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15:エピローグ

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 「ハデスは私の尊敬する兄、私たちオリュンポスの誇り高き頂点、大好き・・・けれど、ずっと愛しているのは、イアシオン、彼だけ」

 イオシオンという名を聞いて。あぁ、よかったと。長年のわだかまりが解けて、ホッと安堵する。と、また微笑まれた。

 「やっぱり誤解していた・・・私が兄さんのお前への求婚を拒んだのは、穏やかで優しかったレウケーが自死したから・・・豊穣の神族であるお前を冥府へと行かせたくなかった。

 でも、あれからずっと悔やんでた。もっと早くにハデスと結ばせて、あの場に、お前がいなかったらと・・・」

 「母さん・・・」

 「ごめんなさい・・・ペルセ」
 
 「母さん、オレのことはいいから・・・クレタのイアシオンの所に行って。幸せになって」

 身勝手極まりないゼウスによって、阻まれている恋なのだ。これからは好きな相手と過ごして欲しい。

 「ペルセ・・・」

 「絶対に、オレのことを思うなら、クロノスの所だけは行かないで。約束して」

 「ペルセ・・・でも、お前を・・・あぁ、どうしたら・・・ハデス・・・そうだ。兄さんなら、きっと・・・」

 「ダメだ!! 母さん、ハデスを巻きこんだら、いやだ!!」

 「ペルセ・・・」

 「お願い・・・ハデスには・・・ハデスには・・・」

 相手は卑劣なクロノスなのだ。たとえ、ハデスが不死身であっても。恐怖の奈落タルタロスは先祖種ティターンの拠点、オトリュスにもあるのだ。

 捕らえられ、無限の苦痛を与えられる監獄にでも繋がれたら。自分もまた生きてはいけない。涙が零れ落ちる。

 「では、ずっと、私もお前とここにいる・・・」

 その言葉にも首を横に振った。

 「母さん・・・オレがここを出て行かされたように・・・多分、身体がきっと・・・」

 「あっ・・・」

 伝えた途端、デメテルが全身を震わせた。そう、動かされることになるのだ。時の王の呪いの力で。

 「ペルセ!! ああっ、そんな!!」

 時の監獄に囚われるのは独りだけ。そう宣告するかのように、デメテルの足がフラフラと歩き始める。

 「母さん、イアシオンの所で幸せに過ごして・・・お願いだから」

 「ペルセ!! ペルセ!! あぁ、なんで!!」

 自身の意図とは関係なく、動く身体に。デメテルが必死に逆らおうとする。

 「母さん、河に渡し守が待っているから。その舟を使って。あと、これを持っていって」

 通貨の入った袋を外に向けて投げた。デメテルが完全に出ると、ビヨンッと音がして。通路が閉ざされた。

 床に泣き崩れている母親の姿が見え、遠ざかっていく。天井高く、上昇しているのだ。

 「デメテルさま!!」

 傍らに、年老いた従僕が走り寄っていく。あの日から、ずっと。外に逃げることをせずに、ここを守り続けてくれている、デルタ属性の精霊ニュムペーだ。

 (セイレーン、母さんを頼む・・・)

 信頼のできるあの者なら、きっと。母をしっかりと導いてくれるだろう。自分の旅立ちの時と同様に。

 (ハデス・・・)

 天井の窓から星空を見上げる。行きたい場所も行けなくはない、この宮殿内であれば。この通路の中から出られないだけで。

 (オレのことを・・・今頃、探してくれているだろうか)

 だが、長くかかれば。きっと、忘れられてしまうだろう。父親も叔父も一度たりとも。母の不在を引きこもりだと思って、探さなかったのだから。

 (ハデス・・・)

 それでも願わずにはいられない。また、いつか会えると。そっと腹に手を置いて。静かに目を閉じた。


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