59 / 157
人間界 約束の地にて 会う
3
しおりを挟む
「その・・・口元を布で隠されているのは、信仰上の理由かなにかですか・・・いえ、もちろん、ローズさんが異教徒の方でも、楽器を弾くことができる方なら、お仕事をお願いすることになるかと思います。信じる教えが異なっても、信じる想いに違いはありません。入り口が異なろうとも、それらの道は最後には真理に通じるのですから」
(たいしたものだ・・・)
揺るがない光を宿した瞳で語られた言葉。ラシュレスタが感心した。
おそらくはこの姿を見てから、ずっと疑問に思っていたのだろう。なぜ顔を布で半分隠し、フードを深く被っているのか。それを思いやりをもった言葉で機を見て尋ねる。
そして今、ルーカが口にした信念こそが、あの方の教えなのだ。ヤヌスティーヤ教。光源である神。その代弁者たる大天使を信仰の対象とし、崇拝する宗教。
ヤヌスティーヤという名前で地上にあえて降ろし、広まることを望まれている・・・あの方の想いはいかばかりか。お気持ちを考えると心が痛む―――ラシュレスタが胸にぶら下がっているペンダントをギュッと握りしめた。
「実はひどい火傷を負ってしまい、皮膚が醜く引き攣った状態なのです。見た人が困惑するほどに。ですので、布でできるだけ覆って隠しております」
「そ、そうだったのですか・・・それは配慮のないことを聞いてしまいました・・・申し訳ございません」
「いえ、遠慮なく聞いて頂いた方がありがたいです。私としてはここでのお仕事に縁があって、長くお付き合いをしたいと望んでおりますので・・・」
もちろん、本当の理由はそうではない。髪も瞳もどんなに地味な色に変えようとも、老若男女問わず、言い寄られ続けるのに辟易した結果、辿り着いた窮余の策というのが実情だ。
「そう言って頂けると、心が楽になります。ローズさん、ありがとうございます」
ホッとしたように、ルーカが笑顔を向けてきた。その人の良さと清らかさを感じさせる笑顔。ラシュレスタの中でもまた天界の属性がふわんと広がる。
「ついでに・・・といったら、大変失礼なのですが、この際、あの・・・その・・・」
「えぇ、なんでしょう?」
やや躊躇したものの、にこやかに促されてルーカが口を開いた。
「あの・・・ローズさんは・・・その・・・どの教えを信仰されてますか? ヤヌスティーヤ教ではないような印象なのですが・・・今後のお付き合いのためにも、もしよろしかったら、教えて頂ければ・・・」
これから仕事を依頼できるかどうか。相手の人となりや生活習慣について知りたがることは決して不自然ではない。いや、むしろ確認してもらわないと変だろう。
今後、ヤヌスティーヤ教は多くの国で国教となる。だが今は、土着の神々を信じる多神教や民間信仰も根強い。さて、なんて答えようか――と思案を巡らすラシュレスタにルーカがさらに尋ねた。
「あの、その・・・今、握りしめてらっしゃる、その小さな鏡のような物はもしかして・・・?」
(そう来たか・・・)
不自然ではなかったが、意外な展開を見せた会話にラシュレスタが内心、苦笑した。
(たいしたものだ・・・)
揺るがない光を宿した瞳で語られた言葉。ラシュレスタが感心した。
おそらくはこの姿を見てから、ずっと疑問に思っていたのだろう。なぜ顔を布で半分隠し、フードを深く被っているのか。それを思いやりをもった言葉で機を見て尋ねる。
そして今、ルーカが口にした信念こそが、あの方の教えなのだ。ヤヌスティーヤ教。光源である神。その代弁者たる大天使を信仰の対象とし、崇拝する宗教。
ヤヌスティーヤという名前で地上にあえて降ろし、広まることを望まれている・・・あの方の想いはいかばかりか。お気持ちを考えると心が痛む―――ラシュレスタが胸にぶら下がっているペンダントをギュッと握りしめた。
「実はひどい火傷を負ってしまい、皮膚が醜く引き攣った状態なのです。見た人が困惑するほどに。ですので、布でできるだけ覆って隠しております」
「そ、そうだったのですか・・・それは配慮のないことを聞いてしまいました・・・申し訳ございません」
「いえ、遠慮なく聞いて頂いた方がありがたいです。私としてはここでのお仕事に縁があって、長くお付き合いをしたいと望んでおりますので・・・」
もちろん、本当の理由はそうではない。髪も瞳もどんなに地味な色に変えようとも、老若男女問わず、言い寄られ続けるのに辟易した結果、辿り着いた窮余の策というのが実情だ。
「そう言って頂けると、心が楽になります。ローズさん、ありがとうございます」
ホッとしたように、ルーカが笑顔を向けてきた。その人の良さと清らかさを感じさせる笑顔。ラシュレスタの中でもまた天界の属性がふわんと広がる。
「ついでに・・・といったら、大変失礼なのですが、この際、あの・・・その・・・」
「えぇ、なんでしょう?」
やや躊躇したものの、にこやかに促されてルーカが口を開いた。
「あの・・・ローズさんは・・・その・・・どの教えを信仰されてますか? ヤヌスティーヤ教ではないような印象なのですが・・・今後のお付き合いのためにも、もしよろしかったら、教えて頂ければ・・・」
これから仕事を依頼できるかどうか。相手の人となりや生活習慣について知りたがることは決して不自然ではない。いや、むしろ確認してもらわないと変だろう。
今後、ヤヌスティーヤ教は多くの国で国教となる。だが今は、土着の神々を信じる多神教や民間信仰も根強い。さて、なんて答えようか――と思案を巡らすラシュレスタにルーカがさらに尋ねた。
「あの、その・・・今、握りしめてらっしゃる、その小さな鏡のような物はもしかして・・・?」
(そう来たか・・・)
不自然ではなかったが、意外な展開を見せた会話にラシュレスタが内心、苦笑した。
0
お気に入りに追加
129
あなたにおすすめの小説
ある日、人気俳優の弟になりました。
樹 ゆき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。
「俺の命は、君のものだよ」
初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……?
平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
恥ずかしがる僕をその気にさせようと、恋人が外堀を埋めてきました
あるのーる
BL
恥ずかしがってキスもさせてくれない受けに自分に慣れさせようと考えた攻めが、慣れるための握手から始め、最終的に淫語ハメ請いをするほど焦らす話です。(全7話)
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている
香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。
異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。
途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。
「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!
生贄として捧げられたら人外にぐちゃぐちゃにされた
キルキ
BL
生贄になった主人公が、正体不明の何かにめちゃくちゃにされ挙げ句、いっぱい愛してもらう話。こんなタイトルですがハピエンです。
人外✕人間
♡喘ぎな分、いつもより過激です。
以下注意
♡喘ぎ/淫語/直腸責め/快楽墜ち/輪姦/異種姦/複数プレイ/フェラ/二輪挿し/無理矢理要素あり
2024/01/31追記
本作品はキルキのオリジナル小説です。
あなたへの初恋は胸に秘めます…だから、これ以上嫌いにならないで欲しいのです──。
櫻坂 真紀
BL
幼い頃は、天使の様に可愛らしかった俺。
でも成長した今の俺に、その面影はない。
そのせいで、初恋の人にあの時の俺だと分かって貰えず……それどころか、彼は他の男を傍に置き……?
あなたへの初恋は、この胸に秘めます。
だから、これ以上嫌いにならないで欲しいのです──。
※このお話はタグにもあるように、攻め以外との行為があります。それが苦手な方はご注意下さい(その回には!を付けてあります)。
※24話で本編完結しました(※が二人のR18回です)。
※番外編として、メインCP以外(金子さんと東さん)の話があり、こちらは13話完結です。R18回には※が付いてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる