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第14章 正体とその愛を知る

11 お遊びだったのが本気に

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 だから半魂の術をかけられ、記憶を失った囚人として解放され、使命達成の旅に出させられたのかと合点した。
 けれども――

(なぜ…なぜ、そんなことをしたんだ…アポロン…)

 自分が樹木と融合するのを止めるために、片目を術にまで使って。
 へベの地上での生活を取り戻すために、ヘラクレスの課題を半分背負って。
 空の王がそんなことをする必要などないのだ。

『それは好きだからに決まってるよ~、お遊びだったのが本気になっちゃったんだよ~』

 ピョーン、ピョーンと跳ねて遊んでいた聖獣が近寄ってきてニッと笑った。

「トリトス、ちょっと…余計なおしゃべりはしない約束だったよね?」
『だってだってさ、も~、さっきからずっと聞こえるんだもん』
「な、なにがだ…?」
『愛の歌だよ~、でもさ~、霊気に念をこめて音と一緒に流されてもさ、ぼくしか理解できないんだから、ぼくに伝書鳩にでもなれっていうこと~?』
「えっ…」

 どういうことだと耳を澄ます。
 けれども竪琴リラを奏でる音色は変わらずにきれいに聞こえるが歌声は聞こえない。

『許して欲しいって~、心から君を愛してるって~、何度も何度も波になって届くよ~』

(そ、そんな…)

「トリトス、もう本当に黙って。ダフネ、気にしなくていいからね」
「えっ」
「オレはアポロンが番いがいる君に強いたことを許さないから」
「えっ」

 一体どこまで把握されているのか。
 トリトスに聞かされた内容に続き、どうにも居心地の悪さを感じずにはいられない。
 だが――と思った途端に告げられた。
 
「ダフネ、君はこれからの人生を好きに選んでいいんだ。前にも言ったように、君が望むならば、エレウシスに住んでくれたっていいんだ」
「ペルセ…」
「だけど、今はそんな話よりも姿を確認したいだろう?」

 その問いかけに、そうだと首を強く縦に振った。
 アポロンの気持ちがどうなのか、何を訴えてきているのか。
 気にはなっても、まず先に知りたいことがあるのだ。

「林を抜けた先の、草原で彼らは君を待っている」

 ペルセフォネが指で示す方向に視線を注ぎ、本当に生きているのかとこみ上げる。
 だとしたら、これほど嬉しいことはない。

「ダフネ、その前に一つだけ…君はへベの助けを求める叫びに応じてやれなかったと後悔していたけど…」

 少し躊躇する様子を見せてから冥府の王妃が続けた。

「河の神の力を借りて…ヘラクレスが一番にへベの居場所に着いたということは…それは…その…」

 口ごもった友に、わかってると微笑んで返した。
 自分を思う、その優しさに胸が打たれた。

「ありがとう、ペルセ…ちょっと走って行ってくる」
『いいよ~、ぼくが案内してあげるよ~』

 頼んでもいないのに軽やかに駆け出した黄金の羊につられて、頷いて返した黄緑色の瞳を背に自分もまた走り出す。
 早く、早く、少しでも早くと。
 放たれた矢のようになって枝葉を両手で掻き分けるようにして通り抜け、サアァッと吹きつけてきた風を全身で受けながら青々とした草原へとたどり着く。
 白金の丸い霊獣がなおも勢いよく走り続ける前方には、岩のような巨石があって、その上に座る大小の背中を目にした途端に涙が溢れ出た。

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