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第13章 黄金の林檎の園ヘスペリデス

5 オレの服は?

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 使命という体裁で隠していた、本当の目的が明らかになった時、自分たちに訪れるのは別れだ。

(オレには番いがいたはずなのだから…)

 夢に現れたあの小柄な存在は今どこで何をしているのか。
 自分はきちんと真相に向き合わなくてはならない。

「ディケ?」

 名を呼ばれて顔を上げて微笑んだ。

「最後の使命の…黄金の林檎を取りに行くんだな?」

 そうだと頷いた相手が先に立ち上がり、手を差し伸べてくる。
 その大きな手をしっかりと握りしめながら身を起こした。

「歩きながら話そう」

 ん…と応じると手を引かれ、飛び石の上を跳ねるようにしながら小川を渡って行く。
 そのまま草地へと軽やかに降り立ち、木々の間を進みながら――ふと、おかしいと気がついた。

「ちょっと待ってくれ…えっと…オレの服は?」
「どういう意味だ?」
「いや、まさか…このズルズルとした衣服のままで移動させるつもりなのか」
「そのつもりだが」
「えっ…この格好はないだろ?」
「どうしてだ?」

 どうしてもこうしてもない。
 両肩に黄金の留め具が付けられた白い長衣キトンは、絹の細糸で丁寧に縫合されているのだろう、波のようにうねる美しいドレープがキラキラと光を発している。

(どう考えても…おかしいだろ…)

 よくよく我が身を振り返ると、幅のある長い腰帯といい、首や腕の宝飾品といい、履かされている柔らかな革靴サンダリオンといい、明らかに雌性の属性を持つガンマかデルタが身に着ける服装だ。
 全く似合っていない。

「オレのいつもの服は?」
「なぜだ? 変える必要などないだろう?」
「いや、ある。おかしい」
「おかしくはない。よく似合っている」
「えっ」

 何をふざけたことを言っているのかと見つめ返すと、こちらを見下ろす顔は至って真面目な表情をしている。
 本気なのだ。
 その美的感覚に言葉を失った。

(いや、ちょっと待ってくれ…)

 どう捉えても納得できない。
 これのどこが似合っているのか。
 しかも、ほとんどが透けているのだ。
 加えて両脇に長く入った切れこみといい、どうして肝心な場所は縫い合わされていないのか。
 下も履いてない。
 無理に決まっている。

「イオン、着替えはどこにある?」
「クィイイッ!?」

 距離を取って、秘かに飛んで付いてきていた魔鳥が唐突に指名されて奇妙な声を上げた。
 身近にいないはずがないのだ。
 すぐに持ってきてくれと頼んだ。
 
「不要だ」
「いや、必要だって。オレ、こんな格好いやだよ」
「問題ない。とても美しい」
「いやいやいや、問題はあるし、美しくもないし、そもそもオレは戦士だし」

 そう流れるように口からついて出た言葉に、今までのどんな時よりも妙にしっくりときた。
 そうだ、自分は戦士だったのだ。

「ディケ?」
「オレは…戦う者としていつだって誇りを持っていた…そうだろ?」

 黙っている相手に目で問いかけた、そうだったはずだと。
 知っているはずだと。

「…イオン、アレイのところから着替えを持ってこい」

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