45 / 169
4:不可解な夢とグライアイの三姉妹と
10
しおりを挟む
「そうだ。お前が裁きを通達された際に、神殿の使い魔たちから渡された箱だ」
確かに見覚えのあるその箱は。預かると言われてそのまま任せていた物だ。それを一つ戻されて。相手の顔をしみじみと見つめた。
「ハデスから託されて、お前たちが切望してやまないモノを持ってきたと伝えろ。すぐさま、よこせと要求してくるはずだ。
そうなったら、きちんと霊託をすると約束しろと念を押してから、渡せ。その際に、全部話し終え、自分が無事にこの場から立ち去れたら、近くで待機している仲間が残りの箱も投げて渡すと付け加えろ」
「わかった」
提示されたその取引の仕方は。要は信頼できない相手ということだ。肝に銘じる。と同時に――
(切望してやまないモノ・・・って、なんだろう?)
と知りたくなる。が、開けるのはさすがにまずいよなと思った途端に、心を読まれたかのように言われた。
「開封された痕跡があれば、連中は受け取らないだろう。途中で開けるな。いいな?」
「あ、うん・・・わかった」
「一緒についていきたいところだが、複数の足音を聞いた途端に結界を張って姿を消すか、敵とみなして襲いかかってくるか・・・そんな連中だ。臆病な奴ほど用心深く攻撃的だ。この樹の枝から見守っている。何か異変を感じたら、すぐにオレを呼べ」
瞳を隠すように前髪を触られながら告げられて、頷く。そのまま首に巻いている布を鼻先まで持ち上げられた。被っていた外套のフードも目深になるように整えられる。
「箱を渡した後は、連中に任せろ。お前はただ聞くだけでいい。くれぐれも気をつけろ。状況が怪しくなっても剣は抜くな。オレを呼ぶんだ。いいな、テセウス」
「わかった」
「テセウス」
背中に腕を回されて強く抱きしめられた。
「オレが代わりに行きたいくらいだ。だが、これは一種の通過儀礼でもあり・・・」
(通過儀礼・・・)
妙な響きにも聞こえたその言葉を。心の中で繰り返す。だが確かに、王妃の行方を知り、ハデスの依頼を引き受け、そして完遂できてこそ、身分と定住先が与えられ、新しい人生が始まるのだ。
「だから・・・オレは・・・」
(だから・・・オレは・・・?)
一体、何が言いたいのか。続きを待っていても、そのまま黙ってしまった相手の、らしくない口調とその様子に戸惑う。
「・・・本来ならば、お前を危険な目に遭わせたくない」
「アトラス、そんなに心配するなって。ただ霊示を聞いてくるだけだろ? 何を言われても、どんなに不快でも敵意を見せず、不要なことはせず・・・聞き手に徹する。それで戻ってきて、終わりだ。そうだろ?」
相手の危惧を拭い祓うように伝え、空いている左手でパンパンと背中を叩く。離れると「行ってくる」と告げて背を向けた。
剥き出しとなっている石灰岩の岩肌とゴロゴロと石が転がる、ぬるぬるとした土壌は。ずっと手を強引に握られて、ケールが発する明るい炎に守られながら歩んできた今までとは違って、やはり心細い。
恨みを持って彷徨う枯骸のような木々の黒い枝が。細く太くうねうねと伸びていて。横に斜めにと絡み合い、結託して一斉にこちらに襲いかかってくるかのような無気味さを漂わせている。
確かに見覚えのあるその箱は。預かると言われてそのまま任せていた物だ。それを一つ戻されて。相手の顔をしみじみと見つめた。
「ハデスから託されて、お前たちが切望してやまないモノを持ってきたと伝えろ。すぐさま、よこせと要求してくるはずだ。
そうなったら、きちんと霊託をすると約束しろと念を押してから、渡せ。その際に、全部話し終え、自分が無事にこの場から立ち去れたら、近くで待機している仲間が残りの箱も投げて渡すと付け加えろ」
「わかった」
提示されたその取引の仕方は。要は信頼できない相手ということだ。肝に銘じる。と同時に――
(切望してやまないモノ・・・って、なんだろう?)
と知りたくなる。が、開けるのはさすがにまずいよなと思った途端に、心を読まれたかのように言われた。
「開封された痕跡があれば、連中は受け取らないだろう。途中で開けるな。いいな?」
「あ、うん・・・わかった」
「一緒についていきたいところだが、複数の足音を聞いた途端に結界を張って姿を消すか、敵とみなして襲いかかってくるか・・・そんな連中だ。臆病な奴ほど用心深く攻撃的だ。この樹の枝から見守っている。何か異変を感じたら、すぐにオレを呼べ」
瞳を隠すように前髪を触られながら告げられて、頷く。そのまま首に巻いている布を鼻先まで持ち上げられた。被っていた外套のフードも目深になるように整えられる。
「箱を渡した後は、連中に任せろ。お前はただ聞くだけでいい。くれぐれも気をつけろ。状況が怪しくなっても剣は抜くな。オレを呼ぶんだ。いいな、テセウス」
「わかった」
「テセウス」
背中に腕を回されて強く抱きしめられた。
「オレが代わりに行きたいくらいだ。だが、これは一種の通過儀礼でもあり・・・」
(通過儀礼・・・)
妙な響きにも聞こえたその言葉を。心の中で繰り返す。だが確かに、王妃の行方を知り、ハデスの依頼を引き受け、そして完遂できてこそ、身分と定住先が与えられ、新しい人生が始まるのだ。
「だから・・・オレは・・・」
(だから・・・オレは・・・?)
一体、何が言いたいのか。続きを待っていても、そのまま黙ってしまった相手の、らしくない口調とその様子に戸惑う。
「・・・本来ならば、お前を危険な目に遭わせたくない」
「アトラス、そんなに心配するなって。ただ霊示を聞いてくるだけだろ? 何を言われても、どんなに不快でも敵意を見せず、不要なことはせず・・・聞き手に徹する。それで戻ってきて、終わりだ。そうだろ?」
相手の危惧を拭い祓うように伝え、空いている左手でパンパンと背中を叩く。離れると「行ってくる」と告げて背を向けた。
剥き出しとなっている石灰岩の岩肌とゴロゴロと石が転がる、ぬるぬるとした土壌は。ずっと手を強引に握られて、ケールが発する明るい炎に守られながら歩んできた今までとは違って、やはり心細い。
恨みを持って彷徨う枯骸のような木々の黒い枝が。細く太くうねうねと伸びていて。横に斜めにと絡み合い、結託して一斉にこちらに襲いかかってくるかのような無気味さを漂わせている。
0
お気に入りに追加
202
あなたにおすすめの小説
その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました
海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。
しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。
偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。
御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。
これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。
【7/27完結しました。読んでいただいてありがとうございました。】
【続編も8/17完結しました。】
「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785
↑この続編は、R18の過激描写がありますので、苦手な方はご注意ください。
俺の彼氏
ゆきの(リンドウ)
BL
26歳、役所勤めの榊 哲太は、ある悩みに頭を抱えていた。それは、恋人である南沢 雪の存在そのものについてだった。
同じ男のはずなのに、どうして可愛いと思うのか。独り占めしたいのか、嫉妬してしまうのか。
挙げれば挙げるほど、悩みは尽きない。
リスク回避という名の先回りをする哲太だが、それを上回る雪に振り回されてー。
一方の雪も、無自覚にカッコよさを垂れ流す哲太が心配で心配で仕方がない。
「それでもやっぱり、俺はお前が愛しいみたいだ」
甘酸っぱくてもどかしい高校時代と大人リアルなエピソードを交互にお届けします!
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
おだやかDomは一途なSubの腕の中
phyr
BL
リユネルヴェニア王国北の砦で働く魔術師レーネは、ぽやぽやした性格で魔術以外は今ひとつ頼りない。世話をするよりもされるほうが得意なのだが、ある日所属する小隊に新人が配属され、そのうち一人を受け持つことになった。
担当することになった新人騎士ティノールトは、書類上のダイナミクスはNormalだがどうやらSubらしい。Domに頼れず倒れかけたティノールトのためのPlay をきっかけに、レーネも徐々にDomとしての性質を目覚めさせ、二人は惹かれ合っていく。
しかしティノールトの異動によって離れ離れになってしまい、またぼんやりと日々を過ごしていたレーネのもとに、一通の書類が届く。
『貴殿を、西方将軍補佐官に任命する』
------------------------
※10/5-10/27, 11/1-11/23の間、毎日更新です。
※この作品はDom/Subユニバースの設定に基づいて創作しています。一部独自の解釈、設定があります。
表紙は祭崎飯代様に描いていただきました。ありがとうございました。
第11回BL小説大賞にエントリーしております。
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)
美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!
明日の朝を待っている
紺色橙
BL
■推しにガチ恋した話
■夜の公園で一人踊るその姿に惹かれた。見ているのなら金を払えと言われ、素直に支払う。何度も公園を訪れリョウという名前を教えてもらい、バックダンサーとして出演するコンサートへも追いかけて行った。
ただのファンとして多くの人にリョウさんのことを知ってほしいと願うが、同時に、心の中に引っかかりを覚える。
僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした
なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。
「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」
高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。
そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに…
その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。
ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。
かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで…
ハッピーエンドです。
R18の場面には※をつけます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる