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14:囚われて※
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(間違いだったのなら、それはそれでいい・・・)
スフィンクスがメスで、襲いかかる可能性がないのならば。霊託がどこかで間違っていたとするのならば。
それはそれでいいじゃないかと。王妃に望まぬ妊娠など、して欲しくないのだから。
アトラスの腕の中で。つらつらと考えている内に、気が付けば――その扉の前に立っていた。
「こちらでございます」
キラキラと白金に輝く大きな扉の前で、恭しく。スフィンクスが頭を下げた。
「どうぞ開けて、お入り下さい」
(あぁ・・・なんだ・・・この・・・感覚は・・・)
腕から床へと、静かに降ろされながら。突如として身に起った、その異様な体感におののいた。
(なんか・・・なんか・・・)
ドクドクッ、ドクドクッと鼓動が速まり、呼ばれている・・・となぜだか、強くそう感じる。
食い入るように見つめる前で、アトラスがブワンッと。青紫色の気を両手にまとった。光る扉に置き、グッと左右に押して広げる。
スォォンッ・・・・・・
と逆らうこともなく、扉が開いた。
その片側を押さえるようにして立つアトラスの前を。中から、見えない腕にでも引き寄せられているかのように、通り過ぎていく。
一度、踏み入れれば、そこはもう。白光を反射し合う鏡と水晶の世界で。
天井も床も四方に鏡が貼られ、どこからどこまでが現実で、どこからが鏡の世界なのか。わからなくなる。
もしかしたら、この場所自体が異空間なのかもしれないと。
心の片隅で思いながらも、大小様々に尖った角柱の。無数の水晶で守られた通路が続く、その到着地点。壇上しか、もはや見えていない。
スォォンッ・・・・・・
背後で扉が閉まった音をわずかに耳にしながら、一歩また一歩と。前方にある、赤紫色の気に厳重に護られた物体へと近づいていく。
幅広く高い階段を上がり続け、最上階へとたどり着けば。
(あぁ・・・)
メラメラと立ちこめる、強力な呪符の気の中で。その物体は、キラキラと黄金色の光を発しながら、台座に寄りかかるようにして立っていた。
(これは・・・)
両手を胸の前で交差させて眠る女の像にも見える棺は。入れ物の蓋のはずなのに、どこか生きているように艶めかしく、美しくて。
そして、その両手の間に、ボワンッと。赤紫色に燃え立つ炎がある。
「あっ・・・」
その炎の中で、ギロリと。何かが蠢いた。けれども、不思議と怖くない。それどころか―――
(開けないと・・・早く・・・開けないと・・・)
中にいるモノから、すぐにでも開けてと。せかされているかのような感覚に。後先考えずに、震える手を差し伸べる。
途端に、炎がふわんと上へと舞い上がり、スォォンッ・・・と。女の形をしたフタが勢いよく横にズレた。
「!!」
その瞬間、棺の前で膝から崩れ落ちた。
「あぁ・・・そんな・・・」
視界が、瞬時にして涙でぼやけた。
「まさか・・・そんな・・・まさか・・・」
そのユラユラと揺れる姿を目にした、その時に。全てが、全ての失われた記憶が蘇った。
「そんな・・・なぜ・・・あぁ、なぜ・・・なぜなんだ・・・あぁ・・・」
震える声で、問いかける。
「なぜ・・・なぜ、こんなことを・・・・・・したんだ、ハデス!!」
スフィンクスがメスで、襲いかかる可能性がないのならば。霊託がどこかで間違っていたとするのならば。
それはそれでいいじゃないかと。王妃に望まぬ妊娠など、して欲しくないのだから。
アトラスの腕の中で。つらつらと考えている内に、気が付けば――その扉の前に立っていた。
「こちらでございます」
キラキラと白金に輝く大きな扉の前で、恭しく。スフィンクスが頭を下げた。
「どうぞ開けて、お入り下さい」
(あぁ・・・なんだ・・・この・・・感覚は・・・)
腕から床へと、静かに降ろされながら。突如として身に起った、その異様な体感におののいた。
(なんか・・・なんか・・・)
ドクドクッ、ドクドクッと鼓動が速まり、呼ばれている・・・となぜだか、強くそう感じる。
食い入るように見つめる前で、アトラスがブワンッと。青紫色の気を両手にまとった。光る扉に置き、グッと左右に押して広げる。
スォォンッ・・・・・・
と逆らうこともなく、扉が開いた。
その片側を押さえるようにして立つアトラスの前を。中から、見えない腕にでも引き寄せられているかのように、通り過ぎていく。
一度、踏み入れれば、そこはもう。白光を反射し合う鏡と水晶の世界で。
天井も床も四方に鏡が貼られ、どこからどこまでが現実で、どこからが鏡の世界なのか。わからなくなる。
もしかしたら、この場所自体が異空間なのかもしれないと。
心の片隅で思いながらも、大小様々に尖った角柱の。無数の水晶で守られた通路が続く、その到着地点。壇上しか、もはや見えていない。
スォォンッ・・・・・・
背後で扉が閉まった音をわずかに耳にしながら、一歩また一歩と。前方にある、赤紫色の気に厳重に護られた物体へと近づいていく。
幅広く高い階段を上がり続け、最上階へとたどり着けば。
(あぁ・・・)
メラメラと立ちこめる、強力な呪符の気の中で。その物体は、キラキラと黄金色の光を発しながら、台座に寄りかかるようにして立っていた。
(これは・・・)
両手を胸の前で交差させて眠る女の像にも見える棺は。入れ物の蓋のはずなのに、どこか生きているように艶めかしく、美しくて。
そして、その両手の間に、ボワンッと。赤紫色に燃え立つ炎がある。
「あっ・・・」
その炎の中で、ギロリと。何かが蠢いた。けれども、不思議と怖くない。それどころか―――
(開けないと・・・早く・・・開けないと・・・)
中にいるモノから、すぐにでも開けてと。せかされているかのような感覚に。後先考えずに、震える手を差し伸べる。
途端に、炎がふわんと上へと舞い上がり、スォォンッ・・・と。女の形をしたフタが勢いよく横にズレた。
「!!」
その瞬間、棺の前で膝から崩れ落ちた。
「あぁ・・・そんな・・・」
視界が、瞬時にして涙でぼやけた。
「まさか・・・そんな・・・まさか・・・」
そのユラユラと揺れる姿を目にした、その時に。全てが、全ての失われた記憶が蘇った。
「そんな・・・なぜ・・・あぁ、なぜ・・・なぜなんだ・・・あぁ・・・」
震える声で、問いかける。
「なぜ・・・なぜ、こんなことを・・・・・・したんだ、ハデス!!」
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