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最高天使 降臨
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「ラシュレスタ・・・・・・大丈夫だ」
ややあって聞こえてきた声に、ラシュレスタがハッと顔を上げた。その言葉。いつも不安に揺れた時、微笑みながら口にしてくれていた―――
(シャルスティーヤさま・・・)
そうだ、泣いている場合ではない。少しでも長く、瞬きすら惜しんで見つめていたい存在が今そこにいるのだから。やっと会えた恋しい存在が。
(シャルスティーヤさま・・・)
涙を袖で拭いて、最愛の者が目の前にいる幸せを噛みしめる。途端に、こちらの様子を伺うように小首を傾けていた相手が、スッと右手を下ろした。
「・・・・・・ゆっくり飛ぶ。ついて来い」
静かに告げた後、ふわさっと見事な黄金の翼を背中に広げた。
シャャアァァァァァーーーーッ!!
それだけの動きで黄金の輝きが放射線状に広り、辺り一面を覆い尽くす。愛に満ちた浄化の光。
だが、おそらくは魔物である大烏への負担をも考えたのだろう。その三対の翼から帯びる光の彩度は、本来の輝きから比べると考えられないくらいに低い。それでいて、この上なく美しい。
タンッ・・・・・・
黄金のサンダルを履いた足が地を軽く蹴り上げて、青空へと浮かび上がった。
「カッカァッカァアァァーッ!!
(つ、ついて来いって!? ど、ど、どうする? どうする?)」
「カッカッカァカアァァーッ!?
(ど、ど、どうする? どうする?)」
「早く追いかける・・・・・・でありんすよーっ!!」
魔鏡の後押しで、二羽もまた慌てて飛び立つ。その途端、ふわりと温かい気流がその体を包みこんだ。
人間世界の情報収集を託され、飛行に長けた魔物であろうと到底、天使に追いつくはずがない。
だが、その見えない不思議な力が、後方から前へ前へと優しく押し出してくる。一つ羽ばたけば、千里を進むがごとく。軽やかに、滑るように速く。力がかかることもなく。
大烏たちがそんな状態に戸惑いながらも飛び続ける。離れると宙に浮かんで待っている、その美しく光り輝く存在を目指して。
海を越え、山を越え、やがて新しい陸地上空へと。
(一体、どちらに向かわれているのだ・・・?)
どれだけ飛行しただろうか。疑問を抱いたラシュレスタの視線の先に、小高い丘が見えて来る。
その中央。緑の葉が鮮やかな大木の下で、シャルスティーヤが腕を組んで待っていた。
そこはかつて古代文明が栄えた地。中心地から少し外れた場所にある共同墓地。人の住んでいる気配が皆無の、荒れ果てているようにも見える手つかずな自然。
先ほどの天使たちの集団だろうか。亡霊と化した不浄の魂に一つ一つ丁寧に向き合っては昇天させ、浄化と癒やしの光の粒をキラキラとまき散らしている。
様子を伺うようにして旋回する大烏たちに向けて、美しい存在が笑みを浮かべながら、止まれと指先で側の枝を示した。
ややあって聞こえてきた声に、ラシュレスタがハッと顔を上げた。その言葉。いつも不安に揺れた時、微笑みながら口にしてくれていた―――
(シャルスティーヤさま・・・)
そうだ、泣いている場合ではない。少しでも長く、瞬きすら惜しんで見つめていたい存在が今そこにいるのだから。やっと会えた恋しい存在が。
(シャルスティーヤさま・・・)
涙を袖で拭いて、最愛の者が目の前にいる幸せを噛みしめる。途端に、こちらの様子を伺うように小首を傾けていた相手が、スッと右手を下ろした。
「・・・・・・ゆっくり飛ぶ。ついて来い」
静かに告げた後、ふわさっと見事な黄金の翼を背中に広げた。
シャャアァァァァァーーーーッ!!
それだけの動きで黄金の輝きが放射線状に広り、辺り一面を覆い尽くす。愛に満ちた浄化の光。
だが、おそらくは魔物である大烏への負担をも考えたのだろう。その三対の翼から帯びる光の彩度は、本来の輝きから比べると考えられないくらいに低い。それでいて、この上なく美しい。
タンッ・・・・・・
黄金のサンダルを履いた足が地を軽く蹴り上げて、青空へと浮かび上がった。
「カッカァッカァアァァーッ!!
(つ、ついて来いって!? ど、ど、どうする? どうする?)」
「カッカッカァカアァァーッ!?
(ど、ど、どうする? どうする?)」
「早く追いかける・・・・・・でありんすよーっ!!」
魔鏡の後押しで、二羽もまた慌てて飛び立つ。その途端、ふわりと温かい気流がその体を包みこんだ。
人間世界の情報収集を託され、飛行に長けた魔物であろうと到底、天使に追いつくはずがない。
だが、その見えない不思議な力が、後方から前へ前へと優しく押し出してくる。一つ羽ばたけば、千里を進むがごとく。軽やかに、滑るように速く。力がかかることもなく。
大烏たちがそんな状態に戸惑いながらも飛び続ける。離れると宙に浮かんで待っている、その美しく光り輝く存在を目指して。
海を越え、山を越え、やがて新しい陸地上空へと。
(一体、どちらに向かわれているのだ・・・?)
どれだけ飛行しただろうか。疑問を抱いたラシュレスタの視線の先に、小高い丘が見えて来る。
その中央。緑の葉が鮮やかな大木の下で、シャルスティーヤが腕を組んで待っていた。
そこはかつて古代文明が栄えた地。中心地から少し外れた場所にある共同墓地。人の住んでいる気配が皆無の、荒れ果てているようにも見える手つかずな自然。
先ほどの天使たちの集団だろうか。亡霊と化した不浄の魂に一つ一つ丁寧に向き合っては昇天させ、浄化と癒やしの光の粒をキラキラとまき散らしている。
様子を伺うようにして旋回する大烏たちに向けて、美しい存在が笑みを浮かべながら、止まれと指先で側の枝を示した。
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