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11:メデューサの岩窟とペガサスと
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うっとりと酔い痴れるような表情を見せた者が。瞳を伏せながら、顔を傾けて近づけてくる。
「テセウス・・・」
「あっ・・・んっ・・・」
唇を重ねられて、すぐさま舌が入りこんできた。
「んぅっ・・・んんっ・・・」
と同時に、下から放った自分の体液の味が口の中へと流れこんできて。
(あぁ…)
と眉根を寄せる。誰のモノを舐めてやったか、わかるかとばかりに、強いられるこの淫靡な共有も。何回目だろうか。けれども、今ではその行為をどこか待ち望んでいるような節もあって。
この男に愛されたんだと。この男が自分を取り入れたんだと――そんな被虐的な悦びに浸りながら、瞳を閉じて受け入れる。
「んっ・・・ぅんっ・・・ぁんっ・・・」
左右に何度も顔の向きを変えられて。より奥へ、より深く、合わせるだけ合わせて、絡めるだけ絡めて、侵すだけ侵して。
「はぁあぁっ・・・」
ようやく離れた唇を無意識に寂しげに見送る。物足りない。もっと、して欲しい。それなのに――
「テセウス・・・戻ってきたら、抱かせてくれ。愛し合いたい。いいな?」
と耳元で囁かれ、ハッと我に返った。
愛し合いたいという言葉よりも、まさか、本当に置いていく気なのかとおののかされる。どうあっても独りで行く気なのかと。こんな状態にしておいて――と目で問いかけた。
「ここにいれば、安心だ。一歩も出るな。わかったな?」
「いや・・・だ・・・」
首を振って、腕を掴んで引き留めたというのに。スッと身を離した相手を睨みつける。
自分だけがこんな欲情した状態にさせられているなんて。どうしようもなく求めていて、火照った状態なのは自分だけなのか。
「いやだ・・・アトラス・・・」
独りでなんて行かせない。そんなことは誰が許せるかと。
力の入らない手を必死に床について、上半身を起こす。けれども、身の内には指で弄られた痕跡が、アトラスの唾液と気とが、まだ余韻を残していて。
「オレも・・・行く・・・」
と弱々しくかすれた声でしか言えない。
「すぐに戻る。獣車から出るな。いいな?」
膝下までずらされた下穿きの、乱れた下半身をあえてその状態にしたまま。パサリと毛布が上からかけられた。
「いや・・・だ・・・オレも・・・行く・・・」
首を振って、なんとか立ち上がろうとするが身体がままならない。
「大丈夫だ。すぐに戻る。少し休んでろ」
全身から不服の気を感じて、アトラスが少しだけ困ったように眉根を寄せる。だが、こめかみに一度だけ口づけられて、背中を向けられた。
「アトラス!!」
あろうことか、こんな風に抱く側と抱かれる側の歴然たる違いを見せつけられるなんて。
こんな状態にしておいて、残して行くなんて。あんまりじゃないかと口に出す前に、バサッと幌が落ちて閉ざされた。途端に、悔しさで瞳が滲んだ。
「ぅっ・・・ふっ・・・」
置いて行かれたという失望と、いつだって対等でありたいのにという矜持と。この怒りにも似た激しい感情は、どちらが原因なのか。
ただ、わかることは離れたくなかったのにという寂しさと、肉体がまだ欲しているという現実だ。あえて、燻った状態にして自分だけで行ったのだ、アトラスは。
「テセウス・・・」
「あっ・・・んっ・・・」
唇を重ねられて、すぐさま舌が入りこんできた。
「んぅっ・・・んんっ・・・」
と同時に、下から放った自分の体液の味が口の中へと流れこんできて。
(あぁ…)
と眉根を寄せる。誰のモノを舐めてやったか、わかるかとばかりに、強いられるこの淫靡な共有も。何回目だろうか。けれども、今ではその行為をどこか待ち望んでいるような節もあって。
この男に愛されたんだと。この男が自分を取り入れたんだと――そんな被虐的な悦びに浸りながら、瞳を閉じて受け入れる。
「んっ・・・ぅんっ・・・ぁんっ・・・」
左右に何度も顔の向きを変えられて。より奥へ、より深く、合わせるだけ合わせて、絡めるだけ絡めて、侵すだけ侵して。
「はぁあぁっ・・・」
ようやく離れた唇を無意識に寂しげに見送る。物足りない。もっと、して欲しい。それなのに――
「テセウス・・・戻ってきたら、抱かせてくれ。愛し合いたい。いいな?」
と耳元で囁かれ、ハッと我に返った。
愛し合いたいという言葉よりも、まさか、本当に置いていく気なのかとおののかされる。どうあっても独りで行く気なのかと。こんな状態にしておいて――と目で問いかけた。
「ここにいれば、安心だ。一歩も出るな。わかったな?」
「いや・・・だ・・・」
首を振って、腕を掴んで引き留めたというのに。スッと身を離した相手を睨みつける。
自分だけがこんな欲情した状態にさせられているなんて。どうしようもなく求めていて、火照った状態なのは自分だけなのか。
「いやだ・・・アトラス・・・」
独りでなんて行かせない。そんなことは誰が許せるかと。
力の入らない手を必死に床について、上半身を起こす。けれども、身の内には指で弄られた痕跡が、アトラスの唾液と気とが、まだ余韻を残していて。
「オレも・・・行く・・・」
と弱々しくかすれた声でしか言えない。
「すぐに戻る。獣車から出るな。いいな?」
膝下までずらされた下穿きの、乱れた下半身をあえてその状態にしたまま。パサリと毛布が上からかけられた。
「いや・・・だ・・・オレも・・・行く・・・」
首を振って、なんとか立ち上がろうとするが身体がままならない。
「大丈夫だ。すぐに戻る。少し休んでろ」
全身から不服の気を感じて、アトラスが少しだけ困ったように眉根を寄せる。だが、こめかみに一度だけ口づけられて、背中を向けられた。
「アトラス!!」
あろうことか、こんな風に抱く側と抱かれる側の歴然たる違いを見せつけられるなんて。
こんな状態にしておいて、残して行くなんて。あんまりじゃないかと口に出す前に、バサッと幌が落ちて閉ざされた。途端に、悔しさで瞳が滲んだ。
「ぅっ・・・ふっ・・・」
置いて行かれたという失望と、いつだって対等でありたいのにという矜持と。この怒りにも似た激しい感情は、どちらが原因なのか。
ただ、わかることは離れたくなかったのにという寂しさと、肉体がまだ欲しているという現実だ。あえて、燻った状態にして自分だけで行ったのだ、アトラスは。
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