騙されて異世界へ

だんご

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27 キナコの食べたい物

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 「おぉ……ソブルか。猫被ってももう遅いぞ?」

 「ビル、冗談が薄いぞ?」

 キナコを連れて、適当に薬草を採集してギルドに戻ったんだが。
 ビルの声掛けが微妙だ。
 頭に乗ったキナコ。
 可愛さの塊じゃないか。
 まず褒めろ。
 褒め称えろよ。

 「ん?どうしたんだソイツ」

 「可愛いだろ?一目惚れだ。草むらで伸びててな。キナコってんだ」

 ヒョイッと頭から降ろし、抱っこだ。 
 うへへ……うちのキナコ世界一。

 「だらしねぇ顔しやがって……」

 「可愛いよなぁ……はぁ……俺は今、幸せだぁ……」

 ビルよ。
 何故、そんなにも引き攣った顔なのか?
 ん?後退ってどうした?
 猫アレルギーでもあんのか?

 「なんだビル。猫苦手か?」
 
 「いや、俺は今、お前に引いているだけだ」
 
 「ん?」

 「……いや、いい。ソイツも普通の猫みたいだな。【魅了】されている訳でも無さそうだ……」

 「んなもん【魅了】なんかなくとも、この愛らしい様をみれば……可愛ぇ……」

 【鑑定】したのか。
 キナコは今、普通以上の可愛い猫ってだけだ。
 ビルはドン引きしてる様だが、俺は通常通りだ。
 キナコの奴隷で過ごした数年間。
 なんと幸せだった事か。

 「ん……あっ、ひとまず採集した物を出してくれ」

 「あぁ。今日は少なくてな……」
 
 キナコに目を向けた後、ビルは納得したようだ。
 昨日の半分以下の薬草をやり取りし、銅貨を受け取る。
 大銅貨4枚。
 キナコと会えたから、それで充分だ。

 「ビル。俺、猫好きだったみたいだよ」

 「だろうな。一発でわかったわ。むしろ変態の領域まで行ってるぞ?」

 「あっ、なんか昔、猫変態って呼ばれてた事があった様な……」

 「余計な記憶しか出てこねぇじゃねぇーか!!」

 記憶喪失設定、継続中だ。

 「ただなぁ……居候の身で、猫と暮らしたいって言っていいもんだかどうだか……」

 「リックは大丈夫そうだぞ?なんたって汚屋敷に住んでたからな」
 
 「確かに……タバサがどうかって事だよな……」

 数分悩むおっさんズ。
 タバサが……いや、リックもだけどアレルギー持ちでも困るよな。
 猫苦手って人に、無理やり可愛いと言わせたくないし。
 嫌々言われても、全然嬉しく無いしな。
 出来れば、この尊さを共有したいし。
 うちの子、世界一可愛いって叫び合いたい。

 「まっ、考えてても仕方ないさ。無理だったらどっかに出るよ」

 「手放しは……しねぇよな。そんな目で見んなよ。一応聞いたんだ。一応」

 物凄く物騒な目でビルを睨んでしまったらしい。
 キナコと離れるなんて、冗談でもほざくな。

 「やれやれ……とんだ記憶が掘り起こされちまったもんだな」

 「何言ってんだビル。俺は幸せだぜ……可愛いなぁ……すぅ~……キナコの香り……」

 「お……おう。お前が幸せなら何も言わんが……」

 ビルがタジタジになっているが、どうでもよろしい。
 俺はキナコの幸せを守れれば、それで幸せなのだ。
 よし。
 家に帰ったら、存分に猫吸いをしよう。
 そうしよう。

 「よし。ビルにもキナコの可愛さを自慢したし、キナコの飯を買って帰るか」

 「にゃ~ん♡」

 ビルが何か言いたげに片手を上げていたが、キナコの飯が大事。
 まず鶏肉だな。
 ササミだ。
 けども他にも食えるんだったか?
 まだリック達も帰ってないからな。
 ちょいちょい誤魔化しながらいくか。
 ウキウキルンルンのオッサンが、ギルドを去って行った。

 「アレは、正に猫変態だな……」

 ビルの呟きに、成り行きを見ていたギルドの面々は深く頷くのだった。




 
 軽くキナコに聞き取りをした所、キナコが食べてはイケない危険な食べ物は無いそうだ。
 ただ、猫の特性的なモノは残っているらしく、マタタビ等のにゃんにゃん用品には反応が出るらしい。
 食生活については、人間と同じだと言う。
 キナコ的には、鶏肉のササミの方が美味しかったから、それが出ない事が悲しかったらしい。
 
 「なるほどなぁ……俺と同じ物が食える様になったのか……」

 「にゃん」

 「んじゃ、前にキナコが食べたそうにしてた物も問題無く、山分けできるな~」

 「にゃん♡」

 「なら、身体の為にも野菜は大事だな」

 「にゃっふ……くるる……」

 まぁ、クセの無さそうな野菜を選んで試していくのが1番だな。
 野菜に関しては、子供に出す感じで問題無いな。
 甥っ子の食事の面倒を見てた時を思い出しつつ料理する感じだな。
 ……料理か。
 キナコが居なくなってから、ほとんどやって無かったが……キナコが居るってなると、ヤル気が溢れてくるな。

 「にゃっ!にゃっ!」

 頭の上に乗っていたキナコが、デコをペシペシしてくる。
 ……屋台、串焼きの屋台の匂いだな。

 ギルドから1度広場に戻り、商店区画に向かう為に通っただけなのだが……
 キナコが少々興奮してしまった様だ。
 真っ直ぐ商店区画に向かった方が良かったかな?ともチラリと考えたが、小道に入ると迷うし、治安がよろしく無いらしい。
 俺なんか非力な部類だから、即効身包み剥がされちまう。
 それに、もしキナコに何かあったらと思うと……うん。
 こちらが正解。

 「串焼きは、帰りに買って帰るからな?我慢できるか?」

 「……にゃ」

 キナコのテンションが10下がった。

 「鶏肉のササミ、食べたいんだろ?」

 「にゃ!……にゃにゃっ!」

 え~と……キナコさんは、何を伝えたいのかな?

 「にゃっ!にゃっ!」

 俺のデコをペシペシしながら、クネクネさせた尻尾をアピール?
 はて?

 「え~と……食べたい物のリクエストか?」

 「にゃん!」

 合っていた様だ。
 と言う事は……

 「鶏肉関係の料理で食べたい物があるのか?」

 「にゃん!」

 尻尾をクネクネ……アピール……?

 「え……っと?尻尾の動きにあるのは食べ物か?」

 「くるる」

 えっ……難しいぞ?

 「生き物か?」  

 「にゃん」

 「ヘビとか?」
 
 「にゃん」

 「ヘビを食うのか?」

 「ぐるるっ!」

 『そんなん食えるかっ?!』って言われてもな?!
 連想していくの大変なんだぞ?!
 こっちとら、連想なんて1年のブランクあるんだかんなっ?!

 ヘビ、ヘビ……
 キナコとの生活でヘビに出会った事なんて無かったからなぁ……
 箱入りにゃんこがヘビだなんて、動画で見てた位か?
 いや、待てよ?
 動画?
 ヘビと勘違いしたきゅうりに驚く猫動画を見てたキナコを思い出した。
 あれは多分見てたと思う。
 俺のスマホを肉球でペシペシして、面白動画再生でストップしてたし。
 その後ずーっと再生のままだったし。
 って事は?

 「きゅうり……?」
 
 「にゃん!」

 ……当たったらしい。

 「きゅうりが食いたいのか?」

 「にゃん、くるる」

 む。
 
 「きゅうりのある食い物?」

 「にゃん!」

 家できゅうりとササミセットで食ってたのは……

 「棒々鶏……」

 「にゃん!」

 「普通のササミだろう?!」

 「くるる」

 思わず本気でキナコにツッコミを入れてしまった。
 だって、棒々鶏のササミは普通に蒸したやつだ。
 食べる時にはキナコにも分けてたし。
 けど『違う』って何だよ……

 「って事は、味付けしてきゅうりと食いたいって?」

 「にゃん!にゃっにゃっにゃん!」

 あぁ……そうか。
 一緒に丸っと同じ物が食いたかったのか……
 そうか……

 「そうだな。一緒に何でも食おうな」

 「にゃんっ!」

 何か、ちょっと嬉しいな。
 



 






    
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