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13:スフィンクスの館と再生の泉と

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 そこは闇だった。真っ暗な闇の中にいる。深い漆黒の中で。声が聞こえた。

 『頼む・・・頼むから、落ち着いて・・・待って・・・待ってくれ』

 弱々しく懇願する男の声に。どこかで聞いたことがあると感じた。

 『誰なんだ・・・誰がお前をそうさせた? 言え・・・誰のために、そんなことをした!!』

 続けて聞こえてきた、荒々しく問い詰める別の声にも。すぐさま、知っていると感じ取る。

 『アレスか? アレスに惚れたのか? それか、ダフネという精霊ニュムペーのアルファか? 一体、誰なんだ!!』

 『ち、違う・・・アレスもダフネも関係ない・・・オレが・・・オレが自分で・・・』

 『だったら、なんで、そんなことをしているんだ!! すぐに元に戻せ。出ないと・・・この者の首をへし折る』

 『ヒッ・・た、助けて・・・・』

 『だ、だめだ、そんなこと!! や、やめてくれ!! ダナエーは一切悪くない。だから、離して・・・た、頼むから・・・』

 『お前をたぶらかし、お前に術をかけた。その罰を与える』

 『違う、そ、そうじゃない!! 待って、待ってくれ!! 戻す、戻すから・・・落ち着いて』

 姿の見えない、声だけしか聞こえない暗闇の中、このやり取りは・・・と意識が問いかける。そうだ、このやり取りをしているのは――

 (オレだ・・・)

 そう認識した途端、ハッと目が覚めた――

 (なんだ・・・今の・・・夢は・・・)

 ハァハァと自然と乱れている息の中、振り返る。

 今までと違って、声だけしかなかった夢だ。だが、はっきりと感じる。あれは自分の声だ。そして、もう一人のひどく憤っていた男の声は――

 (アトラス・・・?)

 けれども、即座に。いや、ちょっと待てと。本当にアトラスなのかともう一度、考え直す。夢だというのに、なぜだか現実にあった出来事のように無性に思えて。

 だが、そうであるのならば、自分は以前、アトラスを知っていたことになる。そんなことはあるのだろうか。

 (いや、違うはずだ・・・だって・・・)

 それだと、なぜ、アトラスは以前からの知り合いだと自分に言わないのか。納得できない。

 (それに・・・)

 アレスとは、ダフネとは、ダナエーとは、誰のことなのか。初めて、夢の中に出てきた具体的な名前に、考えを懸命に巡らす。

 にもかかわらず、アレスという名は軍神のアルファ神族ぐらいしか思い起こせない。他のダフネとダナエーに関しては、全く身に覚えがない。

 (誰なんだろう・・・)

 たわいのない、意味など持たない夢と一蹴するには、あまりにも生々しくて。そして、心の底で感じずには入られないのだ。これは本当にあったことなのだと。

 (どういうことなんだろうか・・・)

 自分の失われた記憶に通じているに違いない。だとしても、ごっそりと根こそぎ、奪われているのか。考えても考えても、何の手応えもない。

 (アトラス・・・なのか・・・)

 激高する男の声はとても似ていたような気がする。だが、気がする・・・だけで、そうだとも、違うとも。判断する情報が脳裏に浮かばない。やはり、ただの夢なのか。

 (アトラス・・・)

 その疑念を感じる相手へと。想いを寄せた途端、自分の置かれている現状に意識が移った。

 (あっ・・・)

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