとサツキに尋ねました。
「どうして? 普通だけど」
「そんなことないよ。スゴイ筋肉してる」
「小さいころから毎日木刀振らされりゃ、誰でもこうなるよ」
俺のじいちゃんはバレーボールをやめた俺をオヤジから取り上げ、代わりに剣道を仕込みました。
五年生から毎朝木刀の素振りをやらされました。寸止めというヤツです。やったことのある人は判ると思いますが、あんな重たい棒を毎朝五百回も振らされれば、肩や上腕、背中や腹筋がパンパンになり、酷い筋肉痛になります。まだ体の出来上がっていない小学生ならなおさらで、じいちゃんが水平に持った竹刀目がけて振り降ろし、当たる寸前に止めるのです。何度も当たってしまいます。その度に、
「当てるなッ! 止めろッ!」と怒鳴られました。
泣きそうになりながらも耐えました。まさに苦行でした。
それが過ぎるともこもこと筋肉が盛り上がってきました。六年間もやっていると腹筋は割れ、肩や背中にコブのように肉がついてゆきました。
あの時のサツキは今で言う、「筋肉フェチ」だったのでしょう。彼女は長い時間、俺の上半身を愛撫し、キスし、舐めまわしていました。それは十七才の童貞にはあまりにも刺激が強すぎ、それだけに過酷で、淫靡な時間でした。学校の、誰もが認める品行方正な優等生。そのイメージと現実の娼婦のような行為とのギャップが激しすぎて、嫌悪感と吐き気と勃起の昂まりはこらえきれないほどになっていました。
俺を舐めまわしつつ、彼女は服を脱ぎ出しました。ブラジャーも外して上半身裸になると俺に肌を合わせ、「はあ~っ」と震えました。小ぶりな乳房の勃起した乳首がコリコリと俺の肌を転がりました。
「スゴイ。スゴイよ、ハセガワ君。初めてハセガワ君の試合を観たときから、私、ずっと想像してたんだよ。ハセガワ君て、どんな体してるんだろうなって。想像以上だよ。ああ。スゴイよ、ハセガワ君!」
もう同い年の女子高生ではなく、セックスに飢えた中年女のように見えました。俺の乳首を軽く噛みながら、ブルブル震えだし、しがみついてきました。チノパンツのベルトを外し、ブリーフの上から俺のを擦り始めました。勃起は固く、ともすると射精してしまいそうなほどでした。
「ふふっ! 固いね」
笑みを漏らしながら、冷たい手をブリーフの中に滑り込ませ、俺のモノを握りました。
もう限界寸前でした。吐き気の方です。それを紛らわせるため、彼女の口に吸いついて、何度も唾液を飲み込みました。何かしていないと、さっきのデート中に胃の中に収めたばかりの物を戻してしまいそうでした。彼女はその行動を勘違いしたようで、興奮して扱くスピードを上げました。そのおかげで俺はあっという間に昂ぶり、あっけなく玉砕しました。
「え?」
驚いてしばらく俺を見下ろしていたサツキの目には軽蔑の色が浮かんでいました。
「もう?」
「ごめん。俺、まだしたことないんだ」
こんな事を言わなければならないなんて、と思いましたが、事実だから仕方ありません。
「・・・そう」
彼女はひとつ溜息をついてベッドを降り、デスクの上のティッシュの箱を取って簡単に拭き取ると俺のを口に咥えました。サツキの優れた技巧はたちまち俺を復活させました。
しかし、射精と同時に一旦は収まった吐き気がまたぶり返してきました。
「一回出したんだから、少しは長持ちするよね」
スカートのジッパーを下ろし、ショーツごと脱いでベッドに上がりました。
「ねえ、舐めてよ」
全裸になったサツキがそういって両脚を開いたとき、俺の目に彼女の濃い陰毛が飛び込んできました。
片手を後ろについて身体をそびやかし、片脚をベッドに上げてさらに股間を開き、もう片方の手をそこに、女の部分にしのばせて指でそこを広げて見せてきたのです。そこはすでに赤黒くぬめって、光っていました。
もうだめだ・・・。
胃が収縮をしてきて、酸っぱいものが湧きあがってきてしまい、思わず口を押えました。
「何してんの? 早くしてよ」
部屋の中でぶちまけてしまうのは絶対まずいと思ったので、こみあがってきたものを必死に押えながら急いでトイレに駆け込みました。涙目になりながら胃液まで出し切りました。
部屋に戻ると、裸のままのサツキはベッドの上で肩肘立てて半身を起こし、俺を無表情に眺めていました。状況を説明すべきでしたが、まさか、小さいころにオヤジの情交を覗いていて女の陰毛に嫌悪感を抱くようになった、とも言えず、
「ごめん。今日体調が悪くて」
そう言うのが精いっぱいでした。部屋の中の空気がすーっと白けていきました。
「そうなんだ」
先ほどの中年女のような執着が嘘のように、サツキはあっさり起き上がり服を身に着けはじめました。
「そろそろ従兄戻ってくるかも。ハセガワ君も、いいかな?」
彼女に急かされ、服を着ました。
「私、いろいろ片付けてから帰るから、ここでバイバイしよ」
長い髪をかきあげ、ショーツを穿いてブラウスを羽織っただけの姿のままデスクの電話を取り、俺に手を振りました。最後まで、サツキは無表情のままでした。
部屋を出て階段を下り、通りに出たところでアパートのほうを振り返りました。
やっぱり、きちんと説明するべきだったんじゃないだろうか。オヤジのことは伏せても、俺にそういう事情があることはサツキにもわかって欲しいと思いました。
でももう一度引き返してドアをノックするのは気が引けて、彼女が部屋を出てくるのを待つことにしました。自分の部屋では無いのだから、後片付けが終われば出てくるはずだと思ったのです。
ところが、彼女はいつまで経っても出てきませんでした。
空は曇り、生温かい風が吹いてきて、車がヘッドライトを点けて走るようになり、周りのいくつかの家々の窓にも明かりが灯り始めたころ。
一台の白い車がアパートの駐車場にとまり、無精髭を生やしたジーンズ姿の若い男が階段を昇って従兄の部屋に入りました。それから、寮の門限近くになっても、サツキとその男が部屋から出てくることはありませんでした。
次の日、サツキと廊下ですれ違いましたが、俺はそこに存在しないかのように無視されました。たまたま理数科のクラスに同じ剣道部のヤツがいたので、彼に頼んで彼女を呼び出してもらいました。
「昨日は、ごめん」
俺はあらためて謝りました。
「怒っているよね」
「もう、いいよ。気にしないで」とサツキは言いました。
あの時の女の顔ではなく、無表情でもなく、彼女は穏やかな優等生の微笑みを浮かべていました。
「あの、昨日さ、白い車の男の人が部屋に入って行ったよね。あの人が従兄?」
彼女の顔から微笑みが消えました。
「・・・居たの? 見てたんだ」
彼女は、従兄の部屋でトイレに駆け込んだ俺を見ていた時と同じ、まるで何か気持ちの悪いモノでも見るような、蔑むような目つきでそう言いました。
「そうだよ」
と、サツキは頷きました。
「この際だから言っておくね。彼が従兄。私、彼と時々してるんだ、セックス」
ぞっとするような冷ややかな目は今思い出しても鳥肌が立つほどでした。
「でも、彼氏じゃないよ。彼には別にちゃんと彼女がいるし。
私、ハセガワ君に何もウソついてない。別に従兄とセックスしたって法律に触れるわけでもない。結婚だってできるんだし。彼氏じゃないんだから、ハセガワ君とセックスしたって彼何とも思ってないし。そもそも私、彼にハセガワ君とセックスしたいから部屋貸してって頼んだんだし。彼『どうだった?』て訊いてきたから『舐めてって言ったらゲロ吐いて帰っちゃった』て教えた。そしたら彼、『緊張してたんじゃないの? 男にはよくあるよそういうの』って。大人でしょ? 彼」
俺は失望と屈辱とに打ちのめされて呆然として立っていました。
「その後、彼とセックスしたの」
彼女はさらっと言ってのけました。口直しをしたとでもいうように。
「それで少しは気分が良くなったから。だから、気にしないで」
「じゃあ、なんで? なんで俺と付き合おうとしたの」
すると彼女は驚いたようにこう言いました。
「それはハセガワ君が魅力的だったからだよ。
剣道の試合観て、ハセガワ君の姿がスゴイセクシーで。カンジちゃったんだ。私、ハセガワ君と付き合おうとしちゃいけなかったのかなあ。ハセガワ君に興味があって、どんな体してるのか、どんな風にセックスしてくれるのか知りたかっただけだよ。私、従兄よりハセガワ君のほうがよかったらもう彼とはしないつもりだったもん」
「じゃあ、仮に君が彼と結婚したとして、後で他に好きな人ができて、セックスが良かったらいつでもそっちに乗り換えるってことか」
俺はカッとなると物言いが極端になるのです。それをこの時に知りました。
「そうなるよね」
サツキは平然と言ってのけました。いわゆる逆切れして言っているのではなく、本当に心からそう信じて疑っていない、そういう言い方でした。
「セックスであれ、何であれ、より良いものを追いかけて何が悪いの?」
俺はようやく納得がいきました。彼女のその言葉を聞いてむしろスッキリしました。
「わかったよ。俺、ゲロ吐いてよかったよ。もう、終わりにしよう」
当時はフラれたこともあり彼女のことを否定していましたが、今ではこう思います。
彼女は自分の欲望に正直なだけだったのです。他人の心を思いやる繊細さがなかったわけではなく、それよりもはるかに欲望の追及に忠実で貪欲で素直なだけだったのだと。
それから卒業するまで、サツキと廊下で出会っても彼女を見習ってそこに存在しないかのように無視しました。彼女は俺とは違う生き方をしているのだ。そう、思いました。
俺はより一層剣道と勉強にのめりこむようになりました。
その甲斐あってか、三年生のインターハイに出場することができ、個人戦でベストエイトまで進み、開校以来という成績を挙げることができました。高校での剣道生活を完全燃焼して終え、続く大学受験でも念願の公立に進学することができました。
ハッ、と気が付いて窓の外と腕時計を見ました。
目の前のベンチシートに女子高生が三人座っていました。真ん中の一人と目が合ってしまい、何気ない風を装って視線を外しました。でも、その女の子はニヤニヤ笑って俺を凝視していました。失礼なヤツと思い、「なんだ、この野郎」のつもりで彼女を睨みました。彼女は大きくパッと足を開いてスカートを一瞬だけ捲り上げました。
驚きました。女子高生には全く不似合いな、真っ赤な下着が強引に目に飛び込んできたからです。
「きゃははは」
「キョドッてるし」
「このオヤジ、マジキンモー」
やれやれ。
この子達にとってどうやら俺は眠気覚ましのための適当な暇つぶしの道具になっただけのようです。
この子達の親は外で自分の子が何をしているかがわからないのだろうな、と思いました。電車の床に車座になって他人に迷惑をかけていても、他人にパンツを見せて喜んでいても、従兄のアパートに度々転がり込んではセックスに励んでいたとしても、どこかのオジサンにたかだか数万の金で体を許していたとしても・・・。
親たちは子供が一度家を出れば彼ら彼女らが何をしているかはわかりません。子供たちは「モノ」ではありません。「モノ」は所有できますが、子供は所有できないのです。
ただし、親には子供に対する監督の義務があります。親権という権利もあります。「この子は俺の子だ」と主張する権利があるのです。
夫婦の場合はどうでしょうか。親子は「血」で繋がっていますが、夫婦にはそれさえもありません。法律で裏打ちされた紙切れで繋がっているだけです。それさえ定められた手続きさえすれば、いつでも解消してしまえるのです。
俺とマユは夫婦になりました。しかし、マユの心はマユのもので、俺のものだと主張することは出来ません。マユの心が俺で満たされ、他の男が付け入る隙もない、という状態になってはじめて「マユは俺のものだ」と言うことができます。そうでない限り、マユの同意が無ければ、いくら「お前は俺のものだ」と主張したところで空しいだけです。全く無意味です。
俺のためといいながら、夫の父親と同衾してしまうという反社会的、かつ反道徳的・反道義的な行為をしたとしても、そのペナルティーとして自分の意に従わせることは出来ないのです。あくまでも法律に則って慰謝料を請求するなり、相手の属する小さな社会へ通報するなりというような復讐、制裁ができるだけです。離婚もその制裁のひとつでしょう。
では、俺はマユと別れることができるのか。
サツキの時は、彼女の中の損得計算のようなものに違和感を感じ、従兄との関係に対して嫉妬することはありませんでした。それにその時俺は「ビョーキ」でしたし。
マユは違います。直球です。損得抜きです。俺の「ビョーキ」を直してくれたのもマユです。何よりも、俺は彼女のオヤジとの関係に猛烈に嫉妬していました。失神させてしまい、死ぬほど心配しました。オヤジに獲られたと逆上したのも、マユを心から愛しているからです。
マユは俺を普通の男にしてくれました。俺に男としての自信を持たせてくれました。そのマユと、どうして別れることができるでしょう。たとえその性の技巧が憎っくきオヤジに仕込まれたものであったとしても。
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