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12:ペガサスの懇願とツガイとしての求愛と※

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 今のは・・・と認識したと同時に――

 「誰だっ!!」

 とメデューサが全身から殺気を放ちながら振り返る。

 「どこだっ!? どこにいるっ!?」

 ズサッ、ズサッ・・・と。巨大な胴体を左右に動かして、周囲をくまなく見渡す。その怪物に向かって。

 「ここだ」

 と冷ややかな声が応じたと思うや否や、一陣の風が走り抜けた。

 ザァッシュッッ!!

 と斬りつけたような気配とともに――

 ギャァア"ァア"ァァ"ァーーーー・・・・・・

 と耳をつんざくような絶叫が聞こえ、

 ブシュゥウウゥゥーーーーッ・・・・・

 と体液が吹き上がる音が耳を襲う。そして――

 ゴトッ、ゴロォッ、ゴロォッ、ゴロォッ・・・・・・

 と物体が地面を転がる不快な音に混じって、ビタンッ、ビタンッ、ビタンッと。

 床に尾を打ち付けているような気配がしばらく続いた後、ズドォォン!! と轟音が鳴り響いた。

 (な、なにが・・・)

 閉ざされた視界の中、ゴクリと嚥下する。

 目で追えないため、状況が全くわからない。すると、ガッという振動とともに。突如として、拘束されていた上半身がふわっと楽になった。

 「ッ!!」

 咄嗟に、ビクッと。反射的におののいた身体がそのまま優しく、両腕に抱きしめられた。

 「獣車クーペから出るなと言っておいたはずだぞ、テセウス」

 咎めるようでありながらも。その甘い声と逞しい腕に、あぁ・・・と力が抜けた。

 「アトラス・・・」

 まぶたから涙が溢れ出る。スタンッと地に降りた体感を覚えるとともに、確かに抱いてくれているその存在にしがみついた。

 「ふっ・・・うっ・・・っ・・・」

 優しく、いたわるように背中を撫でてくる手が、この力強い体躯が、この頼り甲斐のあるアルケーが全てなのだ。よかったと。この腕の中にちゃんと戻れて、よかったと。涙が流れ続ける。

 「だが、お前だけのせいではないな。どうやら不測の事態が起きたようだ。誰だ、お前は・・・」

 『も、申し訳ございません。このような事になり・・・・・・ペガサスと申します』

 アトラスの問いかけに、オリーブの枝葉がかしこまって答えた。

 「まず先に、その枝を使って、メデューサの目を覆え。話はそれからだ」

 『は、はい。かしこまりました』

 「テセウス、他の二体と違って、メデューサは不死身だ。オレがいいと言うまで、絶対に目を開けるな。いいな?」

 声に出せずに、鼻をすすりながら頷いた。

 それを合図にしたかのように。オリーブの葉がふわりと浮き上がって、顔面から離れる。ギャアァッ、ギャアァッと叫び続けている生首に向かって、ふわふわと飛んでいった。

 「すぐにケリを付ける。少し、我慢できるな?」

 ハァハァと乱れる呼吸のまま、首を縦に振った。この汚された身体のことを言っているのだ。どうしようもなく、つらい。だが、グッと堪える。

 「ピィイィーッ・・・」とアトラスが指笛を吹くと――

 「ルーベ!! どんな手段を使ってでも、獣車ごとすぐに来い!!」

 と叫んだ。そのルーベという響きに、ハッとした。

 「アトラス・・・ケールが・・・ケールが・・・」

 「わかってる。まだ、目を開けるな」

 身をわずかに起こして、今までのことを報告しようとした途端に。ダメだとばかりに、頭を大きな手で押さえつけられた。

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