134 / 153
第13章 黄金の林檎の園ヘスペリデス
4 本当は…誰なんだ
しおりを挟む
「オルフェウス…オレの身体に何があったんだ…?」
「そうだな、まず…術をかけられた身とは、見方を変えれば術者によって保護された状態であるとも言える。その保護された状態に不当な介入がなされた場合、先に征服している支配者を駆逐しに侵入者の術が一斉に襲いかかる。ハデスは乗っ取りを遂げたアウゲイアスから急襲されたわけだが、突き返すことはせずにあえて受けとめた…が、やはり限界があった」
「えっ、な、なぜ…その…冥府の王はアウゲイアスへ…攻撃を突き返さなかったんだ?」
「魔妖気を強大な力で跳ね返すことで、術を施している君が巻きこまれることを危惧した。君が消滅してしまったら…と」
(オレのために…?)
誇り高きアルファ神族の柱たる存在が一介の囚人にすぎない自分のために、卑劣な輩の攻撃を甘んじて受けたというのだろうか。
「そ、それで…冥府の王は無事なのか?」
「問題ない。むしろ一時的にクズから我慢を強いられるという屈辱があった分、アウゲイアスの魂をいたぶることにも熱が入ってる」
(そ、そんな…)
死後の世界で、アウゲイアスがどんな仕打ちをされているのかをわずかに頭に描いただけでも背筋が凍る。
もはや死ねない身がいたぶられる苦痛とはどれほどのものなのか。
だが冥界だけでなくオリュンポスの裏の統治者でもあるハデスが一時とはいえ、雑魚から好き勝手にされたのだ。
さぞかし腸が煮えくりかえったに違いないとその怒りは容易に想像できた。
オルフェウスがフゥ…と嘆息した後に、こちらの出る幕がないくらいだとつまらなそうにつぶやき、続けた。
「君と愛し合うことで霊気をその身に注げたが、生命の維持といった面では一時しのぎにすぎなかった。最終的にはハデスが術を丁寧に補修し復活させることで君はまた目を覚ました。だから日数がかかったんだ」
「そうか…そうだったのか」
事の経過を知って深く感じ入ると同時に疑問が湧いた。
自分には一体なんの術がかけられているのか。
元々は罪を犯し、恩赦を得た囚人が、さらなる恩恵と新しい人生を得るために使命をこなしていたのではないのか。
どう捉えても、ただの逆行者の域を越えている。
何かある。
やはり自分の身には封印された記憶と一緒に何かがあるのだ。
そして――
(オルフェウス…あんたは…本当は…誰なんだ…)
事情通の案内役ではもう片付かない。
冥府の王と対等な視点で接することができる、高位の神族であることはもはや疑いようもない。
監獄の塔を所有し自分を犯した、黄金の髪のアルファ。
仮面の下に正体を隠している男。
恋しくてたまらないと同時に不安がつきまとう相手。
その謎めいた美形が口を開いた。
「我々はそろそろ行かなくてはならない…時間がもうない」
(時間が…もうない…)
静かに告げられた言葉がなぜだか妙に心に染み入った。
そうだ、夢の時間は終わりを告げるのだ。
エウリュディケとしてオルフェウスと共に旅をした愛おしい時間はここで幕を閉じる。
(オレたちは…結ばれない…)
「そうだな、まず…術をかけられた身とは、見方を変えれば術者によって保護された状態であるとも言える。その保護された状態に不当な介入がなされた場合、先に征服している支配者を駆逐しに侵入者の術が一斉に襲いかかる。ハデスは乗っ取りを遂げたアウゲイアスから急襲されたわけだが、突き返すことはせずにあえて受けとめた…が、やはり限界があった」
「えっ、な、なぜ…その…冥府の王はアウゲイアスへ…攻撃を突き返さなかったんだ?」
「魔妖気を強大な力で跳ね返すことで、術を施している君が巻きこまれることを危惧した。君が消滅してしまったら…と」
(オレのために…?)
誇り高きアルファ神族の柱たる存在が一介の囚人にすぎない自分のために、卑劣な輩の攻撃を甘んじて受けたというのだろうか。
「そ、それで…冥府の王は無事なのか?」
「問題ない。むしろ一時的にクズから我慢を強いられるという屈辱があった分、アウゲイアスの魂をいたぶることにも熱が入ってる」
(そ、そんな…)
死後の世界で、アウゲイアスがどんな仕打ちをされているのかをわずかに頭に描いただけでも背筋が凍る。
もはや死ねない身がいたぶられる苦痛とはどれほどのものなのか。
だが冥界だけでなくオリュンポスの裏の統治者でもあるハデスが一時とはいえ、雑魚から好き勝手にされたのだ。
さぞかし腸が煮えくりかえったに違いないとその怒りは容易に想像できた。
オルフェウスがフゥ…と嘆息した後に、こちらの出る幕がないくらいだとつまらなそうにつぶやき、続けた。
「君と愛し合うことで霊気をその身に注げたが、生命の維持といった面では一時しのぎにすぎなかった。最終的にはハデスが術を丁寧に補修し復活させることで君はまた目を覚ました。だから日数がかかったんだ」
「そうか…そうだったのか」
事の経過を知って深く感じ入ると同時に疑問が湧いた。
自分には一体なんの術がかけられているのか。
元々は罪を犯し、恩赦を得た囚人が、さらなる恩恵と新しい人生を得るために使命をこなしていたのではないのか。
どう捉えても、ただの逆行者の域を越えている。
何かある。
やはり自分の身には封印された記憶と一緒に何かがあるのだ。
そして――
(オルフェウス…あんたは…本当は…誰なんだ…)
事情通の案内役ではもう片付かない。
冥府の王と対等な視点で接することができる、高位の神族であることはもはや疑いようもない。
監獄の塔を所有し自分を犯した、黄金の髪のアルファ。
仮面の下に正体を隠している男。
恋しくてたまらないと同時に不安がつきまとう相手。
その謎めいた美形が口を開いた。
「我々はそろそろ行かなくてはならない…時間がもうない」
(時間が…もうない…)
静かに告げられた言葉がなぜだか妙に心に染み入った。
そうだ、夢の時間は終わりを告げるのだ。
エウリュディケとしてオルフェウスと共に旅をした愛おしい時間はここで幕を閉じる。
(オレたちは…結ばれない…)
11
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説
その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました
海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。
しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。
偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。
御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。
これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。
【7/27完結しました。読んでいただいてありがとうございました。】
【続編も8/17完結しました。】
「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785
↑この続編は、R18の過激描写がありますので、苦手な方はご注意ください。
【完結】売れ残りのΩですが隠していた××をαの上司に見られてから妙に優しくされててつらい。
天城
BL
ディランは売れ残りのΩだ。貴族のΩは十代には嫁入り先が決まるが、儚さの欠片もない逞しい身体のせいか完全に婚期を逃していた。
しかもディランの身体には秘密がある。陥没乳首なのである。恥ずかしくて大浴場にもいけないディランは、結婚は諦めていた。
しかしαの上司である騎士団長のエリオットに事故で陥没乳首を見られてから、彼はとても優しく接してくれる。始めは気まずかったものの、穏やかで壮年の色気たっぷりのエリオットの声を聞いていると、落ち着かないようなむずがゆいような、不思議な感じがするのだった。
【攻】騎士団長のα・巨体でマッチョの美形(黒髪黒目の40代)×【受】売れ残りΩ副団長・細マッチョ(陥没乳首の30代・銀髪紫目・無自覚美形)色事に慣れない陥没乳首Ωを、あの手この手で囲い込み、執拗な乳首フェラで籠絡させる独占欲つよつよαによる捕獲作戦。全3話+番外2話
幸せの温度
本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。
まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。
俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。
陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。
俺にあんまり触らないで。
俺の気持ちに気付かないで。
……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。
俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。
家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。
そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?
もう一度、恋になる
かびなん
BL
松葉朝陽はプロポーズを受けた翌日、事故による記憶障害で朝陽のことだけを忘れてしまった十年来の恋人の天生隼士と対面。途方もない現実に衝撃を受けるも、これを機に関係を清算するのが将来を有望視されている隼士のためだと悟り、友人関係に戻ることを決める。
ただ、重度の偏食である隼士は、朝陽の料理しか受け付けない。そのことで隼士から頭を下げられた朝陽がこれまでどおり食事を作っていると、事故当時につけていた結婚指輪から自分に恋人がいたことに気づいた隼士に、恋人を探す協力をして欲しいと頼まれてしまう……。
甘い香りは運命の恋~薄幸の天使Ωは孤高のホストαに溺愛される~
氷魚(ひお)
BL
電子書籍化のため、2024年4月30日に、一部を残して公開終了となります。
ご了承ください<(_ _)>
電子書籍の方では、暴力表現を控えめにしているので、今よりは安心して読んで頂けると思います^^
※イジメや暴力的な表現、エロ描写がありますので、苦手な方はご注意ください
※ハピエンです!
※視点が交互に変わるため、タイトルに名前を記載しています
<あらすじ>
白亜(はくあ)が10歳の時に、ママは天国へ行ってしまった。
独りぼっちになり、食堂を営む伯父の家に引き取られるが、従姉妹と伯母にバカと蔑まれて、虐められる。
天使のように純粋な心を持つ白亜は、助けを求めることもできず、耐えるだけの日々を送っていた。
心の支えは、ママからもらった、ぬいぐるみのモモだけ。
学校にも行かせてもらえず、食堂の手伝いをしながら、二十歳になった。
一方、嶺二(れいじ)は、ナンバーワンホストとして働いている。
28歳と若くはないが、誰にも媚びず、群れるのが嫌いな嶺二は、「孤高のアルファ」と呼ばれ人気を博していた。
家族も恋人もおらず、この先も一人で生きていくつもりだった。
ある日、嶺二は、不良に絡まれた白亜を見かける。
普段なら放っておくはずが、何故か気にかかり、助けてしまった。
偶然か必然か。
白亜がその場で、発情(ヒート)してしまった。
むせかえるような、甘い香りが嶺二を包む。
煽られた嶺二は本能に抗えず、白亜を抱いてしまう。
――コイツは、俺のモノだ。
嶺二は白亜に溺れながら、甘く香るうなじに噛みついた…!
できそこないの幸せ
さくら/黒桜
BL
溺愛・腹黒ヤンデレ×病弱な俺様わんこ 主人公総愛され
***
現役高校生でありながらロックバンド「WINGS」として地道に音楽活動を続けている、今西光と相羽勝行。
父親の虐待から助けてくれた親友・勝行の義弟として生きることを選んだ光は、生まれつき心臓に病を抱えて闘病中。大学受験を控えながらも、光を過保護に構う勝行の優しさに甘えてばかりの日々。
ある日四つ葉のクローバー伝説を聞いた光は、勝行にプレゼントしたくて自分も探し始める。だがそう簡単には見つからず、病弱な身体は悲鳴をあげてしまう。
音楽活動の相棒として、義兄弟として、互いの手を取り生涯寄り添うことを選んだ二人の純愛青春物語。
★★★ WINGSシリーズ本編第2部 ★★★
高校3年生の物語を収録しています。
▶本編Ⅰ 背徳の堕天使 全2巻
(kindle電子書籍)の続編になります。読めない方向けににあらすじをつけています。
冒頭の人物紹介&あらすじページには内容のネタバレも含まれますのでご注意ください。
※前作「両翼少年協奏曲」とは同じ時系列の話です
視点や展開が多少異なります。単品でも楽しめますが、できれば両方ご覧いただけると嬉しいです
※主人公は被虐待のトラウマを抱えています。軽度な暴力シーンがあります。苦手な方はご注意くだださい。
はじめてを君と
マイユニ
BL
とある理由で度々襲われるようになった見目麗しい海堂理仁。しかし、彼はそれをいつも撃退してきた。
いつものように襲われそうになって撃退したところをある男に見られて笑われる。
その男とは度々会うようになった。
ある日、男から付き合ってほしいと言われる。断ると本当に付き合うのではなくフリをしてほしいと言う。尚も断ると試験で勝負をしようと持ちかけられる。学年1位をキープし続けている男は負けることはないと高を括り勝負を受けて立つことに。
惜しくも勝負に破れた理仁は彼、須藤拓海と付き合うフリをする事に……。
オメガバース設定。薬の開発が進んでいて発情を抑制できている世界です。
*マークは背後注意シーンあります
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる