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53 ハイ&ロー
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簡易詰所に見取り図が無かった。
呆れる事に占拠された砦から、何一つとして持ち出せなかったのだと。
「先輩に聞いても『絶対にムリィ!』って泣きくずれるし……俺も無理だ!」
「胸を張って答えるなよ……」
ただの無駄足だった。
先輩の本質乙女を知って辛かったって?
そんなん聞かされた俺が辛い。
本格的にどうでもいい情報だよ。
下手すりゃマイナスにぶっちぎる程に。
「じゃあ、口頭でいいから造りを教えてくれよ……どっから手をつけていいもんだかサッパリだ」
「どこの城壁も同じなんだが……まぁここは街をグルって囲ってないだけで、造りはほぼ同じだが。本当に入った事無いのか?」
街を囲むタイプのやつじゃなくて、万里の長城タイプのやつ。
あれよりは短いらしいが、ズバンと受け止める気概を感じる建造物だ。
ちなみに御偉いさん方の住む区画は丸っと城壁で囲まれてるらしい。
行った事ないから知らんかったよ…
てか、余りに意識しなさ過ぎて目に入らなかったわ。
まぁ、そこはかとなく元の世界の香りを感じる建築であるから……見たら震え上がるよ。
歴代の異世界人はどれほど酷使されたのやら……
クワバラクワバラ……
おっと、会話中だったな。
「……俺の記憶にはないな」
「噂には聞いてるが、記憶がとびとびなのも面倒だな」
「全くだよ……全然関係ない事をポカっと思い出すんだぞ?」
「お、おぅ……俺の姉貴が言ってたが、産後の妹に『存在自体気に入らない』って言われたのを急に思い出したんだろ?」
「あれか……世間が狭すぎる……」
道端でバッタリ絡まれた女性の身内だったらしい。
それで俺が特定される世間の狭さが怖すぎる。
いや、きっと革新的なおくるみのせいだな。
「そうだな。まぁリックの家やら何やらで、結構有名人にはなってるぞ?」
「あぁ……それもあったか。あんまり嬉しくない名声だな……」
「まぁ、ここいらで受け入れられてるって事で悪くはないと思うぞ?」
「ならいい……のか?」
「おう。娯楽を提供するって意味でな」
「……はぁ」
「そこら辺は諦めとけよ。変なのに絡まれても、手を貸してやるって奴等の方が増えて、得したなってな?」
「ありがたいんだが……素直に喜べねぇよ……」
「ははは。おっと、造りの話だったな?簡単には……」
気を取り直しての簡単説明。
造り自体は、中世ヨーロッパとかによくあるだろう城門だと思う。
いや、長城の方かもしれんがわからん。
城とかそんなに詳しくないが、多分そんな感じだろうと想像してたままだな。
入口の上に扉の開閉装置があって、何か有った際にはズドンと落とされるタイプのやつだ。
更にその上に人が待機出来る場所やら、武器を置いておく場所やらがある。
扉を挟んで両脇に塔がくっついてあるのは、見張りの待機や武器保管やらに使う。
等間隔に似たような塔があり、同じ様に機能するはずだったとか。
それらが一律機能停止中とは……駄目じゃないか……
今は城門の内側に簡易の関所的な物が作られているが。
魔物が集団で突入してきたら、ペショっとされて通り抜け自由になるだろうな。
駄目じゃないか……
ズドンと重い蓋って大事なんだぞ?
「せめて開閉装置までは行けなかったのか?」
「纏わり付かれてみろよ……そんな気が無くなるさ……」
南無阿弥アーメン……
一兵士の遠い目に浮かぶ哀愁……
きっと本質乙女先輩もプラスされているのだろうな。
「しっかし……誰も対処しなかったのか?殺虫霧位すぐだろ?」
「いや、やったぞ?やってもやっても切がねぇんだよ……」
「は?」
「死骸すら残って無かったんだよ……」
「ん?どういう事だ?」
「いや、殺虫霧使ってから中に入ろうとしたんだが、チリやら埃やらが増えててな?」
「……」
「それかき出して中に行ったがすぐ奴らが……ゾクッとしたわ……」
ついでに思い出したのか腕をさする様子に、俺も堪らず腕をさする。
「それ……不味いんじゃないのか?効いて無いって事じゃないのか?」
「……かもしれんが……」
おいおいおいおい。
俺も完全にバル◯ン頼みなんだぞ?!
それが効かないとか無茶苦茶過ぎるだろ?!
スーパーなヤツになってんじゃねぇか?!
まさか夜になったら大猿になるとかないだろうな?!
いや、こっちの世界じゃ『ハイ』か?
『ハイ・オーク』とか『ハイ・リッチ』とか?
『ハイ・イエナイ』……
『はい』と肯定しておきながらの『言えない』との、まさかな否定形。
いやいやいやいや。
そんなんじゃない。
そんな感じじゃないんだ。
しっかりしろ、俺。
てか、今セットしてる殺虫霧が無駄になってるって事じゃないか……
「かもしれんがって、他の可能性もあんのか?」
「いや、まぁ、食った可能性も……」
そんなアホな……
「一瞬で食い尽くすとか……そんな獰猛なワケないだろ……?」
それはそれで怖すぎる。
ホラーじゃねぇか。
そんなん出たら生きたまま食われるんじゃね?
依頼キャンセルするしかねぇだろ。
「いや、その……殺虫霧をやってからな?時間を随分空けてたもんだから……な?」
「……どんだけ空けてたんだよ」
「7日程……」
「……」
そりゃ食い尽くす。
綺麗サッパリに食い尽くす。
「……殺虫霧、意味ねぇーだろ」
何かシラけたぞ?
俺の心はローにギアチェンだ。
ローなテンションだ。
「いやな?覚悟がな?心の準備がな?」
「殺虫霧の時点で覚悟しとけよ……餌与えてより活性化させてどーすんだよ」
マジでふざけんなよ?
「……すまん」
「はぁ……そう思うならせめて物資はそっち持ちにして貰いたい所だな」
「あぁ。それはちゃんと出す。出すから、頼む!」
渾身の頼むだな……
片膝ついての祈りの姿勢って……
「わかったから辞めろっての……ゾワッとする」
これがきっと異世界での拝み倒す正しい姿勢なんだろうな……
いや、土下座されても困るがな?
呆れる事に占拠された砦から、何一つとして持ち出せなかったのだと。
「先輩に聞いても『絶対にムリィ!』って泣きくずれるし……俺も無理だ!」
「胸を張って答えるなよ……」
ただの無駄足だった。
先輩の本質乙女を知って辛かったって?
そんなん聞かされた俺が辛い。
本格的にどうでもいい情報だよ。
下手すりゃマイナスにぶっちぎる程に。
「じゃあ、口頭でいいから造りを教えてくれよ……どっから手をつけていいもんだかサッパリだ」
「どこの城壁も同じなんだが……まぁここは街をグルって囲ってないだけで、造りはほぼ同じだが。本当に入った事無いのか?」
街を囲むタイプのやつじゃなくて、万里の長城タイプのやつ。
あれよりは短いらしいが、ズバンと受け止める気概を感じる建造物だ。
ちなみに御偉いさん方の住む区画は丸っと城壁で囲まれてるらしい。
行った事ないから知らんかったよ…
てか、余りに意識しなさ過ぎて目に入らなかったわ。
まぁ、そこはかとなく元の世界の香りを感じる建築であるから……見たら震え上がるよ。
歴代の異世界人はどれほど酷使されたのやら……
クワバラクワバラ……
おっと、会話中だったな。
「……俺の記憶にはないな」
「噂には聞いてるが、記憶がとびとびなのも面倒だな」
「全くだよ……全然関係ない事をポカっと思い出すんだぞ?」
「お、おぅ……俺の姉貴が言ってたが、産後の妹に『存在自体気に入らない』って言われたのを急に思い出したんだろ?」
「あれか……世間が狭すぎる……」
道端でバッタリ絡まれた女性の身内だったらしい。
それで俺が特定される世間の狭さが怖すぎる。
いや、きっと革新的なおくるみのせいだな。
「そうだな。まぁリックの家やら何やらで、結構有名人にはなってるぞ?」
「あぁ……それもあったか。あんまり嬉しくない名声だな……」
「まぁ、ここいらで受け入れられてるって事で悪くはないと思うぞ?」
「ならいい……のか?」
「おう。娯楽を提供するって意味でな」
「……はぁ」
「そこら辺は諦めとけよ。変なのに絡まれても、手を貸してやるって奴等の方が増えて、得したなってな?」
「ありがたいんだが……素直に喜べねぇよ……」
「ははは。おっと、造りの話だったな?簡単には……」
気を取り直しての簡単説明。
造り自体は、中世ヨーロッパとかによくあるだろう城門だと思う。
いや、長城の方かもしれんがわからん。
城とかそんなに詳しくないが、多分そんな感じだろうと想像してたままだな。
入口の上に扉の開閉装置があって、何か有った際にはズドンと落とされるタイプのやつだ。
更にその上に人が待機出来る場所やら、武器を置いておく場所やらがある。
扉を挟んで両脇に塔がくっついてあるのは、見張りの待機や武器保管やらに使う。
等間隔に似たような塔があり、同じ様に機能するはずだったとか。
それらが一律機能停止中とは……駄目じゃないか……
今は城門の内側に簡易の関所的な物が作られているが。
魔物が集団で突入してきたら、ペショっとされて通り抜け自由になるだろうな。
駄目じゃないか……
ズドンと重い蓋って大事なんだぞ?
「せめて開閉装置までは行けなかったのか?」
「纏わり付かれてみろよ……そんな気が無くなるさ……」
南無阿弥アーメン……
一兵士の遠い目に浮かぶ哀愁……
きっと本質乙女先輩もプラスされているのだろうな。
「しっかし……誰も対処しなかったのか?殺虫霧位すぐだろ?」
「いや、やったぞ?やってもやっても切がねぇんだよ……」
「は?」
「死骸すら残って無かったんだよ……」
「ん?どういう事だ?」
「いや、殺虫霧使ってから中に入ろうとしたんだが、チリやら埃やらが増えててな?」
「……」
「それかき出して中に行ったがすぐ奴らが……ゾクッとしたわ……」
ついでに思い出したのか腕をさする様子に、俺も堪らず腕をさする。
「それ……不味いんじゃないのか?効いて無いって事じゃないのか?」
「……かもしれんが……」
おいおいおいおい。
俺も完全にバル◯ン頼みなんだぞ?!
それが効かないとか無茶苦茶過ぎるだろ?!
スーパーなヤツになってんじゃねぇか?!
まさか夜になったら大猿になるとかないだろうな?!
いや、こっちの世界じゃ『ハイ』か?
『ハイ・オーク』とか『ハイ・リッチ』とか?
『ハイ・イエナイ』……
『はい』と肯定しておきながらの『言えない』との、まさかな否定形。
いやいやいやいや。
そんなんじゃない。
そんな感じじゃないんだ。
しっかりしろ、俺。
てか、今セットしてる殺虫霧が無駄になってるって事じゃないか……
「かもしれんがって、他の可能性もあんのか?」
「いや、まぁ、食った可能性も……」
そんなアホな……
「一瞬で食い尽くすとか……そんな獰猛なワケないだろ……?」
それはそれで怖すぎる。
ホラーじゃねぇか。
そんなん出たら生きたまま食われるんじゃね?
依頼キャンセルするしかねぇだろ。
「いや、その……殺虫霧をやってからな?時間を随分空けてたもんだから……な?」
「……どんだけ空けてたんだよ」
「7日程……」
「……」
そりゃ食い尽くす。
綺麗サッパリに食い尽くす。
「……殺虫霧、意味ねぇーだろ」
何かシラけたぞ?
俺の心はローにギアチェンだ。
ローなテンションだ。
「いやな?覚悟がな?心の準備がな?」
「殺虫霧の時点で覚悟しとけよ……餌与えてより活性化させてどーすんだよ」
マジでふざけんなよ?
「……すまん」
「はぁ……そう思うならせめて物資はそっち持ちにして貰いたい所だな」
「あぁ。それはちゃんと出す。出すから、頼む!」
渾身の頼むだな……
片膝ついての祈りの姿勢って……
「わかったから辞めろっての……ゾワッとする」
これがきっと異世界での拝み倒す正しい姿勢なんだろうな……
いや、土下座されても困るがな?
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