13 / 31
魔女への入門
第十三話 領主の大罪
しおりを挟むもくもくと煙の後に現れたのは、あの可愛い少女ではない、シアのよく知る幼馴染みの青年だった。
「ルカ様、カインのお姉さんってーーえ?」
「困った弟。村の掟を尽く破ってくれちゃって。ホント大魔女の立場がないったら」
カインがけほっと煙に咳き込みながら、記憶にある低い声で苦笑する。
「さすが大魔女様、容赦ないな」
「この位じゃ示しがつかないわよ。大罪人の領主様?」
「領主、か」
魔力の残った魔女の男性は例外なく領主となる。つまり、今でも魔法を使うカインは、紛れもなくこの村の六人目の領主ということだ。
掟に背き、ずっと魔女の村の外で暮らしていたーーーー領主。
「村の外で暮らしたから……罪人だなんて」
「そんな罪、可愛い方よ。まだわからないの、シア。魔女になるにはどうするんだったかしら?」
「え、領主様から直接魔力を貰って……あ!」
領主が魔女達と違い、ハーレム状態とはいえ村から一歩も出てはいけないのは、外の世界で一般人を魔女にしてしまう危険性があるからである。
魔女とされた女性に自覚があればまだいい方だ。
シアのように知らないうちに魔力を持ち、使い方も知らずその力を暴走させてしまったり、その力を誇示し悪用されるようになれば、再び人々に魔女は危険視され、中世の悪夢に逆戻りとなるだろう。
村の魔女が外へ出る際の数々の規制も、魔女以外は村に住めない掟も、全て二度と魔女狩りの悲劇を繰り返さないための防御策だった。
「つまりこの愚弟は魔力を持ったまま村を離れ、外の世界で貴方を魔女にしてしまうという禁忌を犯したのよ」
カインが困ったように視線を上げ、静かに真実を告げた。
「そうだ、シアは俺が魔女にしたーーーー被害者だ」
あの時勢いでしたファーストキス。
そういえば運がよくなったのもその頃からだったとシアは思い出す。小さい頃は雨にも降られたし、くじ運もどちらかと言えば悪い方で。
つまりシアの魔力は精霊の加護でも先祖から受け継いだものでもない、六人目領主のカインから、そうと知らずに受けとったものだったのだ。
シアは震えながらその信じがたい事実を受け止める。
逃避したい衝動を抑え、だがシアはルカに訴えた。
「でもルカ様、カインは悪くないです。あれは……カインの許可も返事も貰わずに、私が勝手にしてしまっただけで……」
「いいえ。そもそも掟を知っていながら、村の外で貴方と一緒に過ごしてきたーー完全にカインの失態よ」
「そ、全部俺が悪い。庇わなくていいぞ、シア」
カインはスッと立ち上がり、ルカに頭を下げる。
「観念する。罰でも何でも受ける。好きにしてくれ」
そして顔を上げると、真正面からルカを見据え訴えた。
「ただ、シアは……被害者なんだ。魔力さえなければここに来なかった……見逃してほしいーーーー」
「カイン!」
シアの言葉を遮り、カインは淡々と現状をルカに伝える。
「まだ薬の作り方しか知らない。魔力の暴走危険値は百だから、魔力値七十二ならこれまで通り、暴走もなくまだ普通の人でいられる」
今まで通り、ただ運がいい、勘がいいくらいの一般人に。
「暴走危険値……?」
「そう、大きすぎる魔力は制御法を知らなければいずれ暴走する。その目安の値が魔力暴走危険値。だから魔力値が百を超えれば、魔法の使い方をまだ知らなくても、強制的に村に残ることになるのよ」
シアの疑問に、大魔女は視線をカインから離さないまま丁寧に解説してくれた。
「筋はいいみたいだけど? 貴方ちゃんと教えてなかったでしょう? それにカイン、貴方まだ……」
ルカはカインを真っ直ぐ見つめた。何かを探るように。全てを見透かしそうなその眼光で。
その鋭さに、カインは僅かに顔を赤らめ、思わず視線を逸らす。
「とにかく! シアを帰すためなら俺はーーーー」
すると、全てを察したようにルカが笑みを浮かべた。
「そんな必死になって私に頼まなくてもあるじゃない、シアを絶対に外に帰す方法」
「……っ!」
明らかにカインが動揺していく。
「それとも、出来ないのかしらね? ーー領主様?」
するとカインは、これ以上は話させないとばかりに無言のままルカを避け、傍のシアの腕を掴んだ。
「ちょっと二人にしてくれるか? ……逃げないから」
「え、カイン!?」
そんな言葉を最後に、ルカの姿が掻き消える。
気づけば見晴らしのよい丘の上に立っていた。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
愛なんてどこにもないと知っている
紫楼
恋愛
私は親の選んだ相手と政略結婚をさせられた。
相手には長年の恋人がいて婚約時から全てを諦め、貴族の娘として割り切った。
白い結婚でも社交界でどんなに噂されてもどうでも良い。
結局は追い出されて、家に帰された。
両親には叱られ、兄にはため息を吐かれる。
一年もしないうちに再婚を命じられた。
彼は兄の親友で、兄が私の初恋だと勘違いした人。
私は何も期待できないことを知っている。
彼は私を愛さない。
主人公以外が愛や恋に迷走して暴走しているので、主人公は最後の方しか、トキメキがないです。
作者の脳内の世界観なので現実世界の法律や常識とは重ねないでお読むください。
誤字脱字は多いと思われますので、先にごめんなさい。
他サイトにも載せています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる