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後編

第十三章 隣国からの来訪者-4

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『『『科学!!?』』』

 ディルクがその名を口にすると、ガルは目に見えて青ざめ、ネスレイは硬直、マナは珍しく動揺を露わにした。
 そして軍の可能性を告げると皆一様に顔を険しくし、戦う構えを見せる。

(やっぱりライサのことは言わなくてよかったな)

 下手をすると、帰すなり捕らえるなりといった話になったかもしれない。
 まぁあとは各々の判断に任せようーーディルクが報告のみを済ませ通信を切ろうとすると、不意にネスレイから声がかかった。

『ディルク』

 皆の顔がいつになく張り詰めている。一瞬ディルクは彼女の疑いがかかったのかと緊張した。
 しかしふっとガルが緊張を解き、頭をかきながらネスレイの言葉に続く。

『あ、あー俺も気になってたんだ。えーと、つまり君はどのくらい、科学を知ってる?』
「え?」

 一斉の沈黙。三者三様にディルクの言葉をじっと待っているのがわかった。
 とりあえずライサのことではないようで、ディルクはそっと安堵する。
 そしてふと、亡き師の言葉を思い出した。

 ーーあたしの遠目や通信が効かないのはそこくらいだからねーー

 長く行方不明になった時でも、この同朋たちから特に何も聞かれることはなかったが。
 ディルクは苦笑して皆の方に向き直った。

「やっぱ知ってた? 俺が隣国に行ってたこと」

 すると皆ホッとした顔をしつつ、それぞれに返してきた。

『なんとなく』
『王子の行方不明の時には結構、言われたよな、陛下から。まぁ君と一緒だろうから心配も深入りもしなかったけど』
『誰も突っ込んで聞いていなかったんですねぇ』

 初めて知る真実にディルクは苦笑した。
 知ってて敢えて今まで何も聞かずに黙っていてくれた、その機転に感謝する。

「流石に軍とか武器とかわかんないよ、悪いけど」
『でも今回の襲撃の正体に気づけたのは大きいですね。助かりますよ、ディルク』

 皆が求めるのはその情報。
 そう、圧倒的に情報が足りない。ディルクの薄弱な知識ですら重宝される程に。
 チクリと胸が痛んだ。だって自分は重要な情報源になり得るライサのことを隠しているのだから。
 でも逆に情報を得るために、彼女は何をされるかーーわかったものじゃない。

 そしてそれを助ける者は今この世界には存在しない。
 彼女は魔法使いの敵であり、そして同郷の軍にも邪魔な存在だろう。
 ディルクは一人この世界のため孤軍奮闘する彼女を、出来る限り守りたいと思った。


 彼は続けて王都で待つ王子にも個別に連絡を入れた。

『軍!? 隣国から……それは確かなのかい、ディルシャルク』

 王都に戻らず随分たつ。久しぶりの王子との会話だが、その顔に笑顔は見られなかった。

「俺の見る限りは確実。ラクニアは一番隣国に近いだろう。たまたま侵攻の足がかりにされてたんだと思う」

 王子が目に見えて青ざめる。
 同朋達とは異なった理由での動揺。もう随分交流がないといっても、隣国の恋人のことをこの王子が忘れている筈はない。

『ど、どうしようディルシャルク。た、戦うことになったら……戦争に……敵国になったら……』

 会えないだけでは済まないかもしれない。命の取り合いを、しなければならない。

『姫……ああ、姫……僕は、どうしたら……』
「幸い、爆発事件は収束したがな」

 あまりに王子が震えているので、ディルクは少しだけフォローを入れた。

『ほ、本当かい!? 流石ディルシャルク! ラクニアの民たちが気付く前に、このまま撤退してくれればいいんだけど』

(いや、俺じゃないし、そう簡単にはいかないだろうが)

 爆弾を解体し、攻撃を端から無効にしただけで、大元を叩いた訳ではない。
 どこかに軍の拠点があるはずだ。
 ガルが街の隅々まで知らない者がいないか目を光らせているが、如何せんラクニアは広すぎる。敵が何人来ているかはわからないが、ごく数人、いや、数十人でも探すのは至難の技だろう。

『姫は……このことを知っているのだろうか』
「どうかな。でもあの王女様なら……」

 続けようとして口をつぐむ。あまり王子に不用意なことは言えない。
 でも、なんとなく確信している。

 ーーーーあの王女なら、知っていたら、止めようとするのではないかーーーー

 遠い異国のことで知りようもないが、もしかしたら今頃、王族相手に彼女なりに戦い、助けが必要な状況なのかもしれない。

(あれ……?)

 不意に何かが引っかかった。パズルのピースが綺麗に合わないような、もやもやした感覚。すぐそこに答えがある気がするのに。


「マスター!」

 サヤが心配そうにディルクの顔を覗き込んだ。王子との連絡を終えてから随分と思考に耽っていたようだ。

「あ、ああ、フィデス、悪いな。少し考え事してて……どうした?」
「リーニャの母親も回復して、ライサさん、当初の目的の通り王都に向かうようです。なので、私も可能なら同行しようと思っています」
「そうか」

 あの中年の女性は回復したのか、流石科学だなと、ディルクは心の中で感心する。 部下の手前、無関心を決め込んだが。

「すまないが、もう少し目を離さずにいてくれないか」
「かしこまりました」

 合流も考えたが、軍の拠点を探すには一人の方が動きやすい。

(なんでもかんでもライサ任せにするのもな)

 額のサークレットと残っている僅かな魔力を確認し、ディルクもガルとは別に軍の捜索を開始した。
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