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5:非道な霊託と淫毒を刺された身体と

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 メリメリメリメリィイィィーーッ・・・・・・

 と降り曲がり続ける枝の力で樹幹じゅかんが割られ、ぽっかりと穴でもあいたかのように。幹の中に真っ黒な闇が広がった。

 ボコッ・・・ボコッボコッと。粘着質な気泡が沸き上がって。その様は確かに竈のようにも、煮立った鍋のようにも見える。

 「ダイモーンの竈があいじゃぁ~ さぁ、体液を入れじゃぁ~」

 「誰のじゃぁ?」

 「そうじゃぁ、処女も童貞もおらんじゃぁ~」

 (体液? 処女? 童貞?)

 なんのことだと思った途端、ギョロリと。三つの眼球が一斉にこちらを見た。

 「テセウス~ 体液を寄こせぇぇ~」

 「血、唾液・・・精液でもいいじゃぁ~ 寄こさねば占えじゃぁ~」

 「精液を搾り取るなら手伝ってやじゃぁ~ ヒヒヒ・・・」

 (なんだって?)

 全く聞かされていなかった展開に激しく動揺する。三体が今にも飛びかかってくるような気配を見せ、思わず左腰に装着している霊刀アルケークスィフォスの鞘を右手で握りしめた。

 「オオッ!!」

 だが、まるでその状況を察知したかのように。宙にふわふわと漂っていたままの箱がパァァ・・・とまた光を発する。シュルシュルシュル・・・と紫色の煙を出すとその渦の中で形を変えた。

 「なんじゃぁ!! 小瓶になっじゃぁ!!」

 「小瓶じゃぁ!! なんか入ってじゃぁ!! 血じゃぁ? 血じゃぁ?」

 「誰のじゃぁ? ハデスじゃぁ?」

 赤い液体が入った中指ほどの長さの小瓶を老婆たちがじっとりと見つめる。一人が手を伸ばして取る。と――

 「ヒィィーーッ!!」

 両手で握りしめながら、震え上がった。

 「なんじゃぁ!! なんじゃぁ!!」

 「すごいアルケーじゃぁ!! 神族じゃぁ、神族の血じゃぁ!!」

 ブルブルと動き続ける手を二体が押さえる。

 「ほんとじゃぁ!! ほんとじゃぁ!!」

 「ハデスじゃぁ? ハデスのじゃぁ?」

 「わからんじゃぁ、わからんじゃぁ・・・こんな血は初めてじゃぁ」

 驚いた様子の老婆たちが。しばらく小瓶に視線を注いだまま、無言の時間が流れる。

 (な、なんだ・・・ど、どうしたんだ?)

 そのあまりの長さに。声をかけようかと逡巡したその時―――

 「エニューオー、ペンプレードー・・・なにを考えてじゃぁ?」

 と一体が声を上げた。

 「同じことじゃぁ」

 歯なしがそろって答えた。

 「そうじゃぁ、そうじゃぁ・・・」

 「ディノー、零すじゃぁ~ 半分だけじゃぁ・・・ヒヒヒ・・・」

 「もちろんじゃぁ、半分だけじゃぁ・・・ケケケ・・・」

 「半分だけじゃぁ、半分・・・ククク・・・」

 なぜ、半分だけなのか。予定とは違っていないか。聞こえてきた言葉に直感的に不信を感じ、口を開いた。

 「用意されているモノは全部、使うべきじゃないのか?」

 「そうじゃぁ、そうじゃぁ、もちろん、そうじゃぁ。全部使うじゃぁ・・・まずは・・・」

 ポンッとディノーが蓋を開けた。

 「ワシらにのぅ・・・」

 タラリと指先に垂らして、黒ずんだ長い舌先で舐めた。
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