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12:ペガサスの懇願とツガイとしての求愛と※

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 『私はペガサス。性を持たない神獣です。わずかですが、先を見通す力を持っています。私は必ずや、あなたさまと最愛の方のお役に立つでしょう。ミノタウロスのアスピダとともに・・・ですので、母をどうか、許して頂けませんか』

 その穏やかで清澄せいちょうな念に、左の胸の気泉クレーネーがじわんと熱くなる。

 (なんて、美しい・・・)

 あのオリーブの葉に宿っていた魂の正体が天馬だったとは。キラキラと光の粒子を放つ、美麗な存在を感嘆とともに見つめずにはいられない。

 「私を母と呼ぶ、お前は誰・・・?」

 メデューサが首を右に左に動かして、おずおずと尋ねる。

 『お母さん・・・』

 白馬が土気色の生首へと近づき、涙を流す頬にそっと口づけた。その姿に、あぁ・・・と胸を打たれた。

 『私はあなたの子です。あなたとアテナさまの・・・』

 「私と・・・アテナさまの・・・?」

 『お母さんが毎日捧げていた祈りは、アテナさまに届いています・・・アテナさまがご自身の行いを悔やみ、オリーブの樹を通して、私を遣わしたのです。そして、この日をずっと待っていた』

 「うそ・・・ほんとに? アテナさまが? ほんとに?」

 葉に隠されたメデューサの瞳から涙が滝のように零れ落ちた。その様に見ている側の目頭も熱くなる。

 「アトラス・・・」

 思わず、声に出してその名を呼んでいた。

 稀代の怪物だ。許しがたい行為もされた。それだけじゃない。おそらくは多くの人を苦しめ、殺めてきたことだろう。

 けれども、悲しい過去を背負っていたのだ。あまりにも、かわいそうじゃないかと。温情をかけてやれと。心の中で訴えた。

 「わかってる」

 鼻をすすると同時に、返事があった。

 「アテナはお前を誇りに思っていた。美しく気高く勇ましかった女戦士のお前を。その寵愛ゆえに、ポセイドンの虚言を見抜けず、堕ちたお前が許せなかった」

 「私が愛しているのは、アテナさまだけです・・・私は・・・海神を誘ってなどおりません。薬を盛られたのです。それなのに・・・アテナさまは神殿で乱れた私を見て、お怒りになった」

 「それだけ、お前に対する愛情が深かったからな」

 すすり泣くメデューサの前で、バッと。アトラスが外套クライナを外した。

 「いいだろう・・・母を思うその気持ちとオレの役に立つと予言するのなら、ペガサス。お前の懇願を聞き入れてやる。オレの心優しいツガイもそれを望んでいる。アテナの元に、首を持っていってやれ」

 生首をガッと掴んで持ち上げると、包んで縛った。

 『なんという・・・お強い気に満ちた外套でくるんで下さるとは・・・ご厚情に深く感謝いたします』

 神馬が低く頭を垂れた。

 『お母さん・・・よかったですね。アテナさまがお待ちですよ。一緒に行きましょう』

 優しい声かけに、外套の中から嗚咽が漏れた。
 
 「ただし、首だけだ。河に流れ落ちた毒を持つ体液から、化け物が生まれたな。誕生後に水と交わったアレはポセイドンの子になるか・・・」

 (えっ・・・)

 アトラスの斟酌しんしゃくにホッとするのも束の間、ボソリと呟かれた不穏な言葉に。床にばらまかれた血の流れへと視線を向ける。

 (どういう意味だ・・・?)
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