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第1章 記憶を奪われた囚人エウリュディケ
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バタバタ、バタバタと中から子供ほどの大きさの存在が走り寄ってきた。
一体は肩から上が鳥の頭をしている。
首には赤い貞操帯を巻いて、下腹部には同色の腰衣を身に着けていて。
もう一体は猿の頭だ。
こちらは青の貞操帯に腰衣を纏っている。
「もぅ早いよぉ早いよぉ、いきなり本番だよぉ、いきなり本番だよぉ」
「あっ、ちょっと待ってっ、ちょっとそこで止まって下さいっ」
きつい口調で咎められて反射的に足を止めた。
すぐさまキョロキョロと周囲に視線を注ぐ。
左右両端と奥の三方向は二階三階四階と上に高く続いており、びっしりと本で埋め尽くされている。
おそらくは最上段の本を取るためだろう、長い梯子までかかっていた。
「えっと、いいですか、ぼくたちはアイアコスさま、ラダマンテュスさま、ミーノースさまと同じ権限を持ちます」
「あなたにはぼくたちが審判を下しますので、神妙に聞いて下さい」
名だたる冥府の審判官と同じ権限を持つと聞かされて、意外だなと視線を戻すと鳥顔と猿顔が顔を見合わせて強く頷いた。
二体揃って奥の豪華な机へと引き返していく。
「ま、まずはこれを読んで…」
「そ、そうだね、そして、その後にこの段取りで…」
「でもさ、椅子に座ってだと、ぼくたち姿が見えなくなっちゃうから机の上に乗ってもいいよね?」
「えっ、そんなことをしたら後から怒られないかな」
「でも通達の時に見えないのも困るでしょ」
「そうだけど…椅子に土足は…」
「じゃあ、机に乗る?」
「いや、それも…」
ああでもないこうでもないと、話し合いを続けている二者はどう見ても不得手だ。
全く慣れていない。
本当に同じ権限を持っているのか不安に思いつつ、やたらとこだわって決まらない順序を手持ち無沙汰に待つ時間だけが続く。
なんとはなしに横を向くと壁に埋めこまれた鏡がふと目に入った。
そこに立っている男の姿を見て、
(あれは…オレ…か…?)
と首を傾げた。
身に着けてる服装、筋肉の付き方や手足の長さは実際に目で捉えている感じともちろん違いはない。
目鼻立ちはしっかりしている方かもしれない。
髪は思っていたよりも長くて肩に届くほどだ。
後ろで緩く束ねてあり、ぼんやりとした灰色で瞳も同じ色をしている。
(そうか…これがオレなのか…)
鏡に近づいてしみじみと見つめてみた。
不思議そうにしている顔の、向きを左に右に変えるとその度に鏡の中の人物も応じて、間違いなく自分だと確信する。
けれども姿を目の当たりにしたというのに、やはり何も思い出せない。
(本当にこれが…オレなのか…)
手を持ち上げて鏡へと向けてみた。
すると鏡面の中の姿もまた手を上げ、そして向かい合う両手が触れ合ったその時――ユラユラと表面が突然揺れた。
(あっ…)
重なり合った手の向こう側に、緑豊かな大木に背をもたれて立っている誰かが浮かび上がった。
あれは誰だと思い、ギクリと身を強張らせた。
背後は書架のはずだ。
そんな光景はありえない。
振り返る、もちろん後ろには誰もいない。本棚だ。また前を見る。
「あーーっ!! 裁きの鏡に触ってるぅーー!!」
けたたましく叫ぶ声が聞こえた瞬間に、ぐにゃりと。
手を置いていた箇所が溶けた金属のようにいきなり歪んだ。
一体は肩から上が鳥の頭をしている。
首には赤い貞操帯を巻いて、下腹部には同色の腰衣を身に着けていて。
もう一体は猿の頭だ。
こちらは青の貞操帯に腰衣を纏っている。
「もぅ早いよぉ早いよぉ、いきなり本番だよぉ、いきなり本番だよぉ」
「あっ、ちょっと待ってっ、ちょっとそこで止まって下さいっ」
きつい口調で咎められて反射的に足を止めた。
すぐさまキョロキョロと周囲に視線を注ぐ。
左右両端と奥の三方向は二階三階四階と上に高く続いており、びっしりと本で埋め尽くされている。
おそらくは最上段の本を取るためだろう、長い梯子までかかっていた。
「えっと、いいですか、ぼくたちはアイアコスさま、ラダマンテュスさま、ミーノースさまと同じ権限を持ちます」
「あなたにはぼくたちが審判を下しますので、神妙に聞いて下さい」
名だたる冥府の審判官と同じ権限を持つと聞かされて、意外だなと視線を戻すと鳥顔と猿顔が顔を見合わせて強く頷いた。
二体揃って奥の豪華な机へと引き返していく。
「ま、まずはこれを読んで…」
「そ、そうだね、そして、その後にこの段取りで…」
「でもさ、椅子に座ってだと、ぼくたち姿が見えなくなっちゃうから机の上に乗ってもいいよね?」
「えっ、そんなことをしたら後から怒られないかな」
「でも通達の時に見えないのも困るでしょ」
「そうだけど…椅子に土足は…」
「じゃあ、机に乗る?」
「いや、それも…」
ああでもないこうでもないと、話し合いを続けている二者はどう見ても不得手だ。
全く慣れていない。
本当に同じ権限を持っているのか不安に思いつつ、やたらとこだわって決まらない順序を手持ち無沙汰に待つ時間だけが続く。
なんとはなしに横を向くと壁に埋めこまれた鏡がふと目に入った。
そこに立っている男の姿を見て、
(あれは…オレ…か…?)
と首を傾げた。
身に着けてる服装、筋肉の付き方や手足の長さは実際に目で捉えている感じともちろん違いはない。
目鼻立ちはしっかりしている方かもしれない。
髪は思っていたよりも長くて肩に届くほどだ。
後ろで緩く束ねてあり、ぼんやりとした灰色で瞳も同じ色をしている。
(そうか…これがオレなのか…)
鏡に近づいてしみじみと見つめてみた。
不思議そうにしている顔の、向きを左に右に変えるとその度に鏡の中の人物も応じて、間違いなく自分だと確信する。
けれども姿を目の当たりにしたというのに、やはり何も思い出せない。
(本当にこれが…オレなのか…)
手を持ち上げて鏡へと向けてみた。
すると鏡面の中の姿もまた手を上げ、そして向かい合う両手が触れ合ったその時――ユラユラと表面が突然揺れた。
(あっ…)
重なり合った手の向こう側に、緑豊かな大木に背をもたれて立っている誰かが浮かび上がった。
あれは誰だと思い、ギクリと身を強張らせた。
背後は書架のはずだ。
そんな光景はありえない。
振り返る、もちろん後ろには誰もいない。本棚だ。また前を見る。
「あーーっ!! 裁きの鏡に触ってるぅーー!!」
けたたましく叫ぶ声が聞こえた瞬間に、ぐにゃりと。
手を置いていた箇所が溶けた金属のようにいきなり歪んだ。
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