36 / 157
最高天使 降臨
3
しおりを挟む
同胞の中でも一番親しかった友。学問を通して地上へ祝福をもたらす天使。必要もないのに、なぜかガラスのレンズを好んでかけ、そして今もかけている。どこか愛嬌のある顔。変わりがない。懐かしい。
「追い払った方がよろしいでしょうか?」
ネミルバが左腕に装着している十字弓型の武具をカシュンッと立てて、身構えた。右手を背中に回して矢を取ろうとする。大烏たちが、ヒッ!! と震え上がった。
「よいのだ」
わずかに背後を気にする様子を見せた存在が右手を挙げて、動きを制す。その変わらない甘い美声。その変わらない美しい所作。ラシュレスタが、あぁ・・・と瞳を潤ませた。
「ですが・・・あれは明らかに魔族の・・・」
「ネミルバ・・・それから残りの者、全員。先に行って、かの地の浄化を。彷徨える死者の魂の救済はもとより不浄が残らないよう、くれぐれも念入りに・・・いいな?」
「あ・・・はい・・・ですが・・・シャルスティーヤさまは・・・その・・・?」
どこか有無を言わせぬ力強い指示。やや戸惑った顔をしながら、ネミルバが尋ねた。
「すぐに追いつく。先に行っててくれ」
「はっ」
この場所に独り残られることに疑問と不安があっても、そもそも異議を言える存在などではない。一同が厳かに頭を下げた後、一体また一体と、翼を広げては飛び立っていく。
日のまだ昇る青空の中。それら天使たちの光が消えて一切がなくなるまで、顔を上げて見送っていた者が一度、視線を落とした。
そして、頭を上げる。静かに振り返った。
黄金の豪奢な髪をキラキラとなびかせて、穏やかな空色の瞳にこの上ない優しさを浮かべて。
その見る者を圧倒させる美しさよ。地上のいかなる芸術家たちがなんとか再現したいと夢みて、切望する美そのものがそこに立っている。
全ての肉体のパーツが黄金比率で象られ、申し分なく配置されているその姿。目、鼻、唇、眉、顔つき、体躯・・・どれをとっても比類なき美しさ。
主張しすぎず、控えめすぎず。絶妙なバランスで隆起している筋肉が、力強さだけでなく優美さをも同時に感じさせるのは、ひとえにその性を超越した美貌ゆえだろう。
いや、もはや形が・・・といった次元ではないのだ。
知性と感性と品性と、その霊力と神性さと力強さと優雅さと。頂点に立つ者だけに許された風格と。存在そのものが尊く麗しい、金色の光を放っている美の化身。
癒やしと共鳴の、最高天使シャルスティーヤ。その最愛にして、唯一無二の存在をラシュレスタが涙を流しながら見つめ続ける。
季節と時刻で様相を変える空のように、同じ青さでも色味をその都度、変化させる瞳。今は澄んだ夏空のようにきれいな水色をしている。大好きだったその瞳。その瞳が今そこにある。
(あぁ・・・・・・)
眉根を寄せた途端、鏡面の中でたたずむ美貌もまた、黄金の眉を少しひそめるようにして、ふっと笑った。
「追い払った方がよろしいでしょうか?」
ネミルバが左腕に装着している十字弓型の武具をカシュンッと立てて、身構えた。右手を背中に回して矢を取ろうとする。大烏たちが、ヒッ!! と震え上がった。
「よいのだ」
わずかに背後を気にする様子を見せた存在が右手を挙げて、動きを制す。その変わらない甘い美声。その変わらない美しい所作。ラシュレスタが、あぁ・・・と瞳を潤ませた。
「ですが・・・あれは明らかに魔族の・・・」
「ネミルバ・・・それから残りの者、全員。先に行って、かの地の浄化を。彷徨える死者の魂の救済はもとより不浄が残らないよう、くれぐれも念入りに・・・いいな?」
「あ・・・はい・・・ですが・・・シャルスティーヤさまは・・・その・・・?」
どこか有無を言わせぬ力強い指示。やや戸惑った顔をしながら、ネミルバが尋ねた。
「すぐに追いつく。先に行っててくれ」
「はっ」
この場所に独り残られることに疑問と不安があっても、そもそも異議を言える存在などではない。一同が厳かに頭を下げた後、一体また一体と、翼を広げては飛び立っていく。
日のまだ昇る青空の中。それら天使たちの光が消えて一切がなくなるまで、顔を上げて見送っていた者が一度、視線を落とした。
そして、頭を上げる。静かに振り返った。
黄金の豪奢な髪をキラキラとなびかせて、穏やかな空色の瞳にこの上ない優しさを浮かべて。
その見る者を圧倒させる美しさよ。地上のいかなる芸術家たちがなんとか再現したいと夢みて、切望する美そのものがそこに立っている。
全ての肉体のパーツが黄金比率で象られ、申し分なく配置されているその姿。目、鼻、唇、眉、顔つき、体躯・・・どれをとっても比類なき美しさ。
主張しすぎず、控えめすぎず。絶妙なバランスで隆起している筋肉が、力強さだけでなく優美さをも同時に感じさせるのは、ひとえにその性を超越した美貌ゆえだろう。
いや、もはや形が・・・といった次元ではないのだ。
知性と感性と品性と、その霊力と神性さと力強さと優雅さと。頂点に立つ者だけに許された風格と。存在そのものが尊く麗しい、金色の光を放っている美の化身。
癒やしと共鳴の、最高天使シャルスティーヤ。その最愛にして、唯一無二の存在をラシュレスタが涙を流しながら見つめ続ける。
季節と時刻で様相を変える空のように、同じ青さでも色味をその都度、変化させる瞳。今は澄んだ夏空のようにきれいな水色をしている。大好きだったその瞳。その瞳が今そこにある。
(あぁ・・・・・・)
眉根を寄せた途端、鏡面の中でたたずむ美貌もまた、黄金の眉を少しひそめるようにして、ふっと笑った。
0
お気に入りに追加
129
あなたにおすすめの小説
ある日、人気俳優の弟になりました。
樹 ゆき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。
「俺の命は、君のものだよ」
初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……?
平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている
香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。
異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。
途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。
「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!
生贄として捧げられたら人外にぐちゃぐちゃにされた
キルキ
BL
生贄になった主人公が、正体不明の何かにめちゃくちゃにされ挙げ句、いっぱい愛してもらう話。こんなタイトルですがハピエンです。
人外✕人間
♡喘ぎな分、いつもより過激です。
以下注意
♡喘ぎ/淫語/直腸責め/快楽墜ち/輪姦/異種姦/複数プレイ/フェラ/二輪挿し/無理矢理要素あり
2024/01/31追記
本作品はキルキのオリジナル小説です。
あなたへの初恋は胸に秘めます…だから、これ以上嫌いにならないで欲しいのです──。
櫻坂 真紀
BL
幼い頃は、天使の様に可愛らしかった俺。
でも成長した今の俺に、その面影はない。
そのせいで、初恋の人にあの時の俺だと分かって貰えず……それどころか、彼は他の男を傍に置き……?
あなたへの初恋は、この胸に秘めます。
だから、これ以上嫌いにならないで欲しいのです──。
※このお話はタグにもあるように、攻め以外との行為があります。それが苦手な方はご注意下さい(その回には!を付けてあります)。
※24話で本編完結しました(※が二人のR18回です)。
※番外編として、メインCP以外(金子さんと東さん)の話があり、こちらは13話完結です。R18回には※が付いてます。
【完結】可愛い女の子との甘い結婚生活を夢見ていたのに嫁に来たのはクールな男だった
cyan
BL
戦争から帰って華々しく凱旋を果たしたアルマ。これからは妻を迎え穏やかに過ごしたいと思っていたが、外見が厳ついアルマの嫁に来てくれる女性はなかなか現れない。
一生独身かと絶望しているところに、隣国から嫁になりたいと手紙が届き、即決で嫁に迎えることを決意したが、嫁いできたのは綺麗といえば綺麗だが男だった。
戸惑いながら嫁(男)との生活が始まる。
白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる