上 下
106 / 169
10:ハデスの神殿と揺るがない求愛と

4

しおりを挟む
 (いや、どうなんだろうか…)
 
 とすぐさま否定する。実在するのかも、自分と関係があるのかもわからない。そして、わかりようもない。そもそも、自分のことすらわかっていないのだから。

 (オレは一体、どこの誰だったのだろうか・・・)

 ペルセウス――グライアイの老婆たちが自分を見て、叫んだ名前を思い起こす。

 (オレは・・・ペルセウスという男だったのか?)

 あれから何度も考えているが、その男であった記憶はもちろんのこと、自分に関する事は何一つ思い浮かばない。

 そんな中、唯一の手がかりが夢だ。だから、夢は自分の過去と繋がっているような気がしてたまらない。

 (そうだ。多分、おそらく・・・)

 夢の内容に通じる何かしらの過去が自分にはあって、オメガという性に対する嫌悪感や、抱かれることに対する拭いきれない拒絶があるのではないだろうか。

 (あぁ、アトラス…)

 けれども、そんな失われた過去に対する疑念や不安さえも、もはやどうでもいいとすら感じるほどに。

 交互に与えられた気が狂いそうなまでの快感と甘い苦悶の時間は、どうしようもないほどに身にも心にもどっぷりと染みこんでいて。

 思い起こせば起こすほど、身体がジンと熱くなり、欲してしまいそうになる。また、してと。また、抱いてと。また、挿れてと。

 変えられてしまったのだ、完全なまでに。抱かれる身体に、孕まされる側に。開花させられてしまったのだ、虐げられる性のオメガに。

 (あぁ…いやだ。やっぱり、そんなのはいやだ…)

 と首を横に振って、払い落とすようにしてその現実を拒む。

 そんな自分はいやなのだ。やはり、いやなのだ。そうはなりたくないと。自分の根幹には無性に何か引っかかるモノがある。到底、受け入れるわけにはいかない。

 (それに、アトラスだって、わからないじゃないか・・・)

 揺れ動く感情の中、もう一人の自分が心の中で囁いた――二度としないと約束しておいて、結局は無理矢理に抱いた男じゃないかと。

 (アトラスだって、彼らと同じように、オメガのお前を性具のように扱うんじゃないのか。アルファ神族なのだから)

 自分の心の呟きだというのに、その思い浮かんだ言葉にハッとした。

 (そうだ、アルファ神族・・・)

 怖れをなしたミノタウロスがアトラスに向かって口にした言葉だ。今まで、神族の血が入っているとは確信していたが、神族その者だと思ったことはなかった。

 (まさか、アルファ神族なのか・・・?)

 半神半人あたりだろうと思ってはいたが、言われてみれば、あれほどまでに強くて高位なアルケーを呼吸をするかのように易々と扱うのだ。神族だったとしてもなんらおかしくはない。

 (いや、でも・・・)

 アトラスは自分もまた元囚人であると、逆行者だと告げたのだ。

 神族がタルタロスの監獄に収監されるなんて、あるのだろうか。しかも神族の中でも優位の存在が。もちろん、いなくはないだろうがと思ったところで、ふと名前が浮かんだ。

 (プロメテウス・・・)

 先祖種ティターンでありながら、禁断の天の火を人間に与えたことで、オリュンポスの二柱ゼウス、ポセイドン、そしてハデスに縛され、残酷な刑に処されたと聞く神族だ。

 (まさか・・・)

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました

海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。 しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。 偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。 御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。 これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。 【7/27完結しました。読んでいただいてありがとうございました。】 【続編も8/17完結しました。】 「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785 ↑この続編は、R18の過激描写がありますので、苦手な方はご注意ください。

俺の彼氏

ゆきの(リンドウ)
BL
26歳、役所勤めの榊 哲太は、ある悩みに頭を抱えていた。それは、恋人である南沢 雪の存在そのものについてだった。 同じ男のはずなのに、どうして可愛いと思うのか。独り占めしたいのか、嫉妬してしまうのか。 挙げれば挙げるほど、悩みは尽きない。 リスク回避という名の先回りをする哲太だが、それを上回る雪に振り回されてー。 一方の雪も、無自覚にカッコよさを垂れ流す哲太が心配で心配で仕方がない。 「それでもやっぱり、俺はお前が愛しいみたいだ」 甘酸っぱくてもどかしい高校時代と大人リアルなエピソードを交互にお届けします!

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

明日の朝を待っている

紺色橙
BL
■推しにガチ恋した話 ■夜の公園で一人踊るその姿に惹かれた。見ているのなら金を払えと言われ、素直に支払う。何度も公園を訪れリョウという名前を教えてもらい、バックダンサーとして出演するコンサートへも追いかけて行った。 ただのファンとして多くの人にリョウさんのことを知ってほしいと願うが、同時に、心の中に引っかかりを覚える。

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

処理中です...