隣国は魔法世界

各務みづほ

文字の大きさ
上 下
9 / 98
冒険編

第三章 新たな出会い-1

しおりを挟む
 
 ーーーー凄いわライサ、頑張ったわね、おめでとう!

 誰より慕う王女の声に応えようと声を上げた瞬間、ライサの目が覚める。
 夢を見ていたようだ。

「もう一年も前になるのかぁ。宮廷博士号をとったの」

 王立アカデミー研究員の父の影響で、ライサは小さい頃から科学を学び、科学に囲まれて育った。ところが八年前両親とも事故で亡くしてしまう。
 悲しみに明け暮れ研究に没頭していたところを、アカデミーを訪れた王女が王宮に引き取ってくれたのだ。
 王女の役に少しでも役に立ちたかったライサは、共に学び侍女としての仕事を覚えるが、それでも周囲の目は親のいない彼女に冷たかった。

「意地になって博士号とか特許とか取りまくったのよね」

 その三年程の間、王女とはたまにしか会っていない。
 そして周りにも認められ、王女付きの侍女に正式になれたのは僅か一年前のこと。

「まぁ立場的に、王立の施設には入りやすかったわけで」

 ライサは街道から少し離れた林で鞄からパソコンをとりだし、操作を始めた。
 少々時間がかかったが、衛星を経由して科学世界の王宮にあるサーバーに接続、いくつかのセキュリティも難なく突破する。
 そもそもサーバーの管理はライサも一役かっていたので全く問題はない。
 続けていろいろな検索を開始した。

 科学世界の者が意図的に魔法世界に爆弾を仕掛けたのなら、計画のデータがどこかにあるはずである。
 だが、いろいろな組織のかなり危ない裏データまでハッキングしてみても、この事件に関する情報は見つからなかった。

「おかしいわねぇ。組織でもなく爆弾なんて持ってるはずないしーーま、結構簡単に作れるけど」

 なかなか危ないことをブツブツと言いながら、あちこちの情報を見てまわる。だがやはり欲しい情報は見つからなかった。
 あと考えられるところといえばーー。

「軍隊くらい、か」

 あまり考えたくはなかったが、もうそれくらいしか思い浮かばなかった。
 意を決して軍隊の情報の検索にとりかかる。
 程なくして、科学世界の軍隊の資料から魔法世界の古い地図を発見するが、これは王宮にいるものなら誰でも見ることができるくらいの情報である。
 少なくともライサは、科学世界で魔法世界に侵略するような話は聞いていない。とすると、こんな表の情報では役にたたない。
 彼女は更に、幾つもブロックのかかったガードの固い軍の機密情報を引き出しにかかった。

「うっそ! ちょっと待ってよ! こんなにあるの!?」

 小一時間後、殆ど労もなく軍の機密情報を引っ張り出したライサは愕然とした。
 爆弾が仕掛けられてると思わしきポイントが、何十箇所もあったのだ。
 ターゲットは幸い、ライサが今いるこの街ラクニアに絞られている。おそらく足がないのと、実験的に行ってみようということなのだろう。

「……科学世界から、軍の一部がやってきてるのは確実なんだ……」

 魔法世界でなく科学世界の方が、こんな小細工をしていることにライサはショックだった。
 この世界に来てそろそろ一週間くらいである。魔法使いも知ってみれば普通の人たちだ。
 できれば戦争なんてしたくない、そんな思いが彼女には芽生えていた。

「とりあえず爆弾見つけて解体かな。はぁ、こんなところでそんな知識が必要になるなんて」

 幸い爆発予定時刻まで時間がある。ライサはゆっくり立ち上がった。


  ◇◆◇◆◇

  
「二十個目解体完了! ちょろいっ!」

 適当な宿で寝泊りしながら、ライサはラクニアの街をまわっていた。
 軍の爆弾と言えども、基本構造は変わらない。昔の知識とネットからの情報を元に、特別な道具など使わなくても簡単に解体が出来たし、個数は多いが爆弾は街の中心部に固まってあったので、あちこち行く手間は省けた。
 おそらく派遣された軍もごく少数なのであろう。車もない科学世界の人間では、この大きなラクニアの街全ては網羅できない。

 太陽が真上に昇る頃、周辺の爆弾を全て撤去し終えたライサは、一人昼食でもとろうかと道をぶらぶらと歩きだした。
 周囲は小さなお店や民家がぽつぽつ並んでいる。いわゆる下町のような場所である。
 子供達が何人か集まって遊んでいる光景も見かけられた。

「とりあえず、この街でやることは終わったかな」

 メールを通して王女にこのことを報告すると、案の定、出来ればくい止めて欲しいと連絡が来た。

(姫様……軍のこと知ってらしたのかしら……だからーー)

 思わず預けられた書状に目が行くが、眺めたところでその真意がわかるわけでもない。
 報告はしたし、先に進むことにする。
 どのみちライサが一人で軍を追い詰めることなどできないし、当初の目的である王都への道のりはまだまだ長い。ずっとここに留まっているわけにもいかなかった。

 ライサは昼食をとり終えると、街を出るつもりで門に向かって足を進めた。
 そしてもうあと、五分も歩けば南の門に着くかという頃。

「危ない、どいてやーっ!!」

 突然頭上から声が聞こえた。と思うと同時にゴンッといい音が響く。

(空から人が降ってきた! ここは空から人が降ってきても文句は言えない世界!)

 頭と頭がぶつかった衝撃に目の前が真っ白になったライサは、瞬時にそんな思考を働かせていた。
 いや、もちろん魔法世界といえども普通は文句ぐらい言うが。

「すまんっ。うち高速飛行の練習しとってん」

 ライサと同じように頭を抑えた女の子が、すまなそうに謝った。どう見ても年下の子供である。

「……いいけど。せめて人のいない場所でやんなさいよね」

 痛みに怒る気すら失せたライサは低い声で言った。

「えらいすんません」

 もう頭痛は治ったのか、というくらいにあっけらかんと女の子が笑う。
 ライサはまだ少し痛む頭を抑えながら、再び歩みを進めようとした。

「リーニャ、大変やで! リーニャのお母さん、また倒れてまったで!」

 遠くから女の子と同じくらいの男の子が、大声で叫びながら走ってくる。どうやらぶつかってきた子はリーニャという名前らしい。

「なんやて!? 今朝はだいぶよーなったって」

 リーニャは呟くや否や、家に向かって走り去って行った。


  ◇◆◇◆◇


「母ちゃん、母ちゃん!」

 リーニャは母親のベッドの傍に駆け寄ると、泣きながら母の名を呼んだ。青い顔で呼吸も苦しそうな母親の状態を見て号泣する。

「リーニャ? 帰ってたの?」

 台所の方から女性の声が聞こえ、リーニャは泣きながら振り向いた。
 少しウェーブのかかった紺色の髪を、後ろで一本のお下げにして結っている。肌は白く目は緑がかってとても美しく、額にはペンダント状の赤い宝石のついた鎖をかけていた。
 服装はそれに反してやや軽快な格好で、短い巻きスカートをはいている。

「サヤ姉ちゃん……母ちゃんは」

 小さな声で訴えるように話すリーニャに、台所からきた女性サヤは、答えにくそうな顔をした。
 医療器具を扱い、リーニャの母親をもう一度診る。彼女は医師だった。

「あのね、リーニャ、手はつくしてみるんだけど……」

 しどろもどろにサヤが状態を伝えようとすると、

「そんな! 助からへんのん!?」

 リーニャが涙をぼろぼろ流しながら崩れ落ちた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

47歳のおじさんが異世界に召喚されたら不動明王に化身して感謝力で無双しまくっちゃう件!

のんたろう
ファンタジー
異世界マーラに召喚された凝流(しこる)は、 ハサンと名を変えて異世界で 聖騎士として生きることを決める。 ここでの世界では 感謝の力が有効と知る。 魔王スマターを倒せ! 不動明王へと化身せよ! 聖騎士ハサン伝説の伝承! 略称は「しなおじ」! 年内書籍化予定!

「専門職に劣るからいらない」とパーティから追放された万能勇者、教育係として新人と組んだらヤベェ奴らだった。俺を追放した連中は自滅してるもよう

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「近接は戦士に劣って、魔法は魔法使いに劣って、回復は回復術師に劣る勇者とか、居ても邪魔なだけだ」  パーティを組んでBランク冒険者になったアンリ。  彼は世界でも稀有なる才能である、全てのスキルを使う事が出来るユニークスキル「オールラウンダー」の持ち主である。  彼は「オールラウンダー」を持つ者だけがなれる、全てのスキルに適性を持つ「勇者」職についていた。  あらゆるスキルを使いこなしていた彼だが、専門職に劣っているという理由でパーティを追放されてしまう。  元パーティメンバーから装備を奪われ、「アイツはパーティの金を盗んだ」と悪評を流された事により、誰も彼を受け入れてくれなかった。  孤児であるアンリは帰る場所などなく、途方にくれているとギルド職員から新人の教官になる提案をされる。 「誰も組んでくれないなら、新人を育て上げてパーティを組んだ方が良いかもな」  アンリには夢があった。かつて災害で家族を失い、自らも死ぬ寸前の所を助けてくれた冒険者に礼を言うという夢。  しかし助けてくれた冒険者が居る場所は、Sランク冒険者しか踏み入ることが許されない危険な土地。夢を叶えるためにはSランクになる必要があった。  誰もパーティを組んでくれないのなら、多少遠回りになるが、育て上げた新人とパーティを組みSランクを目指そう。  そう思い提案を受け、新人とパーティを組み心機一転を図るアンリ。だが彼の元に来た新人は。  モンスターに追いかけ回されて泣き出すタンク。  拳に攻撃魔法を乗せて戦う殴りマジシャン。  ケガに対して、気合いで治せと無茶振りをする体育会系ヒーラー。  どいつもこいつも一癖も二癖もある問題児に頭を抱えるアンリだが、彼は持ち前の万能っぷりで次々と問題を解決し、仲間たちとSランクを目指してランクを上げていった。  彼が新人教育に頭を抱える一方で、彼を追放したパーティは段々とパーティ崩壊の道を辿ることになる。彼らは気付いていなかった、アンリが近接、遠距離、補助、“それ以外”の全てを1人でこなしてくれていた事に。 ※ 人間、エルフ、獣人等の複数ヒロインのハーレム物です。 ※ 小説家になろうさんでも投稿しております。面白いと感じたらそちらもブクマや評価をしていただけると励みになります。 ※ イラストはどろねみ先生に描いて頂きました。

黙示録戦争後に残された世界でたった一人冷凍睡眠から蘇ったオレが超科学のチート人工知能の超美女とともに文芸復興を目指す物語。

あっちゅまん
ファンタジー
黙示録の最終戦争は実際に起きてしまった……そして、人類は一度滅亡した。 だが、もう一度世界は創生され、新しい魔法文明が栄えた世界となっていた。 ところが、そんな中、冷凍睡眠されていたオレはなんと蘇生されてしまったのだ。 オレを目覚めさせた超絶ボディの超科学の人工頭脳の超美女と、オレの飼っていた粘菌が超進化したメイドと、同じく飼っていたペットの超進化したフクロウの紳士と、コレクションのフィギュアが生命を宿した双子の女子高生アンドロイドとともに、魔力がないのに元の世界の科学力を使って、マンガ・アニメを蘇らせ、この世界でも流行させるために頑張る話。 そして、そのついでに、街をどんどん発展させて建国して、いつのまにか世界にめちゃくちゃ影響力のある存在になっていく物語です。 【黙示録戦争後に残された世界観及び設定集】も別にアップしています。 よければ参考にしてください。

南洋王国冒険綺譚・ジャスミンの島の物語

猫村まぬる
ファンタジー
海外出張からの帰りに事故に遭い、気づいた時にはどことも知れない南の島で幽閉されていた南洋海(ミナミ ヒロミ)は、年上の少年たち相手にも決してひるまない、誇り高き少女剣士と出会う。現代文明の及ばないこの島は、いったい何なのか。たった一人の肉親である妹・茉莉のいる日本へ帰るため、道筋の見えない冒険の旅が始まる。 (全32章です)

隣国は科学世界 ー隣国は魔法世界 another storyー

各務みづほ
ファンタジー
【魔法使いの少年が飛ばされたのは、隣国科学世界、最東端の街だったーー】  ◆完結済みの本編「隣国は魔法世界」のサイドストーリーです。  ◆ネタバレ含みますので、本編から読んでいただればと思います。 魔法世界オスフォード王国で、偉大な師の元すくすく育つ九歳の少年ディルク。 ある日一人で転移魔法の練習をしていたところ、失敗して別世界へと飛ばされてしまう。 巨大で強固な結界に弾かれ、重傷を負った彼がたどり着いたのは、現在休戦中である隣国の科学世界メルレーン王国だった。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

科学チートで江戸大改革! 俺は田沼意次のブレーンで現代と江戸を行ったり来たり

中七七三
ファンタジー
■■アルファポリス 第3回歴史・時代小説大賞 読者賞受賞■■ 天明六年(1786年)五月一五日―― 失脚の瀬戸際にあった田沼意次が祈祷を行った。 その願いが「大元帥明王」に届く。 結果、21世紀の現代に住む俺は江戸時代に召喚された。 俺は、江戸時代と現代を自由に行き来できるスキルをもらった。 その力で田沼意次の政治を助けるのが俺の役目となった。 しかも、それで得た報酬は俺のモノだ。 21世紀の科学で俺は江戸時代を変える。 いや近代の歴史を変えるのである。 2017/9/19 プロ編集者の評価を自分なりに消化して、主人公の説得力強化を狙いました。 時代選定が「地味」は、これからの展開でカバーするとしてですね。 冒頭で主人公が選ばれるのが唐突なので、その辺りつながるような話を0話プロローグで追加しました。 失敗の場合、消して元に戻します。

僕の兄上マジチート ~いや、お前のが凄いよ~

SHIN
ファンタジー
それは、ある少年の物語。 ある日、前世の記憶を取り戻した少年が大切な人と再会したり周りのチートぷりに感嘆したりするけど、実は少年の方が凄かった話し。 『僕の兄上はチート過ぎて人なのに魔王です。』 『そういうお前は、愛され過ぎてチートだよな。』 そんな感じ。 『悪役令嬢はもらい受けます』の彼らが織り成すファンタジー作品です。良かったら見ていってね。 隔週日曜日に更新予定。

処理中です...