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3:アトラスの謎と猛烈な求愛と
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甲高い声を上げたアマリアがいそいそと銀貨を取り、一枚を左胸に、二枚を右胸の衣服の中に分けて潜ませる。
ふんっ!!と見た目を裏切るたくましさで、大きな料理皿を両手で持ち上げると颯爽と立ち去っていった。
「少し払いすぎじゃないのか」
一枚でも事足りるはずだ。チップを加算して与えるとしても三枚も払う必要があったのか。
「金貨でもよかったんだがな。変に目立ってもな」
いや、銀貨を三枚払った時点で気前のいい客として充分すぎるほど目立ったような気もするが。と思った途端、心を読まれたかのように告げられた。
「お前を楽しませたからな。それも入れてだ」
そう聞かされて。そうか。あの野卑な連中と売り子たちのやり取りに意識が向いていたことをしっかり観察されていたかと。なんだか恥ずかしくなる。それにしても――
(オレのこと・・・本当に好きなんだな・・・)
ほんの少しだけ高みの見物をしていただけだというのに。その自分の様子を見て余計に渡すくらいなのだから。
(ほんと、オレなんかのどこがいいのやら・・・)
苦笑するような気持ちになって口角をわずかに上げる。けれども、その疑問についてはもう回答済みだ。素焼きの容器に残っていたワインを飲み干しながら思い返した。
『お前はオレの運命のツガイだ。どこがいいのかと聞かれれば、全てだとしか答えようがない』
迷いなく熱く真剣に告げられて。すぐさま、あんたほどの男が今まで誰かいなかったのかと素直に尋ね直した。その結果、自分もまた逆行者であったと伝えられたのだ。
互いに過去のない者同士が出会い、惹かれ合っているのだから縁とは不可解なものだ――とそこまで流れるように考えていて、ハッとした。
(えっ、今、オレ、なんて思った? 惹かれ合う?)
自ら繰り出した剣の一突きが妙な具合になって帰ってきたかのように。不意打ちを見事に食らったかのようにして。突然、自分の中で形となった感情にアタフタした。
(いや、惹かれ合うって・・・た、確かに嫌いではないけど、そ、そんな・・・)
正直に認めれば。この落ち着かない心も熱くなる身体も。好意だとは思うけれども。いや、だがしかし――
「テセウス・・・」
「ええっ!!」
そのタイミングでの声かけに。自分でも驚くほどの大声が出た。目深にフードを被った相手が首をわずかに傾けた。
「いや、あの・・・ちが・・・」
取り繕うように片手を顔の前で振りながら周りをうかがう。ギャハハ、ギャハハと。変わらずの喧噪の中、特に目立たなかった様子にホッとした。
「どうした?」
「いや、すまない。なんでもない」
と努めて冷静に返事しつつも。今、自分の頬は赤くなってるのではないだろうかと。下を向きながら、左手の甲で頬を押さえる。熱い。
少しでも冷えるように左右の頬を交互に拳で軽く叩く。と、テーブルの上に置いていたままの右手が握られた。
(!!)
持ち上げられた手の指をいきなりしゃぶられて。息をのんだ。
ふんっ!!と見た目を裏切るたくましさで、大きな料理皿を両手で持ち上げると颯爽と立ち去っていった。
「少し払いすぎじゃないのか」
一枚でも事足りるはずだ。チップを加算して与えるとしても三枚も払う必要があったのか。
「金貨でもよかったんだがな。変に目立ってもな」
いや、銀貨を三枚払った時点で気前のいい客として充分すぎるほど目立ったような気もするが。と思った途端、心を読まれたかのように告げられた。
「お前を楽しませたからな。それも入れてだ」
そう聞かされて。そうか。あの野卑な連中と売り子たちのやり取りに意識が向いていたことをしっかり観察されていたかと。なんだか恥ずかしくなる。それにしても――
(オレのこと・・・本当に好きなんだな・・・)
ほんの少しだけ高みの見物をしていただけだというのに。その自分の様子を見て余計に渡すくらいなのだから。
(ほんと、オレなんかのどこがいいのやら・・・)
苦笑するような気持ちになって口角をわずかに上げる。けれども、その疑問についてはもう回答済みだ。素焼きの容器に残っていたワインを飲み干しながら思い返した。
『お前はオレの運命のツガイだ。どこがいいのかと聞かれれば、全てだとしか答えようがない』
迷いなく熱く真剣に告げられて。すぐさま、あんたほどの男が今まで誰かいなかったのかと素直に尋ね直した。その結果、自分もまた逆行者であったと伝えられたのだ。
互いに過去のない者同士が出会い、惹かれ合っているのだから縁とは不可解なものだ――とそこまで流れるように考えていて、ハッとした。
(えっ、今、オレ、なんて思った? 惹かれ合う?)
自ら繰り出した剣の一突きが妙な具合になって帰ってきたかのように。不意打ちを見事に食らったかのようにして。突然、自分の中で形となった感情にアタフタした。
(いや、惹かれ合うって・・・た、確かに嫌いではないけど、そ、そんな・・・)
正直に認めれば。この落ち着かない心も熱くなる身体も。好意だとは思うけれども。いや、だがしかし――
「テセウス・・・」
「ええっ!!」
そのタイミングでの声かけに。自分でも驚くほどの大声が出た。目深にフードを被った相手が首をわずかに傾けた。
「いや、あの・・・ちが・・・」
取り繕うように片手を顔の前で振りながら周りをうかがう。ギャハハ、ギャハハと。変わらずの喧噪の中、特に目立たなかった様子にホッとした。
「どうした?」
「いや、すまない。なんでもない」
と努めて冷静に返事しつつも。今、自分の頬は赤くなってるのではないだろうかと。下を向きながら、左手の甲で頬を押さえる。熱い。
少しでも冷えるように左右の頬を交互に拳で軽く叩く。と、テーブルの上に置いていたままの右手が握られた。
(!!)
持ち上げられた手の指をいきなりしゃぶられて。息をのんだ。
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