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2:案内人アトラス

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 有無も言わせない力強ささえ感じるような抱擁で。一体、この行為は何なのか。なぜ、こんな風にいきなり抱きしめられてしまったのかと。

 身じろいで離れようとしても、がっしりとした腕が、一回り大きな相手の身体がそれを許さない。

 (なんで・・・だ?)

 どういうつもりなのだろうかと。ダラリと下げていたままの両手を上げて。頼もしい背中の外套に触れた後、腕を掴んで押す。それは離してくれという意思表示だ。だが、相手の態度は変わりそうもない。

 (ど、どうして・・・?)

 抱きしめられている理由が全くわからない。それだけじゃない。とても情のこもった抱き方に感じるのだ。なんだか大切な相手へするような。そう感じるのは気のせいなのか。でも、これではまるで――

 『は、離してくれ・・・』

 呼吸が苦しくない水の中で、音にならなくても唇を動かす。気持ちが伝わったのか。腰に片手を回したまま、相手が腕を緩め、身を少し離した。頬に右手を添えてくる。

 (あっ・・・)

 あごを持ち上げられて。視線を唇に落とした整った顔がまた近づいてくる。その仕草が示すことは。再び横を向こうとした顔が今度はしっかりと固定された。

 『なっ・・・ちょっ・・・』

 だが、あと少しで重なる――と思われた直前でピタリと止まった。相手がふいっと顔を上げて、前方を見据える。何かを探るようにして真剣に見つめるその視線に。つられて顔を後方に向ける。

 薄暗い水底に時折、光がどこからか射しこむのか、それとも何かしらの霊力でも働いているのか。青や黄緑色の閃光が走り抜ける。が、特に異常は感じられない。

 けれども、男はわずかばかり小首を傾げた。

 『来るか』

 『えっ・・・』

 声が聞こえたわけではなく感じたのは振動のような、念だ。理解すると同時に、相手が身をかがめ、膝裏に手を添えられた。や否や、またふわりと横抱きに抱えられた。

 『えっ、な、なに・・・?』

 来た道を戻るようにして。階段を上り始めた相手に視線と唇で問いかける。それに対して応えが戻ってくることもなく。

 そのまま歩み続けて、ざぱぁっと水中から身体が外へと出る。膝下程度の水面の高さとなったところで、段に座るようにして降ろされた。

 「どうやら責務を全うしに来るようだ。冥界の通達に部外者は居てはならない。あの木の陰で待っている」

 「えっ?」

 告げるや否や、さっさと歩き始めた背中を目で追う。

 (来る・・・? 冥界の通達・・・?)

 と、その時ちょうど。アトラスと自らを名乗った男が離れた場所にある大木の裏に回ったところで、前方の水面が、ザザザザザザザッーーーッと激しく波打ち始めた。

 (なんだ・・・?)

 ダプンッと。胸の高さまである一際大きな波に打ち寄せられた後、ぬぅ・・・とあるモノが顔を出した。

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