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1:囚人テセウス
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一番奥まで行くと今度は見上げるほど高く連なる石段がある。その果てがないとも感じる段数を一歩ずつ上り、最上階へと着いた。
「えぇっ!? なんで? ちょっ・・・そこで止まって!!」
パタパタと・・・左端から子供ほどの大きさの存在が慌てて走ってきた。肩から上が鳥の頭をしている。首には赤い貞操帯を、下腹部には同色の腰衣を身に着けて。
「ね、モルモー!! ちょっと誰か来たよ!! しかもすっごい美形!!」
「えぇっ? なに? そんなわけないだろ・・・」
左右と奥の三方向が。二階、三階、四階・・・と長い梯子がかかる書棚に囲まれた空間で。おそらく審判官が座るだろう豪華な机の下からひょっこりと猿の頭が現れた。こちらも子供ほどの大きさの背丈だ。青の帯と腰衣をまとっている。
「あ、ほんとだ。なんで?」
「ね、おかしくない? 今日はハデスさまの急なお呼び出しで、お三方が不在なのだから。誰も入ってこれないはずでしょ? 魂は皆、砂漠止まりじゃないの?」
「う、うん・・・けど、来ちゃってるってことは・・・審判を下さないとならないってこと?」
鳥顔と猿顔が首を傾げて眺めてくる。
お三方とはおそらく冥府の審判官と言われるアイアコス、ラダマンテュス、ミーノースのことだろうか。全員いないとは。そういうこともあるのか。
「えっ・・・でも、いいの、そんな勝手なことして」
「けどさ、留守を頼まれる時は代わりをやれって、いつも言われてるじゃん」
「それは他のお二方がいらっしゃる時でしょ」
「そうだけどさ。でも、入ってきたら審判を下すのがルールだろ?」
ああでもない、こうでもないと。話を続ける二者を前にふと横を向くと壁に埋めこまれた鏡がある。そこに立っている男の姿を目にして――
(あれは・・・オレか・・・?)
と首を傾げた。身に着けてる服装、筋肉の付き方や手足の長さは実際に目で捉えている感じともちろん違いはない。
目鼻立ちはしっかりしている方かもしれない。が、取り立てて美しいとも思わない。髪は思っていたよりも長くて。後ろで緩く束ねてあり肩甲骨に届くほどで茶色だ。瞳は深い緑色をしている。
(そうか・・・これがオレなのか・・・)
鏡に近づき、しみじみと見つめる。不思議そうにしている顔の、向きを左に右に変える度に鏡の中の人物も応じる。
間違いなく自分のようだ。だが、姿を目の当たりにしたというのに、やはり何も思い出せないとは。
(本当にこれが・・・オレなのか・・・?)
手を持ち上げて鏡に向けて触れてみる。鏡面の中の姿もまた手を上げ、重なったその時、ユラユラと表面が突然揺れた。
重なり合った手の向こう側に、緑豊かな大木に背を寄りかからせて立っている誰かがいる。あれは――いや、待てよ。背後は書架のはずだ。思わず振り返る。
後ろには誰もいない。本棚だ。また前を見る。
「あーーっ!! 裁きの鏡に触ってるぅぅーー!!」
叫ぶ声が聞こえた瞬間、ぐにゃりと手を置いていた場所が歪んだ。
「えぇっ!? なんで? ちょっ・・・そこで止まって!!」
パタパタと・・・左端から子供ほどの大きさの存在が慌てて走ってきた。肩から上が鳥の頭をしている。首には赤い貞操帯を、下腹部には同色の腰衣を身に着けて。
「ね、モルモー!! ちょっと誰か来たよ!! しかもすっごい美形!!」
「えぇっ? なに? そんなわけないだろ・・・」
左右と奥の三方向が。二階、三階、四階・・・と長い梯子がかかる書棚に囲まれた空間で。おそらく審判官が座るだろう豪華な机の下からひょっこりと猿の頭が現れた。こちらも子供ほどの大きさの背丈だ。青の帯と腰衣をまとっている。
「あ、ほんとだ。なんで?」
「ね、おかしくない? 今日はハデスさまの急なお呼び出しで、お三方が不在なのだから。誰も入ってこれないはずでしょ? 魂は皆、砂漠止まりじゃないの?」
「う、うん・・・けど、来ちゃってるってことは・・・審判を下さないとならないってこと?」
鳥顔と猿顔が首を傾げて眺めてくる。
お三方とはおそらく冥府の審判官と言われるアイアコス、ラダマンテュス、ミーノースのことだろうか。全員いないとは。そういうこともあるのか。
「えっ・・・でも、いいの、そんな勝手なことして」
「けどさ、留守を頼まれる時は代わりをやれって、いつも言われてるじゃん」
「それは他のお二方がいらっしゃる時でしょ」
「そうだけどさ。でも、入ってきたら審判を下すのがルールだろ?」
ああでもない、こうでもないと。話を続ける二者を前にふと横を向くと壁に埋めこまれた鏡がある。そこに立っている男の姿を目にして――
(あれは・・・オレか・・・?)
と首を傾げた。身に着けてる服装、筋肉の付き方や手足の長さは実際に目で捉えている感じともちろん違いはない。
目鼻立ちはしっかりしている方かもしれない。が、取り立てて美しいとも思わない。髪は思っていたよりも長くて。後ろで緩く束ねてあり肩甲骨に届くほどで茶色だ。瞳は深い緑色をしている。
(そうか・・・これがオレなのか・・・)
鏡に近づき、しみじみと見つめる。不思議そうにしている顔の、向きを左に右に変える度に鏡の中の人物も応じる。
間違いなく自分のようだ。だが、姿を目の当たりにしたというのに、やはり何も思い出せないとは。
(本当にこれが・・・オレなのか・・・?)
手を持ち上げて鏡に向けて触れてみる。鏡面の中の姿もまた手を上げ、重なったその時、ユラユラと表面が突然揺れた。
重なり合った手の向こう側に、緑豊かな大木に背を寄りかからせて立っている誰かがいる。あれは――いや、待てよ。背後は書架のはずだ。思わず振り返る。
後ろには誰もいない。本棚だ。また前を見る。
「あーーっ!! 裁きの鏡に触ってるぅぅーー!!」
叫ぶ声が聞こえた瞬間、ぐにゃりと手を置いていた場所が歪んだ。
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