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3:アトラスの謎と猛烈な求愛と

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 優しい瞳と声音で告げたアトラスが荷物袋サルキィナを御者台に置き、ルーベの装着具ハーネスを緩める。小さい方はパタパタと。大きい方はブンブンと。長い尾を嬉しそうに振った二匹が早く、早くとばかりに鼻面を台の上の袋へとくっつけた。

 「慌てない。慌てないの」

 今にでも袋ごと食べそうな勢いを制して結び目を解く。

 「あ、こら!!」

 途端にケールが口を突っこんだ。中から小分けにされた袋を取り出す。と前足で押さえつけて、クッ、クッ、クッと鼻に皺を寄せて皮袋を噛みきろうとする。

 「だから、そんなに慌てないでいいから。まったく・・・ほら、貸して」

 その必死な様子に笑いを堪えながら、台の上で封を解く。ぼろっと中が露わになった途端に、ガッ、ガッ、ガッと二匹が口に入れ始めた。

 「あれ・・・お菓子の方なんだ」

 てっきり肉の臭いに興奮しているのかと思いきや。二匹が競い合うようにして食べているのはゴマと蜂蜜を使った焼き菓子だ。

 「蜂蜜が好物だ」

 その傍らで。アトラスがザッと黒い幌をまくって屋根へと上げる。パチン、パチンと自らの防具や装身具を外すと、ポンッと中に投げ入れた。バサッと外套クライナも脱ぐ。

 「へぇ、蜂蜜が好きなのか」

 肉が好物の印象だったのだ。少し変わっていないかとじっと見つめる。あっという間に食べ終わった二匹が他も寄越せとばかりに、グッ、グッと鼻を袋に擦りつけた。

 「クゥゥーン、クゥゥーン・・・」

 「わかってる。わかってるって・・・足りないよな、これじゃ」

 そのまま肉に魚に、パンにフルーツにと。結局は全部を平らげた二匹に「いや、ケールは大丈夫だと思うけど、ルーベ、お前は足りているか」と問いかけた。

 「問題ない」

 代わりに答えたアトラスに視線を向ける。

 「そうかな。ルーベは大きいから、もっと必要じゃないのか」

 「何か見つけて食べてるはずだ。心配するな」

 アトラスがルーベにまた装着具ハーネスを備え付ける。と、今度は肩の防具に手を掛けられた。パチン、パチンと外される。

 「いや、自分でできるって」

 身をひねって腕を拒否する。ルーベと同じ感覚でされているとは思わないが、とにかく過保護なのだ。子供じゃないんだから・・・と何度となく不平を言っても改善されることはない。

 「全部やったのか。お前の食べる分がなくなったな。どこかで調達するか?」

 相手の意志を尊重する様子など一切見せないアトラスが当たり前のように外套を外し、荷台の中へと放りこむ。

 「いや別に必要ないだろ・・・だって中に、なんだかんだとたくさん、あるわけだし」

 そう、荷台の中はまるでどこかの王族の寝室のようで。ふわふわとした寝具そのものである床に、バランスよく設置された棚に。それこそ食べ物だろうと飲み物だろうと。

 ないものなどないのではと思えるほどだ。今だって小さなランタンが既に灯され、温かみのあるオレンジ色の空間と化している。

 元々がハデスが用意した獣たちと荷台なのだ。曲がりなりにも冥府の王妃を保護する際に、粗末な扱いをされては困ると言われて、与えられたらしい。

 (今日もここで・・・寝るんだよな)
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