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1:囚人テセウス
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そこは闇だった。真っ暗な闇の中にいる。目を開けたはずなのに、本当に開けたのかと疑いたくなるほどの深い漆黒の中で。声だけが聞こえた。
『お前の名は?』
聞き覚えのない低い男の声に首を傾げた。一体、誰なのか。だが、その疑問よりも聞かれた内容が上回った。名前だ。さて、名は何だったか――そう、自分というモノを意識した途端に不思議な感覚がやってきた。
それはまるで水の中にでもいるような浮遊感で。顔だけを外に出しているかのような不安定さで。
『名前を言え』
隙なく促されて思考を巡らす。が、取り巻く暗闇のようにどんよりとしていて考えが何も定まらない。大気に触れている顔だけを自由に動かしながら。
(名前? 名前・・・名前は・・・なんだ?)
何度も何度も自問する。タプンタプンとした液体にでも包まれているかのような体感の中で。手足を上下左右の木枠にでも拘束されているかのような格好で。
「オレの・・・名前・・・オレの・・・名前・・・か・・・オレは・・・オレは・・・」
捉えどころのない奇妙な感覚のまま、ふと一筋の光とともに脳裏に言葉が浮かんだ。口にする。
「・・・・・・テセウス・・・だ・・・」
『そうだ。お前はテセウスだ。テセウス、お前は何者だ?』
「何者・・・?」
『お前は何をした?』
「何を・・・した? オレは・・・オレは・・・」
そうだ。オレは何をしたんだ。何を――与えられた問いかけを。自分に向かってまた繰り返す。だが何一つ思いつかない。
「わからない」
『そうだ。テセウス、それでいい。お前は罪人だ。だが、その罪は謎だ。従って、わからなくてよい』
わからなくてよい…だって? なんだ、それは。なぜ、そんなことを言うのか。それに罪人? 罪は謎? 何のことなんだ。これはどういうことなんだ?
『お前の望みは何だ?』
「望み・・・?」
理解がおぼつかない状態だというのに。容赦なく続く。望みなんか聞かれたところで今の状況が全くわからないというのに・・・と思うや否や自然と口に出ていた。
「この状態を・・・どうにかしてくれ」
闇の中でその自分が発した声が響いた。
「これは一体、どういうことなんだ? オレはどうしてこうなってるんだ?」
なぜ、こんな目に遭っているのか。どう考えても理不尽じゃないか。沸々とした怒りが先か。突如としてこみ上げてきた強い現状認識が先か。身体に、そしてその言葉に力が急激に宿ってきた。
「オレをどうするつもりなんだ? お前は誰だ?」
「・・・・・・」
「オレはどうしてこんな状態になっている?」
「・・・・・・」
しばらく待ったところで返事をする様子のない相手へと苛立ちが募る。
「どういうことか、答えろ!!」
『お前の名は?』
聞き覚えのない低い男の声に首を傾げた。一体、誰なのか。だが、その疑問よりも聞かれた内容が上回った。名前だ。さて、名は何だったか――そう、自分というモノを意識した途端に不思議な感覚がやってきた。
それはまるで水の中にでもいるような浮遊感で。顔だけを外に出しているかのような不安定さで。
『名前を言え』
隙なく促されて思考を巡らす。が、取り巻く暗闇のようにどんよりとしていて考えが何も定まらない。大気に触れている顔だけを自由に動かしながら。
(名前? 名前・・・名前は・・・なんだ?)
何度も何度も自問する。タプンタプンとした液体にでも包まれているかのような体感の中で。手足を上下左右の木枠にでも拘束されているかのような格好で。
「オレの・・・名前・・・オレの・・・名前・・・か・・・オレは・・・オレは・・・」
捉えどころのない奇妙な感覚のまま、ふと一筋の光とともに脳裏に言葉が浮かんだ。口にする。
「・・・・・・テセウス・・・だ・・・」
『そうだ。お前はテセウスだ。テセウス、お前は何者だ?』
「何者・・・?」
『お前は何をした?』
「何を・・・した? オレは・・・オレは・・・」
そうだ。オレは何をしたんだ。何を――与えられた問いかけを。自分に向かってまた繰り返す。だが何一つ思いつかない。
「わからない」
『そうだ。テセウス、それでいい。お前は罪人だ。だが、その罪は謎だ。従って、わからなくてよい』
わからなくてよい…だって? なんだ、それは。なぜ、そんなことを言うのか。それに罪人? 罪は謎? 何のことなんだ。これはどういうことなんだ?
『お前の望みは何だ?』
「望み・・・?」
理解がおぼつかない状態だというのに。容赦なく続く。望みなんか聞かれたところで今の状況が全くわからないというのに・・・と思うや否や自然と口に出ていた。
「この状態を・・・どうにかしてくれ」
闇の中でその自分が発した声が響いた。
「これは一体、どういうことなんだ? オレはどうしてこうなってるんだ?」
なぜ、こんな目に遭っているのか。どう考えても理不尽じゃないか。沸々とした怒りが先か。突如としてこみ上げてきた強い現状認識が先か。身体に、そしてその言葉に力が急激に宿ってきた。
「オレをどうするつもりなんだ? お前は誰だ?」
「・・・・・・」
「オレはどうしてこんな状態になっている?」
「・・・・・・」
しばらく待ったところで返事をする様子のない相手へと苛立ちが募る。
「どういうことか、答えろ!!」
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