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4:不可解な夢とグライアイの三姉妹と

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 「お前は優しいな・・・本当に」

 この上なく愛おしげに見つめられて。賛美されるような言葉をかけられて。気恥ずかしさを感じながら否定する。

 「いや、だって、ケールは小さいじゃないか。それに・・・これほどまでの悪天候だから、村の牛舎あたりに一時避難させてもらったりした方がいいのでは?」

 アトラスがフッと笑った。

 「問題ない。このまま行く。冥府の王の守護を受けている獣車クーペだ。嵐だろうと海の上だろうと難なく進む」

 「でも・・・」

 海はさすがに言い過ぎなんじゃないかと思いつつ。御者台の様子が見たくて、荷台の前方、小窓が設けられている幕に手をかける。

 「テセウス、大丈夫だ。ケールに心配はいらない。だが、今は開けるな。邪龍がちょうど上空にいる」

 「邪龍? 邪龍ってなんだ?」

 「ゴルゴーンの地は幽鬼や邪霊、そして魔物たちの巣窟だ。魔気が薄れた平地には沼地からは本来は出て来ないはずだが、自分たちの領域を侵されると。沼の主が侵入者の気配に興奮したのだろう」

 (沼の主が・・・侵入者の気配に・・・興奮した・・・?)

 侵入者とは、気配とは。ケールやルーベといった魔獣のことだろうか。疑問が沸いたが、荷物袋サルキィナから食料を出し始めたアトラスの手元に視線が釘付けになる。

 「随分・・・あるんだな」

 立てかけられていた縦長のテーブルを真ん中に置いて。それこそ昨晩を上回る量の多様な食材が次から次へと並べられていく。不毛に見えた地の農作物にしてはあまりにも多くないかと驚かされる。

 「これ全部、さっきの農村で?」

 「あぁ、そうだ。昨日の分はケールとルーベに食べ尽くされたからな。グライアイの三姉妹は厄介な連中だが、その予言の的確さには定評がある。霊託を求めて人目を避けて来る王族や富裕層も少なくない。一見、貧相に見える土地の割に村が栄えているのはそれが理由だ」

 その説明に、だからかと合点する。だから、道がそれなりに整備され、沼地を移動するための牛車も輿も用意されていたのかと。商売が成り立っているのだ。

 「これだったら、ケールとルーベの分もたくさんあるな」

 尻尾を存分に振って、ガツガツと食べるだろうその姿が脳裏に浮かぶ。と思わず、笑みがこぼれた。

 「テセウス・・・」

 食材を並べていたアトラスの手が止まった。

 「そうだ、笑っててくれ。ずっと・・・ずっとだ。オレの・・・テセウス」

 「えっ・・・」

 思ってもいなかった言葉とともに手が差し伸べられる。頬に触れられ、親指で唇を撫でられた。その手が首の後ろを捉え、テーブルを乗り越えてきた相手の顔へと引き寄せられる。

 「ちょっ・・・アトラス!!」

 バッと両手を相手の胸について拒んだ。油断も隙もない。

 「少し・・・控えろ」

 それでも両腕を掴んで離さない相手を睨みつける。

 「お前があまりにも美しいからだ」

 「なにを言ってるんだ。だから・・・そうじゃなくって・・・」

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