騙されて異世界へ

だんご

文字の大きさ
上 下
41 / 65

41 ミッション〜胃袋を掴め③

しおりを挟む
 胃袋を掴め作戦改め、無事に帰還おめでとう会&宜しくね会は、調度よく昼食の時間だった。
 リックとタバサは、勢いよく食べ始めてからは、会話は一切ない。
 時折『旨い!』の独り言しか聞こえて来ない。
 いや、旨いならいいんだが……
 要研究のスープすら、旨かったらしい。
 まぁ俺も普通に食えたからな。
 一応カトラリー使って食ってる所を見れば、理性は残ってるなぁとは思うが。
 遠征中は、よっぽど酷い食事事情だった事が想像出来る。

 「食い物は逃げねぇから、ゆっくり食えよ?」
 
 「母ちゃん……」

 「うっせぇぞ!リックには、もう作んねぇぞ?! 」

 「申し訳ございませんでした‼」

 「お、おぅ……勢いが怖ぇよ」

 そろそろ空になる皿も出始めた頃、ようやく会話が出来る様になってきた。

 「しっかし、ソブルの飯、凄いな!」
 
 「ああ。あたしも夢中になったよ。なんか特別な物、使ってんのかい?」

 「特別なもんはねぇな……ハーブだって、ほれ。庭にあったヤツだぞ?」
 
 「ソブルが残してた、あの草か?」

 「あの草な。食い方によっちゃ旨いんだよ」

 「へぇ~……」

 「雑草だと思ってたもんだって、手を加えりゃご馳走になるってこった。まぁ、食材をたんまり仕入れて、ふんだんに使ったってのもあるな」

 「だよな。色々な味がして旨かったし!」

 リック、あれだけかき込んで食ってたのに、しっかり味わってたのか。
 俺はそれに驚きだ。

 「ソブル……すまないね。大出費だったんじゃないかい?」

 「今回は気にすんなって。キナコの件もあるしな?それに、無事に帰って来てくれて嬉しいのもあるんだからな?」

 「か……」

 「2度は言わねぇぞ?リック?」

 慌てて口を抑えたリック。
 母ちゃん扱いする子にゃあ、飯抜きだよっ!
 ……モロ母ちゃんだな。 

 「ソブルは料理で稼いだ方が良かったんじゃないかい?」

 「難しいんじゃねぇか?……俺より上手いヤツは沢山いるんだ。まだまだ試してかないとな」

 「そうなのか?かなり旨いし、俺はいけると思ったんだが……」

 「3人分作るのだって、ゆっくり作ってんのに、店屋なんか開いてみろ?俺は死ねるぞ?」

 「そっ、そっか……客が押し寄せてきたらソブル、死にそうだもんな……」

 何故に可哀想なモノを見る目になってるのか?
 なんか、こう……スライム突撃直後の事をさ?
 思い出してなかったか?
 今よ?今。
 なんか胸の痛みを感じたんだけど?

 「うん、まあ、そう言うこった」

 「ソブルは料理、誰に教わったんだい?」

 「ばぁ様かな?後はネットとか、自力だな」

 「ばぁ様の腕が良かったって事だね?」  

 「俺の努力も褒めてくれよ……」

 「「ぶふっ」」

 おうおう。笑え笑え……
 つーか、笑いの沸点低いよな……ったく。
 腹の底から笑えるって事は、幸せだって事だからな。
 いい事だろうさ。
 ……俺も腹から笑ってるのは、キナコに会えたからな。
 幸せだな。

 なんだかんだしながら楽しんだが、リックもタバサもボンヤリして来たな……

 「そろそろ2人共、休んだらどうだ?」

 「……」

 「リック。飯がかかってる事、覚えてるよな?」

 「なっ、何も言ってねぇぞ?」

 「そうだね…あたしも帰らないとね」
 
 「タバサの部屋準備してんだろ?そこで休めばいいだろ?」

 「「あっ?! 」」

 「なんだ2人して……いつから住むとか決めてなかったのかよ……」

 2人共に真っ赤になったな。
 ビル程ではないが、疲れた時だと倒れるんじゃないか?
 血圧大丈夫か?
 若いと平気なのか?
 
 「いや、時期とか、決めて、なくてな……?」

 「その、あの、ちょっと……な?覚悟とかな?」

 「なんだ?一緒の部屋で暮らすつもりだったのか?」

 「「ちがっ?! 」」

 おっ!
 ビル並の瞬間沸騰だ!
 
 「遠征行ってる時と同じ様なもんだろ?近くで休んでんだから」

 「いや、気持ちの問題って言うか……」

 「状況の問題と言うか……」

 「危険な場所でもないだろ?俺はキナコがいるから無害だと言っておこう」

 俺はキナコがいるだけで、他に求める事はない。
 求めるとすれば、キナコの幸せ環境だけだ。
 俺の無償の愛は全て、キナコへと続く。

 「いや、そうじゃなくて……」

 「安全が危険と言うか、なんと言うか……」

 「なるほど。リックがウルフになるって事だな?」

 「「なっっ?! どう言う状態?!」」

 あっ……ヤベェ。
 こっちでの『狼』の使い方と違うのか。
 
 「えっ?ガバッって。ガブッて。素早い攻撃的な?」

 「まっ、まっ、まっ、まっ……」

 リックが『まっ』しか言わなくなったな。
 機械系統か?
 ショート寸前か?
 タバサはショートしてるな。
 
 「まだ早いっっっ‼」

 プラトニックラブに過ぎるぞ?!
 いつならいいのか?!
 今でしょ?!
 ……いや、まだ早い。
 全然、まだ早い。

 「だな。リックには、まだ早い。ちゃんと自分の事、自分で出来る様になってからだな」

 「か……ソブル……?」

 「それまで、部屋は別々だ。そこはケジメつけておいてくれよ?」

 「あぁ……頑張る……」

 「頑張れよ?タバサを守れるイイ男になってからだ」

 「あぁ……頑張る!」

 頑張れ。
 掃除、洗濯、家事、育児。
 リックの腕を上げたら、イイ事尽くめの明日が来る。

 「ってな訳で、リックとタバサはそれぞれの部屋だからな?」

 「あぁ……」

 リック……あんなに熱く語ったのに、残念そうな視線が、全部を台無しにしてるぞ?
 どこのアオハルだよ。 
 タバサはショート中か……

 「タバサ……タバサ?」

 「はっ?! あたし……?」

 「おう、タバサ。今日はでゆっくり休んでくれ。引き出しに寝衣入れてあっただろ?」

 「あぁ!あぁ、わかった」

 「声、裏返ってるぞ?リックにも言ったが、まだ早い。リックの準備が整うまで、まだ早い。だから、ゆっくり休んでくれよ?」

 「そ……そうか……。わかった」

 ホッとした様な、残念な様な複雑な顔だな。
 まだ早いからな?
 本当にな?
 出来れば、なんとかなる前に引っ越ししたいからな?
 オッサンの取り扱い、結構繊細だって事、忘れんなよ?

 「ほれ、休んでこい」

 「「わかった……」」

 「晩飯は用意しとくか?」

 「「食べる!」」

 「わかったよ。お休み」

 「「お休み!」」

 2人共に笑いながら部屋に向かったな。
 図体のデカい子供かよ……
 って、俺、マジで母ちゃんじゃねぇか?!

 『※その認識でOKです』

 ……晩飯の仕度でも始めるかね……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

カジュアルセックスチェンジ

フロイライン
恋愛
一流企業に勤める吉岡智は、ふとした事からニューハーフとして生きることとなり、順風満帆だった人生が大幅に狂い出す。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

~前世の知識を持つ少女、サーラの料理譚~

あおいろ
ファンタジー
 その少女の名前はサーラ。前世の記憶を持っている。    今から百年近くも昔の事だ。家族の様に親しい使用人達や子供達との、楽しい日々と美味しい料理の思い出だった。  月日は遥か遠く流れて過ぎさり、ー  現代も果てない困難が待ち受けるものの、ー  彼らの思い出の続きは、人知れずに紡がれていく。

俺と合体した魔王の娘が残念すぎる

めらめら
ファンタジー
魔法が使えない中学生、御崎ソーマ。 ソーマはある事件をきっかけに、異世界からやって来た魔王の第3王女ルシオンと合体してしまう。 何かを探すために魔物を狩りまくるルシオンに、振り回されまくるソーマ。 崩壊する日常。 2人に襲いかかる異世界の魔王たち。 どうなるソーマの生活。 どうなるこの世界。 不定期ゆっくり連載。 残酷な描写あり。 微エロ注意。 ご意見、ご感想をいただくとめちゃくちゃ喜びます。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

処理中です...