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10:ハデスの神殿と揺るがない求愛と
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(アトラス…)
その名を心の中で呼んで、両手で身体を強く抱きしめる。この身体はまた、あの男に抱かれてしまったのだ。二度としないと約束していたのに。
『わかるまで離さない。いいな? お前はオレのモノなんだ』
そう囁かれ続けて、どれだけの長い時間、翻弄されたか。
繰り返される射精の伴わない絶頂と、出させてもらえないそのもどかしさの間で、何度も恍惚とさせられては悶えて。
はしたなくねだっては存分に与えられ、また無慈悲にも取り上げられては、その性の棒にひたすら溺れて。
わかるまでと宣告されたように、徹底的に、延々と。もはや、暴かれてない場所などないこの身体は全て、そう全部が、あの男のモノになったのだ。
『オレが好きなんだな? そうなんだな?』
脳裏に再生された言葉に、あぁ…と眉間に皺を寄せる。約束を踏みにじるようにして反故にされたというのに。二度目の情交を無理矢理強いられたというのに。
いやだとあれほど拒んだのに、またあんなにも淫らな状態にさせられたというのに。
「あぁ、アトラス…」
声に出して、噛みしめるようにして瞳を閉じる。そうだ、好きなのだ。身体だけじゃない、心も奪い尽くされた。
何度も、好きだからと叫び返して、その愛撫を貪欲に欲したことを。それは本意ではなかったと。快感の虜にされての無理強いだったと、否定できない自分がいる。
これで嫌いになれていたら、どんなに楽だっただろうか。さんざん射精を盾に調教されて、弄ばれたと憤り、憎んでいることができていたら、どんなによかっただろうか。
でも、実際は違うのだ。今、心に湧き上がる想い、それは――
『オレが欲しいと・・・言うんだ』
耳に残り続けるその言葉だ。
なぜ、そんな言葉だったんだ。なぜ、そんなにも繰り返したんだ。なぜ、そんな声音だったんだ。
それはまるで、湧き出てやまない欲する想いが、お前も欲してくれと必死になって叫んでいるかのようで。
(アトラスは…オレを…)
そうだ、間違いない。アトラスは自分のことを本当に愛しているのだ。時折、怖ささえ感じるほどの強い執着でもって。自分を欲しているのだ。
激しかった情交から、その愛撫から、その気から。お前を愛していると。だから、身体だけじゃなく、心も求められたと感じているのだ。
(アトラスは、彼らとは違う…)
なぜだか、ふとそう思った。夢に出てきたあの闇色の男たちとは違うと。
(そうだ。アトラスは彼らとは違う…)
孕まされる側の性、オメガの肉体を弄ぶような連中とは違うのだ。この身体を身綺麗にしたのもアトラスだ。違いない。そう感じた途端に、涙がなぜか滲んで、ハッとする。手のひらでぐずっと鼻をすすった。
(どうして…どうしてなんだろう…?)
夢に過ぎないというのに、比較して涙が出るなんて。まるで、先ほど見た内容が現実であるかのように捉えている。それは一体、なぜなのだろうか。
(そうだ、オレは…)
誰かを守りたいと助けたいと、強く願っていたような気がする。
(あの人は、誰なんだろうか…)
幾度となく夢に出てくるあの美しい存在は。それほどまでの想いが心の根底にあるのならば、現実ではないのか。
その名を心の中で呼んで、両手で身体を強く抱きしめる。この身体はまた、あの男に抱かれてしまったのだ。二度としないと約束していたのに。
『わかるまで離さない。いいな? お前はオレのモノなんだ』
そう囁かれ続けて、どれだけの長い時間、翻弄されたか。
繰り返される射精の伴わない絶頂と、出させてもらえないそのもどかしさの間で、何度も恍惚とさせられては悶えて。
はしたなくねだっては存分に与えられ、また無慈悲にも取り上げられては、その性の棒にひたすら溺れて。
わかるまでと宣告されたように、徹底的に、延々と。もはや、暴かれてない場所などないこの身体は全て、そう全部が、あの男のモノになったのだ。
『オレが好きなんだな? そうなんだな?』
脳裏に再生された言葉に、あぁ…と眉間に皺を寄せる。約束を踏みにじるようにして反故にされたというのに。二度目の情交を無理矢理強いられたというのに。
いやだとあれほど拒んだのに、またあんなにも淫らな状態にさせられたというのに。
「あぁ、アトラス…」
声に出して、噛みしめるようにして瞳を閉じる。そうだ、好きなのだ。身体だけじゃない、心も奪い尽くされた。
何度も、好きだからと叫び返して、その愛撫を貪欲に欲したことを。それは本意ではなかったと。快感の虜にされての無理強いだったと、否定できない自分がいる。
これで嫌いになれていたら、どんなに楽だっただろうか。さんざん射精を盾に調教されて、弄ばれたと憤り、憎んでいることができていたら、どんなによかっただろうか。
でも、実際は違うのだ。今、心に湧き上がる想い、それは――
『オレが欲しいと・・・言うんだ』
耳に残り続けるその言葉だ。
なぜ、そんな言葉だったんだ。なぜ、そんなにも繰り返したんだ。なぜ、そんな声音だったんだ。
それはまるで、湧き出てやまない欲する想いが、お前も欲してくれと必死になって叫んでいるかのようで。
(アトラスは…オレを…)
そうだ、間違いない。アトラスは自分のことを本当に愛しているのだ。時折、怖ささえ感じるほどの強い執着でもって。自分を欲しているのだ。
激しかった情交から、その愛撫から、その気から。お前を愛していると。だから、身体だけじゃなく、心も求められたと感じているのだ。
(アトラスは、彼らとは違う…)
なぜだか、ふとそう思った。夢に出てきたあの闇色の男たちとは違うと。
(そうだ。アトラスは彼らとは違う…)
孕まされる側の性、オメガの肉体を弄ぶような連中とは違うのだ。この身体を身綺麗にしたのもアトラスだ。違いない。そう感じた途端に、涙がなぜか滲んで、ハッとする。手のひらでぐずっと鼻をすすった。
(どうして…どうしてなんだろう…?)
夢に過ぎないというのに、比較して涙が出るなんて。まるで、先ほど見た内容が現実であるかのように捉えている。それは一体、なぜなのだろうか。
(そうだ、オレは…)
誰かを守りたいと助けたいと、強く願っていたような気がする。
(あの人は、誰なんだろうか…)
幾度となく夢に出てくるあの美しい存在は。それほどまでの想いが心の根底にあるのならば、現実ではないのか。
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