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第14章 正体とその愛を知る

10 自分がやると買って出た

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 今、この場にいない者に。
 いつだって好き勝手に振り回していた不遜なアルファ神族に。
 いつしか心まで捕らわれていた男に。
 どうしてなんだと心の中で問いかけた。

「ハデスがへベを蘇らせる手段に出たと知ったヘラは、お気に入りの家来だったエウリュステウスも蘇らせろと要求してきた。いい加減にしろと、さすがにキレたゼウスによって一度は静かになったんだけど…とにかくヘラクレスが気にくわないというか…」

『ゼウスさまが他で作った子供だものねぇ~、しかも人間のデルタ属に、その夫に化けてだまして三日間もかけて交尾したんだもんねぇ~、面白くないよねぇ~』

 草をむしゃむしゃと食べながら会話に入ってきた羊が、トリトスッと戒められる。
 ペロッと舌を出すとピョーン、ピョーンとまた跳ね始めた。

「す、すまない…そ、それでヘラは…その…へベが自分の子だとわかる前のことだけど…エウリュステウスを殺した罪人であるダフネの妻を仮に復活させても、地上に出すのは認めないなどと難癖を付けて、今まで通りの生活を望むならば…とヘラクレスに不可能な難題を突きつけた」
「だ、だから…か…」

 ヘラクレスと難題という響きに、与えられていた使命がここで繋がった。
 けれども、どうして自分も担うことになったのか。

『期限付きで十二個…あ、ちがうや…実質十個だ…とにかくこなせだなんて、ヘラクレスさんだけじゃムリだったから、不可能な難題なんだよ~』

 懲りずに会話に入りこんできた羊が、トリトス、いい子だからちょっとだけ黙っててねっと戒められて、またしても舌を出しながらピョーン、ピョーンと飛び跳ねて離れていく。

「ご、ごめんね…ちょっとうるさくて…」

 詫びてきたペルセフォネに、いや…と首を振った後に、それで…と話の先を促した。
 無理難題をヘラにふっかけられたことは想像できた。

「だけど、トリトスの言うとおり…一人じゃ、どう考えても無理だったんだ。けど、そこで無理だと言えばヘラを助長させるだけだと…ハデスがその…ちょっとキレて…それで…本人だけで全部やれとは言われてないと、軍団チームヘラクレスでも作って分担すればやれるだろって…受けて立ってしまって…」

(受けて立ってしまって…)

 ペルセフォネの言い方に、売られたケンカを買ってしまったような意味合いに感じるのは気のせいだろうか。
 けれども誇り高き冥府の王が、妹ヘラのわがままに手を焼き、やってやろうじゃないかと奮い立ったことは推測できた。

「それならオレが軍団チームヘラクレスの一員となって援護すると言ったら、それはダメだとなり…言い合っていたら……自分がやるとアポロンが買って出た」
「えっ、ア、アポロンが…?」
「そうだ…ただ、その時にアポロンは条件を付けてきたんだ」
「条件?」
「君の魂が消滅しないか心配でたまらないと、本来ならば片時も大樹を離れたくないと…だから君の半魂も一緒に連れて行きたいと告げてきた」
「!!」
「オレは反対したけれど、へベに対して同様の要望がヘラクレスから出たこともあって、ハデスは両方を認めた」

 そうだったのかと深く感じ入る。
 経緯が手に取るように理解できた。

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