41 / 169
4:不可解な夢とグライアイの三姉妹と
6
しおりを挟む
「お前は優しいな・・・本当に」
この上なく愛おしげに見つめられて。賛美されるような言葉をかけられて。気恥ずかしさを感じながら否定する。
「いや、だって、ケールは小さいじゃないか。それに・・・これほどまでの悪天候だから、村の牛舎あたりに一時避難させてもらったりした方がいいのでは?」
アトラスがフッと笑った。
「問題ない。このまま行く。冥府の王の守護を受けている獣車だ。嵐だろうと海の上だろうと難なく進む」
「でも・・・」
海はさすがに言い過ぎなんじゃないかと思いつつ。御者台の様子が見たくて、荷台の前方、小窓が設けられている幕に手をかける。
「テセウス、大丈夫だ。ケールに心配はいらない。だが、今は開けるな。邪龍がちょうど上空にいる」
「邪龍? 邪龍ってなんだ?」
「ゴルゴーンの地は幽鬼や邪霊、そして魔物たちの巣窟だ。魔気が薄れた平地には沼地からは本来は出て来ないはずだが、自分たちの領域を侵されると。沼の主が侵入者の気配に興奮したのだろう」
(沼の主が・・・侵入者の気配に・・・興奮した・・・?)
侵入者とは、気配とは。ケールやルーベといった魔獣のことだろうか。疑問が沸いたが、荷物袋から食料を出し始めたアトラスの手元に視線が釘付けになる。
「随分・・・あるんだな」
立てかけられていた縦長のテーブルを真ん中に置いて。それこそ昨晩を上回る量の多様な食材が次から次へと並べられていく。不毛に見えた地の農作物にしてはあまりにも多くないかと驚かされる。
「これ全部、さっきの農村で?」
「あぁ、そうだ。昨日の分はケールとルーベに食べ尽くされたからな。グライアイの三姉妹は厄介な連中だが、その予言の的確さには定評がある。霊託を求めて人目を避けて来る王族や富裕層も少なくない。一見、貧相に見える土地の割に村が栄えているのはそれが理由だ」
その説明に、だからかと合点する。だから、道がそれなりに整備され、沼地を移動するための牛車も輿も用意されていたのかと。商売が成り立っているのだ。
「これだったら、ケールとルーベの分もたくさんあるな」
尻尾を存分に振って、ガツガツと食べるだろうその姿が脳裏に浮かぶ。と思わず、笑みがこぼれた。
「テセウス・・・」
食材を並べていたアトラスの手が止まった。
「そうだ、笑っててくれ。ずっと・・・ずっとだ。オレの・・・テセウス」
「えっ・・・」
思ってもいなかった言葉とともに手が差し伸べられる。頬に触れられ、親指で唇を撫でられた。その手が首の後ろを捉え、テーブルを乗り越えてきた相手の顔へと引き寄せられる。
「ちょっ・・・アトラス!!」
バッと両手を相手の胸について拒んだ。油断も隙もない。
「少し・・・控えろ」
それでも両腕を掴んで離さない相手を睨みつける。
「お前があまりにも美しいからだ」
「なにを言ってるんだ。だから・・・そうじゃなくって・・・」
この上なく愛おしげに見つめられて。賛美されるような言葉をかけられて。気恥ずかしさを感じながら否定する。
「いや、だって、ケールは小さいじゃないか。それに・・・これほどまでの悪天候だから、村の牛舎あたりに一時避難させてもらったりした方がいいのでは?」
アトラスがフッと笑った。
「問題ない。このまま行く。冥府の王の守護を受けている獣車だ。嵐だろうと海の上だろうと難なく進む」
「でも・・・」
海はさすがに言い過ぎなんじゃないかと思いつつ。御者台の様子が見たくて、荷台の前方、小窓が設けられている幕に手をかける。
「テセウス、大丈夫だ。ケールに心配はいらない。だが、今は開けるな。邪龍がちょうど上空にいる」
「邪龍? 邪龍ってなんだ?」
「ゴルゴーンの地は幽鬼や邪霊、そして魔物たちの巣窟だ。魔気が薄れた平地には沼地からは本来は出て来ないはずだが、自分たちの領域を侵されると。沼の主が侵入者の気配に興奮したのだろう」
(沼の主が・・・侵入者の気配に・・・興奮した・・・?)
侵入者とは、気配とは。ケールやルーベといった魔獣のことだろうか。疑問が沸いたが、荷物袋から食料を出し始めたアトラスの手元に視線が釘付けになる。
「随分・・・あるんだな」
立てかけられていた縦長のテーブルを真ん中に置いて。それこそ昨晩を上回る量の多様な食材が次から次へと並べられていく。不毛に見えた地の農作物にしてはあまりにも多くないかと驚かされる。
「これ全部、さっきの農村で?」
「あぁ、そうだ。昨日の分はケールとルーベに食べ尽くされたからな。グライアイの三姉妹は厄介な連中だが、その予言の的確さには定評がある。霊託を求めて人目を避けて来る王族や富裕層も少なくない。一見、貧相に見える土地の割に村が栄えているのはそれが理由だ」
その説明に、だからかと合点する。だから、道がそれなりに整備され、沼地を移動するための牛車も輿も用意されていたのかと。商売が成り立っているのだ。
「これだったら、ケールとルーベの分もたくさんあるな」
尻尾を存分に振って、ガツガツと食べるだろうその姿が脳裏に浮かぶ。と思わず、笑みがこぼれた。
「テセウス・・・」
食材を並べていたアトラスの手が止まった。
「そうだ、笑っててくれ。ずっと・・・ずっとだ。オレの・・・テセウス」
「えっ・・・」
思ってもいなかった言葉とともに手が差し伸べられる。頬に触れられ、親指で唇を撫でられた。その手が首の後ろを捉え、テーブルを乗り越えてきた相手の顔へと引き寄せられる。
「ちょっ・・・アトラス!!」
バッと両手を相手の胸について拒んだ。油断も隙もない。
「少し・・・控えろ」
それでも両腕を掴んで離さない相手を睨みつける。
「お前があまりにも美しいからだ」
「なにを言ってるんだ。だから・・・そうじゃなくって・・・」
0
お気に入りに追加
200
あなたにおすすめの小説
アルマ エスペランサ
純鈍
BL
◆ラウル:狼人、一国の王、冷酷な性格
◆ レオ:人間、人間の国の騎士団長、強気男前、少々荒くれ者。
突如として国を追い出されたレオ 国からの追放と二つの罰を受けた彼 その二つの罰とは? 国を追い出された理由とは?
サイコ・α(アルファ)
水野あめんぼ
BL
「――取引だ、ここから出たらお前……俺の番になれ。」
山羊内七歩(やぎうち ななほ)が目を覚ました時そこは見知らぬ屋敷だった、自分を拉致監禁した屋敷の主は首輪を嵌め自分のところまでくればその首輪を外すと言った……。七歩は首輪は外したいものの、自分を拉致した男のものになるのは嫌だった為脱出をしようとするが、首輪を外されない限り屋敷から出られない事を知った。絶望に打ちひしがれていた七歩に同じ屋敷に囚われていた謎のヤクザの男・狼谷朧(かみや おぼろ)はある取引を七歩に持ちかける。朧と協力し、七歩は屋敷の主の魔の手から逃げられるのか? オメガバースを題材にしたサイコサスペンス、始動!
※この作品はムーンライトノベルス様のほうでも掲示しているものをアルファポリス版に掲示したものです。ムーンライトノベルス様の方では番外編と補足を不定期に更新してますのでそちらの方もよろしくお願いします。
※なお濡れ場などはタイトルの横に*がつきます
お前だけが俺の運命の番
水無瀬雨音
BL
孤児の俺ヴェルトリーはオメガだが、ベータのふりをして、宿屋で働かせてもらっている。それなりに充実した毎日を過ごしていたとき、狼の獣人のアルファ、リュカが現れた。いきなりキスしてきたリュカは、俺に「お前は俺の運命の番だ」と言ってきた。
オメガの集められる施設に行くか、リュカの屋敷に行くかの選択を迫られ、抜け出せる可能性の高いリュカの屋敷に行くことにした俺。新しい暮らしになれ、意外と優しいリュカにだんだんと惹かれて行く。
それなのにリュカが一向に番にしてくれないことに不満を抱いていたとき、彼に婚約者がいることを知り……?
『ロマンチックな恋ならば』とリンクしていますが、読まなくても支障ありません。頭を空っぽにして読んでください。
ふじょっしーのコンテストに応募しています。
君を変える愛
沙羅
BL
運命に縛られたカップルって美味しいですよね……受けが嫌がってるとなお良い。切なげな感じでおわってますが、2人ともちゃんと幸せになってくれるはず。
もともとβだった子がΩになる表現があります。
獅子王と後宮の白虎
三国華子
BL
#2020男子後宮BL 参加作品
間違えて獅子王のハーレムに入ってしまった白虎のお話です。
オメガバースです。
受けがゴリマッチョから細マッチョに変化します。
ムーンライトノベルズ様にて先行公開しております。
山本さんの受難 ▷危ないαに愛されたばかりに
さくらこ
BL
執着腹黒美形×平凡ノンケ
平凡に生きたいΩ 。
いつかは可愛い女の子をお嫁に貰いたいと、βのふりをして生きていた。
努力実り、有名企業に就職して順風満帆な人生だった。表向きは完璧人間な彼に会うまでは。誰にでも好かれる彼の本性は、
※注意書き
・ほぼ攻めが無理矢理に、受けに行為を強いてます。
・注意書きなくR18入ります。
---この話におけるオメガバース設定---
・第2性として、α、β、Ωがある
・一般的なイメージは、
α:優秀、支配者的
β:普通、その他大勢的
Ω:劣等、支配される側
・ほとんどの人がβ
・Ω は男でも妊娠可能
・Ωは定期的に発情期がくる
・発情期のΩの項にαが噛みつくと、番契約を結ぶことになる
・Ωへの差別があったため、公には第2性は問われない
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる