上 下
46 / 169
4:不可解な夢とグライアイの三姉妹と

11

しおりを挟む
 ヒャーーァアァーー・・・ハハハハッーーー・・・アァァーーハハハハッーーー・・・・・・

 まるで気が狂った者の笑い声のようにも聞こえる、不穏に揺れる黒い木々の中を。青白い幽鬼のランタンを片手に、慎重に慎重にと歩みを進める。

  邪霊どもがわざとかするような近さでひっきりなしに飛んでくる。誘っているのだ、こちらに来いと。正気な者に恐怖を与えて。

 恨みのこもったその顔に。身にやましいことがある者は怯え、おののくだろう。だが、誰がそんなことで動揺するかと。元より過去もないと思いながら。一歩また一歩と歩み続ける。

 少し開けた場所に、見上げるほどに高く、両手を伸ばしても届かないほどに幅広く。いただききが平らになるように石が積まれた、墓石のような供物台のような円錐状の物体が見えてきた。

 「なんじゃぁあぁ~」
 
 「誰かきじゃぁあぁ~」

 「誰じゃぁあぁ~?」

 その石山の中から。耳障りとしか思えない、しゃがれた声が聞こえてきた。

 「テセウスだ。冥府の王ハデスの代理でやってきた。行方不明の王妃ペルセフォネの所在を占って欲しい」

 姿の見えない相手へと用件を告げた。

 「なに、ハデスじゃぁ? 聞こえじゃぁ? ハデスじゃぁ・・・ヒヒヒ・・・」

 「聞こえじゃぁ、聞こえじゃぁ、ハデスじゃぁ・・・ケケケ・・・」

 「愛を疑う哀れな冥府の王じゃぁ・・・ククク・・・」

 見下すような不愉快な笑い声ともに。石が積み上がったその平たい天辺てっぺんがボコッと蠢く。ゴロゴロゴロゴロ・・・と押し出された石が勢いよく転がり落ち、途端に――

 ブクッ・・・ブクブクブクブクッ・・・・・・

 と黒く濁った液体が溶岩流のように吹き出してきた。

 ズォォオォォオォォーーッ・・・・・・

 そのまま縦横無尽に影が伸びるようにして流れ落ちてくる。

 一見、ドロッとした粘着質な液体にも見えるが、実際はぬめりにぬめった黒い根っこだ。まるでそれ自体が意思を持った生き物かのように、多様な太さと長さでもって。すさまじい速度で広がっていく。

 「ッ!!」

 あっという間に円錐の裾野一面を侵した漆黒が、そのまま頂きを中心点として水紋のようにさらに拡大し続ける。接近してきた根に足を取られまいと。近くにあった大きな石の上へと飛び乗った。

 ズォォオォォオォォーーッ・・・・・・ズズズズズ・・・ズズズズズ・・・・・・

 その結界を張る役目もある、地を這いずる動きに地響きの音と振動が加わる。そして、

 ドドドドドドォォォーーッ・・・・・・ズドォドォドォドォォォーーッ・・・・・・

 と浸食する根の源泉にもなっている場所から。眠っていた黒き怪物が起き上がるようにして。無数に生える手を振るようにして。真っ黒な大木が現れた。

 ブワァアァァーーーッ・・・・・・バサバサバサバサッと一気に広がった枝の間を。

 「ワシらに貢ぎ物は持ってきじゃぁあぁ~ テセウス~?」

 ビューン、ビューンと風に乗るように漂いながら、不気味な存在が尋ねてきた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました

海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。 しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。 偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。 御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。 これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。 【7/27完結しました。読んでいただいてありがとうございました。】 【続編も8/17完結しました。】 「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785 ↑この続編は、R18の過激描写がありますので、苦手な方はご注意ください。

俺の彼氏

ゆきの(リンドウ)
BL
26歳、役所勤めの榊 哲太は、ある悩みに頭を抱えていた。それは、恋人である南沢 雪の存在そのものについてだった。 同じ男のはずなのに、どうして可愛いと思うのか。独り占めしたいのか、嫉妬してしまうのか。 挙げれば挙げるほど、悩みは尽きない。 リスク回避という名の先回りをする哲太だが、それを上回る雪に振り回されてー。 一方の雪も、無自覚にカッコよさを垂れ流す哲太が心配で心配で仕方がない。 「それでもやっぱり、俺はお前が愛しいみたいだ」 甘酸っぱくてもどかしい高校時代と大人リアルなエピソードを交互にお届けします!

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

おだやかDomは一途なSubの腕の中

phyr
BL
リユネルヴェニア王国北の砦で働く魔術師レーネは、ぽやぽやした性格で魔術以外は今ひとつ頼りない。世話をするよりもされるほうが得意なのだが、ある日所属する小隊に新人が配属され、そのうち一人を受け持つことになった。 担当することになった新人騎士ティノールトは、書類上のダイナミクスはNormalだがどうやらSubらしい。Domに頼れず倒れかけたティノールトのためのPlay をきっかけに、レーネも徐々にDomとしての性質を目覚めさせ、二人は惹かれ合っていく。 しかしティノールトの異動によって離れ離れになってしまい、またぼんやりと日々を過ごしていたレーネのもとに、一通の書類が届く。 『貴殿を、西方将軍補佐官に任命する』 ------------------------ ※10/5-10/27, 11/1-11/23の間、毎日更新です。 ※この作品はDom/Subユニバースの設定に基づいて創作しています。一部独自の解釈、設定があります。 表紙は祭崎飯代様に描いていただきました。ありがとうございました。 第11回BL小説大賞にエントリーしております。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

明日の朝を待っている

紺色橙
BL
■推しにガチ恋した話 ■夜の公園で一人踊るその姿に惹かれた。見ているのなら金を払えと言われ、素直に支払う。何度も公園を訪れリョウという名前を教えてもらい、バックダンサーとして出演するコンサートへも追いかけて行った。 ただのファンとして多くの人にリョウさんのことを知ってほしいと願うが、同時に、心の中に引っかかりを覚える。

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

処理中です...