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4:不可解な夢とグライアイの三姉妹と

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 「そうだ。お前が裁きを通達された際に、神殿の使い魔たちから渡された箱だ」

 確かに見覚えのあるその箱は。預かると言われてそのまま任せていた物だ。それを一つ戻されて。相手の顔をしみじみと見つめた。

 「ハデスから託されて、お前たちが切望してやまないモノを持ってきたと伝えろ。すぐさま、よこせと要求してくるはずだ。

 そうなったら、きちんと霊託をすると約束しろと念を押してから、渡せ。その際に、全部話し終え、自分が無事にこの場から立ち去れたら、近くで待機している仲間が残りの箱も投げて渡すと付け加えろ」

 「わかった」

 提示されたその取引の仕方は。要は信頼できない相手ということだ。肝に銘じる。と同時に――

 (切望してやまないモノ・・・って、なんだろう?)

 と知りたくなる。が、開けるのはさすがにまずいよなと思った途端に、心を読まれたかのように言われた。

 「開封された痕跡があれば、連中は受け取らないだろう。途中で開けるな。いいな?」

 「あ、うん・・・わかった」

 「一緒についていきたいところだが、複数の足音を聞いた途端に結界を張って姿を消すか、敵とみなして襲いかかってくるか・・・そんな連中だ。臆病な奴ほど用心深く攻撃的だ。この樹の枝から見守っている。何か異変を感じたら、すぐにオレを呼べ」

 瞳を隠すように前髪を触られながら告げられて、頷く。そのまま首に巻いている布を鼻先まで持ち上げられた。被っていた外套クライナのフードも目深になるように整えられる。

 「箱を渡した後は、連中に任せろ。お前はただ聞くだけでいい。くれぐれも気をつけろ。状況が怪しくなっても剣は抜くな。オレを呼ぶんだ。いいな、テセウス」

 「わかった」

 「テセウス」

 背中に腕を回されて強く抱きしめられた。

 「オレが代わりに行きたいくらいだ。だが、これは一種の通過儀礼でもあり・・・」

 (通過儀礼・・・)

 妙な響きにも聞こえたその言葉を。心の中で繰り返す。だが確かに、王妃の行方を知り、ハデスの依頼を引き受け、そして完遂できてこそ、身分と定住先が与えられ、新しい人生が始まるのだ。

 「だから・・・オレは・・・」

 (だから・・・オレは・・・?)

 一体、何が言いたいのか。続きを待っていても、そのまま黙ってしまった相手の、らしくない口調とその様子に戸惑う。

 「・・・本来ならば、お前を危険な目に遭わせたくない」

 「アトラス、そんなに心配するなって。ただ霊示を聞いてくるだけだろ? 何を言われても、どんなに不快でも敵意を見せず、不要なことはせず・・・聞き手に徹する。それで戻ってきて、終わりだ。そうだろ?」

 相手の危惧を拭い祓うように伝え、空いている左手でパンパンと背中を叩く。離れると「行ってくる」と告げて背を向けた。

 剥き出しとなっている石灰岩の岩肌とゴロゴロと石が転がる、ぬるぬるとした土壌は。ずっと手を強引に握られて、ケールが発する明るい炎に守られながら歩んできた今までとは違って、やはり心細い。

 恨みを持って彷徨う枯骸こがいのような木々の黒い枝が。細く太くうねうねと伸びていて。横に斜めにと絡み合い、結託して一斉にこちらに襲いかかってくるかのような無気味さを漂わせている。

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