騙されて異世界へ

だんご

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44 赤い花①

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 リックとタバサに、月追い草の花粉が渦巻く『死の揺り籠』の場所を説明をしながら案内する。

 「森に入る手前に出るのは珍しいね……」

 「そうなのか?」

 「そうさ。大抵森の中でポカッと開けた場所にできるんだよ。しっかし『死の揺り籠』かい?ピッタリな名前をつけたじゃないか」

 「だな。いきなり踏み込んで帰れなくなった奴等も結構多いんだ眠ったまま逝っちまうからな」

 「リック達は大丈夫なのか?」

 「あたし等は、状態異常無効のポーションがあるから平気さ!逆にソブルの方が心配だよ」

 「俺は、よくわからんが状態異常に強いらしいからな。あまり近付かなきゃ大丈夫そうだぞ?」

 「ならいいが……キナコも連れて来たなら、無理しちゃダメだよ?一応、ポーションの予備はあるけど、バカ高いからね……」

 「勿論だ。金は無いから、無理はしない」

 多分、無茶しない為のキナコだ。
 家かギルドにキナコを置いて行こうと思っていたが、絶対付いて行くと爪を立てて踏ん張ったキナコ。
 俺のデコと頭皮がズタズタになりそうなので渋々連れて来たのだ。


 前回と同様の場所に月追い草の花が揺れる。
 黄色く丸い月を、まるで包み込まん勢いでガクが覆っている、月追い草。
 月の様な花を誰もが手に入れたくても、眠りを越えてまで手にするのは難しい。
 崖の上の月を追うがごとく。
 月追い草の名前の由来らしい。
 怖いがな。 
 もっと可愛いらしい、爽やかな由来はないもんか?
 恐怖しかないわ。
 さて。
 ここは『死の揺り籠』手前の場所だな。
 ただ……おかしいな。

 「昨日より花が増えてるな……」

 花の数が増えている。
 株数が明らかに増えてる。
 しかも、花を刈り取ったはずが、再度咲いている。
 いくら異世界ファンタジーとは言え……
 ちょっと異常じゃないのか?

 『※その認識でOKです』

 マジか。
 異常事態発生だ。

 「ソブル。昨日よりも増えてるってホントかい?」

 「あぁ。花を刈り取って移動したんだよ。まさか1日でどうこうするなんて思わないだろ?」

 「確かにね……引っこ抜かなかったのが失敗だったが……普通、1日でこんなにならないからね」

 「ちょっと嫌な予感がするな……タバサ、ソブル。警戒しながらだ」

 「了解。危ないから、花取っちまうぞ?」

 「任せた。こっちも周辺警戒しとくよ」

 昨日の袋を再利用だな。
 っと、その前に口を覆う為、手拭をマスク代わりに顔に巻き付けしばる。
 気休めだけどな。
 無いよりもマシって事だ。
 色々無効になってはくれるが、万全じゃないからな。
 さて。行動開始だ。
 花を刈ったら、本体を引っこ抜き回収。
 見えてる花の分、繰り返す。
 花粉が散らない様にソッと行動する。 
 激しく動いて、無駄に危険を作る事はしない。
 ソッとだ。ソッと。
 キナコは、抱っこ紐の中でジッとしている。
 眠ってはいない様子。
 注意した事を守れるなんて、うちの子賢い。
 目につく最後の花を刈り取り始末をつける。
 
 「こっちは終わったぞ!」

 「「了解!」」

 自然とリックに集合。
 一応リックがリーダーだからな。
 色々残念な所の多いリックだが、冒険者としては立派な人間らしいからな。

 「昨日は、あちら側にまっすぐに進んで、そうだな……ギルドから広場まで位の感覚だな。【マッピング】もしてるから確実だ」

 「なるほど。わかりやすい例えで助かる」

 「何分とか言われても、歩く速さが違う場合ズレちまうからね……普段一緒の行動してないと余計にね」

 「あぁ。今回の遠征で苦労したよ……」

 セーフ……
 何分位って言おうか迷ったんだよ。
 けど、時間の表現が怪しいからな。
 やめたんだ。
 時間の表現1つでバレるからな。
 てか、遠征の連携、あんまり良くなかったみたいだな。
 足並みがバラバラなんて……
 やる気がねぇ奴等でも混ざってんじゃないか?

 「大変だったみたいだな……」 

 「あぁ……イイ所の坊っちゃん連中がな……」

 「理解した……」

 「ああ。助かる」

 貴族の坊っちゃん連中の接待遠征か。
 お疲れ様だな。
 きっと無駄に色々やりたがったか……
 しかも温度差ありの連中。
 付き合いで来た坊っちゃんもいたんだろうな……
 だからギルドの連中がゴッソリいなかったのか。
 うわぁ……
 マジでお疲れ様だな。
 これってまさか、大規模討伐にも坊っちゃん連中来るのか?
 危な過ぎてヤベェな。

 「まさかだが、坊っちゃん連中は討伐にも参加するのか?」

 「丁重に断ったらしいぞ?」

 「そうそう。ギルマスがお偉いさんに頼んで、鉄拳制裁入れて貰ったらしいからね」

 「お、おう……まあ、安心だな?」

 「まぁな……」

 気になるワードがポロポロだ。
 丁重に?
 ギルマス?
 ギルマスはお偉いさんに伝手あんの?
 鉄拳制裁?
 聞きたいが、聞かない方がいいんだろうな。

 「さて。これから『死の揺り籠』に向かうが、俺とタバサは花粉を目視した時点でポーションを飲む。ソブルはどうする?」

 「状況を見て待機する。が、濃厚な花粉の層に入らなければ少しは動ける。花の除去は出来るはずだ」

 「なら、外敵に注意しながら外側の花から頼む。俺等はワイルドベアにトドメを刺して回収してから、そちらの作業に取り掛かるからな」

 「了解だ」

 俺は外周から攻める担当。
 花粉が渦巻いている中に突入するのは危険だからな。
 ただし、外敵がいた場合に備えなければならない。
 花粉の層の薄い場所なんかに逃げ込む予定ではあるが…… 
 時と場合に寄りけりだな。

 半分を来た辺りで月追い草を発見した。
 【マッピング】を慌てて確認するが、やっぱり半分位の距離。

 「ソブル……確認だが」

 「ああ。まだ半分だ。【マッピング】でもそうなってる」

 「……リック」
 
 「気を引き締めるぞ。異常事態だ。場合によっては途中で撤退する」

 「「了解」」

 「嫌な予感しかしないねぇ……」

 まったくだ。
 バラバラに点在している花を除去しながら進む。
 【鑑定】を使いながら進んでいるが、明るい場所にしかない様子。
 木の切れ目から差し込む日光が、当たり易い場所ってヤツは変わっていないようだ。
 2人が警戒し、俺が除去を繰り返し『死の揺り籠』に向かうと、そこには驚きの光景が広がっていた。

 「これはマズいぞ……」

 広場になった場所に漂う濃厚な花粉。
 所狭しと生い茂る月追い草。
 ワイルドベアの上に咲く、1輪の赤い月追い草……

 「変異種……いや、変異株だ……」

 「ワイルドベアを取り込んじまったみたいだね……」

 変異種……そんなもんもいるのかよ。
 あっ、異世界人を取り込むと魔物はそうなるんどったな。
 えっ?
 月追い草って魔物なのか?
 なんだ、違うのか。

 『※その認識でOKです』

 まさか、この変異種は、俺何かしちゃった系?!
 違うのか?

 『※その認識でOKです』

 違うらしい……
 良かった。

 「予定変更だな。変異種以外を速やかに除去してから対応もしくは撤退するぞ」

 「「了解」」

 「ソブル、予備の袋あるかい?」

 「そろそろキツくなってきてるな」

 「ギルドから出てるから、これも使いな」

 「助かる」

 タバサから袋を数枚受け取る。
 袋には狼の横顔の焼印がしてあるな。
 多分、ギルドのマークだ。
 レンタル物品のアピールだな。

 「タバサ……俺は変異種初めてなんだが、何か違うのか?」

 「まあ、滅多にないからね。今回は変異株だから簡単っちゃ簡単だ。襲いかかってくる事はないからね」

 「そっか。少し安心したよ」

 「ただね、魔物を引き寄せる力が追加されてんだよ。そこが厄介だね」

 「ん?なら、先に回収してしまったらいいんじゃないか?」

 何も魔物が寄ってくる危険を放置しなくても、サッサと回収してしまえば楽じゃないのか?

 「断末魔って事なんだろうけどさ、刈り取られる時にブワッと呼び寄せるんだよ」

 「なっ……なら『死の揺り籠』があった方が楽なんじゃ?」

 「いや。狂化した魔物が押し寄せるからね……昏睡にはならない。更に、暴走して他の場所に花を運んじまうんだよ」

 「怖っ」

 「んで、第2第3の『死の揺り籠』が出来るのさ。失敗さえしなければ、魔物の呼び込みは無いから安心しな」

 「なんとも言えんが……安心しとくよ」

 「あははは、とにかく他は普通に回収だよ。そっち側は頼んだよ?」

 「了解」

 タバサから、安心出来そうで出来ない話を聞いても、やる事は変わらない。
 俺は外周から回収祭りだ。

 
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