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3:アトラスの謎と猛烈な求愛と

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 「なぁ、見ろよ。あの胸・・・たまんねぇな、あの娘・・・ヤりてぇよなぁ」

 「だな。ぷるんぷるんじゃねぇかよ。くっそ・・・ムラムラくるぜ。後で待ち伏せしてみるか?」

 「いいな・・・ヤっちまうか」

 ガヤガヤ、わいわいと。とかく乱雑さが際立つ飲み屋で、野卑な連中がギラギラした視線をある売り子に注いでいる。とそこへ、別の売り子が料理を盛った皿を両手に抱えて通りかかった。

 「あら、やだ。にーさんたち、変なこと言っちゃってぇ~ 興味あるのぉ? ねぇ、ちょっと、アマリア~!! このテーブルのおにーさんたちがあんたに掘って欲しいって言ってるわよぉ~ あははは!!」

 「なっ!?」

 「ナニ、言ってるんだ、お前!!」

 アマリアと呼ばれた赤毛が振り返り、豊満な胸をむぎゅぅっと両手で寄せる。大胆にえぐれた丸襟の谷間を一層くっきりと強調しながら、真っ赤な唇をペロリと舌で拭った。

 「あらん。いいわよぉ~ 思いっきり掘って掘って、種付けしてあげるぅぅ~」

 「げっ、あいつ、ガンマか!!」

 「マジかよ!! デルタじゃねぇのかよ!!」

 下半身にオスの機能も兼ね揃えているとは思わなかったゲスたちが慌てて視線をそらし、事情を知っている常連がドッと笑い声を上げる。

 その様は確かに愉快ではあったが、とにかく騒がしい。酒場なのだから当然だが、どこもかしこも酒臭く。

 おまけに酒樽の上には乗るわ、周囲を気にせずに派手に歌うわ。一方的にわめき散らしてるわ、室内を駆け回る奇声やらなんやらとで。あちらこちらで見事に入り乱れている。

 繁盛しているのはなによりだが、少しは秩序が欲しいとすら思えるほどだ。

 そのけたたましさ極まる大衆酒場の片隅で。灰色のフードを目深に被ったまま、静かに・・・どころかどこか陰気臭く食事をしている二人組のことなど誰も気にもとめやしない。

 (ガンマか・・・)

 木の器に注がれている、予想外にも味はなかなか美味いスープを匙ですすりながら、聞こえてきた言葉を振り返った。

 一見、雌性のみのデルタに見えた売り子が、孕ます側の強者としては二番手のガンマだったのだから、さぞかし驚いただろう。実際、自分も驚いている。だが、同時に我が身を振り返った。

 (オレは・・・ベータだよな・・・)

 大半の者が幼少の頃に呪術師のところに赴いてその属性を確かめて知った後、術がこめられた貞操帯を身に着けるのが一般的な中、自分には記憶がないのだ。

 『知りたいのなら、グライアイの三姉妹についでに聞けばいい』

 そう答えた相手は。口をきくこともなく、目の前でパンをちぎって食べている。思っていたよりも小食だ。その屈強な肉体ならば、もっと食べてもおかしくないというのに。
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