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10:ハデスの神殿と揺るがない求愛と

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 「お前がテセウスでしかあり得ないように、オレもアトラスでしかあり得ない」

 「えっ・・・」

 聞かされた言葉に思わず、首を傾げる。それは一体、どういう意味なのだろうか。元囚人だから、自分と同じように記憶がないと言っているのか。それとも――?

 「オレは一人の男として、お前と身も心も愛し合いたい。このまま誰もいない小さな島にでも行って、お前とオレの二人だけで暮らす・・・そんな生涯だっていい」

 「アトラス・・・」

 まさか、そんな事を考えていたなんて。驚きのあまりに、真摯な眼差しをただただ見つめ返すことしかできない。

 「過去など、どうでもいい。ありのままのオレを愛して欲しい。オレを選んで欲しい」

 その愛の告白は、お前の過去を問わないとも、自分の過去を問わないでくれとも聞こえる。

 「お前を愛している・・・・・・お前が欲しくてたまらない」

 「あっ・・・」

 左手で肩を抱えられたまま、右手の長い指先にあごが捉えられ、整った顔が傾きながら近づいてくる。

 「アトラス、いやだ・・・」
 
 咄嗟に、横に顔を向けて避ける。一度だけでなく二度も抱かれ、その激しい情交でどれだけ上書きされたか。行為の熱に浮かされて、自分からも貪欲に舌を絡めて、舐め合ったことも覚えている。

 けれども、今さら何をと思われても。何かしらの警戒心が働くのか。身体がどうしても受け入れられない。力のたいして入らない両手で肩を押し返した。

 「テセウス、お前はオレのモノだ・・・・・・誰にも渡さない」

 その吐息が絡むような声音で告げられた言葉は。口づけを拒んだところで・・・何も変わらないと。逃すつもりはないという響きにも聞こえて。ブルッと身体に震えが走った。

 行方を失った唇が耳元をかすめて、首筋へと降りる。わからせてやるとばかりに、貞操帯ティーチェスタトルベにカッと歯をあてられた。

 「はぁあぁぁーーーっ・・・・・・」

 途端に、渦を巻くようにして官能の焔が身の内から立ち籠めて。細胞の一つ一つがズクズクッ、ズクズクッと。求めるオスのアルケーに呼応するように色めき立つ。

 「あぁぁあぁーーっ・・・・・・ぅぅんんーーっ・・・・・・あぁーっ、いや・・・だ・・・いや・・・だっ・・・」

 意図しない艶めいた言葉が、わななく唇から漏れそうになるのを必死で堪える。突如として発火したかのような、こんな反応なんて認めたくない。

 「アトラス・・・いや・・・だっ・・・」

 一瞬にして熱を帯びた肉体とは裏腹に、心がサーーッと青ざめる。このまま、また抱かれるのか。あの自我が全てなくなるような、愛欲の時間がまた始まるのか。

 それではまるで、ただ抱かれるだけの肉塊じゃないか。孕まされるだけのオメガじゃないか。

 「いやだっ・・・・・・アトラス、いやだっ!!」

 そうはなりたくないのだ。そんなのはいやなのだ。死に物狂いに振り払って、相手の体躯を押して身を捩る。反動で、床へと転げ落ちそうになり、その身体をアトラスが支えた。
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