17 / 169
2:案内人アトラス
7
しおりを挟む
(オピス・・・)
ザザザザザーーーッ・・・と。一度広く砂地まで浸食した水が河へと勢いよく戻っていく流れの中、じっと眺める。
シュルシュルと先が割れた赤い舌を覗かせて。黒い縦長の瞳孔が入った目で見つめ返してくるのは神殿の前で出会った大蛇だ。
守護者が逸脱した者を追いかけてきたのか。そう理解した途端、鎌首に幾重になって巻かれている鎖がジャラジャラと音を出した。
「ね、着いたの? ね、モルモー、着いたの? 目を開けてもいいの?」
「う、うん。なんかものすごかったのに、急に静かになったってことは着いたってことだよね?」
「じゃ、いっせーのせで顔を上げるよ?」
「うん、そだね。じゃ、いっせーのせ!!」
鎖にしがみつくようにしてくっついていた獣人たちが同時に頭を上げた。鳥顔と猿顔がパチパチと瞬きをする。
「あーっ、目の前にいたーっ!!」
「ほんとだーっ!! もぉー、勝手に鏡、触らないで下さいよぉー!!」
叫ぶと同時に、大蛇が水面に頭をのせるようにしてスーーッと鎌首を下げる。二体がその平たくなった頭部を台にするかのようにすくっと立ち上がった。
「フゥ・・・とにかく、すぐ見つかってよかった。見つからなかったら、ラダマンテュスさまに大目玉を食らうところだったよね」
「大目玉ですむのかなぁ・・・こんなこと、初めてだよね」
「ほんとほんと・・・もしかしたら、ラダマンテュスさまどころか、ハデスさまに怒られちゃってたかもってこと?」
「ぅわ、こわっ・・・エンプサ、早くしよ、早く済ませよ!! 早く済ませて帰ろう!!」
「う、うん」
エンプサと呼ばれた鳥頭が斜め掛けしている皮の鞄に手を入れた。ガサゴソと探るようにした後、巻物のような物体を取り出す。
「では、仕切り直しまして。まず本人確認のため、この巻物に手を置いて下さい」
ズルーーッと流れるようにして蛇の頭がすぐ真横へと伸び、目の前に差し出された巻物に言われた通りに手を置く。
「名前を言って下さい」
「・・・テセウスだ」
告げた途端、パァァッと巻物が緑色の光を発した。
「間違いなく本人の裁きの書だ」
パラララ・・・と開いた光る紙の端をモルモーと呼ばれていた猿頭が下に落ちないように手のひらで受け止める。ぐぃいぃ・・・と蛇がまた首を上げた。
あえて高さを設けたかったのか。見上げる形となって。巻物を広げた獣人たちに座ったまま視線を向けた。
「タルタロスは第八監獄の囚人テセウスに告げる。冥府の王ハデスの名において、この度、特赦が与えられることとなった。罪人であった過去がその記憶ごと清算されることによって、お前は新しい人生を歩むことが許される。そして――
ザザザザザーーーッ・・・と。一度広く砂地まで浸食した水が河へと勢いよく戻っていく流れの中、じっと眺める。
シュルシュルと先が割れた赤い舌を覗かせて。黒い縦長の瞳孔が入った目で見つめ返してくるのは神殿の前で出会った大蛇だ。
守護者が逸脱した者を追いかけてきたのか。そう理解した途端、鎌首に幾重になって巻かれている鎖がジャラジャラと音を出した。
「ね、着いたの? ね、モルモー、着いたの? 目を開けてもいいの?」
「う、うん。なんかものすごかったのに、急に静かになったってことは着いたってことだよね?」
「じゃ、いっせーのせで顔を上げるよ?」
「うん、そだね。じゃ、いっせーのせ!!」
鎖にしがみつくようにしてくっついていた獣人たちが同時に頭を上げた。鳥顔と猿顔がパチパチと瞬きをする。
「あーっ、目の前にいたーっ!!」
「ほんとだーっ!! もぉー、勝手に鏡、触らないで下さいよぉー!!」
叫ぶと同時に、大蛇が水面に頭をのせるようにしてスーーッと鎌首を下げる。二体がその平たくなった頭部を台にするかのようにすくっと立ち上がった。
「フゥ・・・とにかく、すぐ見つかってよかった。見つからなかったら、ラダマンテュスさまに大目玉を食らうところだったよね」
「大目玉ですむのかなぁ・・・こんなこと、初めてだよね」
「ほんとほんと・・・もしかしたら、ラダマンテュスさまどころか、ハデスさまに怒られちゃってたかもってこと?」
「ぅわ、こわっ・・・エンプサ、早くしよ、早く済ませよ!! 早く済ませて帰ろう!!」
「う、うん」
エンプサと呼ばれた鳥頭が斜め掛けしている皮の鞄に手を入れた。ガサゴソと探るようにした後、巻物のような物体を取り出す。
「では、仕切り直しまして。まず本人確認のため、この巻物に手を置いて下さい」
ズルーーッと流れるようにして蛇の頭がすぐ真横へと伸び、目の前に差し出された巻物に言われた通りに手を置く。
「名前を言って下さい」
「・・・テセウスだ」
告げた途端、パァァッと巻物が緑色の光を発した。
「間違いなく本人の裁きの書だ」
パラララ・・・と開いた光る紙の端をモルモーと呼ばれていた猿頭が下に落ちないように手のひらで受け止める。ぐぃいぃ・・・と蛇がまた首を上げた。
あえて高さを設けたかったのか。見上げる形となって。巻物を広げた獣人たちに座ったまま視線を向けた。
「タルタロスは第八監獄の囚人テセウスに告げる。冥府の王ハデスの名において、この度、特赦が与えられることとなった。罪人であった過去がその記憶ごと清算されることによって、お前は新しい人生を歩むことが許される。そして――
0
お気に入りに追加
202
あなたにおすすめの小説
その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました
海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。
しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。
偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。
御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。
これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。
【7/27完結しました。読んでいただいてありがとうございました。】
【続編も8/17完結しました。】
「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785
↑この続編は、R18の過激描写がありますので、苦手な方はご注意ください。
俺の彼氏
ゆきの(リンドウ)
BL
26歳、役所勤めの榊 哲太は、ある悩みに頭を抱えていた。それは、恋人である南沢 雪の存在そのものについてだった。
同じ男のはずなのに、どうして可愛いと思うのか。独り占めしたいのか、嫉妬してしまうのか。
挙げれば挙げるほど、悩みは尽きない。
リスク回避という名の先回りをする哲太だが、それを上回る雪に振り回されてー。
一方の雪も、無自覚にカッコよさを垂れ流す哲太が心配で心配で仕方がない。
「それでもやっぱり、俺はお前が愛しいみたいだ」
甘酸っぱくてもどかしい高校時代と大人リアルなエピソードを交互にお届けします!
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
おだやかDomは一途なSubの腕の中
phyr
BL
リユネルヴェニア王国北の砦で働く魔術師レーネは、ぽやぽやした性格で魔術以外は今ひとつ頼りない。世話をするよりもされるほうが得意なのだが、ある日所属する小隊に新人が配属され、そのうち一人を受け持つことになった。
担当することになった新人騎士ティノールトは、書類上のダイナミクスはNormalだがどうやらSubらしい。Domに頼れず倒れかけたティノールトのためのPlay をきっかけに、レーネも徐々にDomとしての性質を目覚めさせ、二人は惹かれ合っていく。
しかしティノールトの異動によって離れ離れになってしまい、またぼんやりと日々を過ごしていたレーネのもとに、一通の書類が届く。
『貴殿を、西方将軍補佐官に任命する』
------------------------
※10/5-10/27, 11/1-11/23の間、毎日更新です。
※この作品はDom/Subユニバースの設定に基づいて創作しています。一部独自の解釈、設定があります。
表紙は祭崎飯代様に描いていただきました。ありがとうございました。
第11回BL小説大賞にエントリーしております。
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)
美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!
明日の朝を待っている
紺色橙
BL
■推しにガチ恋した話
■夜の公園で一人踊るその姿に惹かれた。見ているのなら金を払えと言われ、素直に支払う。何度も公園を訪れリョウという名前を教えてもらい、バックダンサーとして出演するコンサートへも追いかけて行った。
ただのファンとして多くの人にリョウさんのことを知ってほしいと願うが、同時に、心の中に引っかかりを覚える。
僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした
なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。
「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」
高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。
そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに…
その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。
ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。
かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで…
ハッピーエンドです。
R18の場面には※をつけます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる