騙されて異世界へ

だんご

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25 素敵な出会い

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 昨日と変わり映えもせず、本日も薬草採集。
 場所は若干移動している。
 と言っても、森の中ではない。
 街道沿い、ちょい森寄りだ。
 スライムにビビる俺が、森で生き残る可能性なんてないだろ?
 スライムにすら(社会的に)殺されかけたんだからな。
 キングだったけども。

 そんな訳で、安全区域で【鑑定】をフル活用しているんだが…

 名前    ??
 種族    獣人族
 年齢    1歳
 職業    ??
 Lv        3
 スキル 【言語翻訳】【野生の勘】【おねだり】【健康維持】【アイテムボックス】
 魔法   【生活魔法】【回復魔法(大)】
 称号   【転生者(猫)】
 加護   【獣神の加護】
 状態 獣化 衰弱

 草影にそんな表示を発見してしまった。
 ……ヤバい感じしかしない。
 多分、厄介事だ。

 『※その認識でOKです』

 ……やっぱり?
 ここって、人族至上主義のお土地柄だよね?

 『※その認識でOKです』

 獣人さん、見つかったらどうなるか分からないよね…?

 『※その認識でOKです』

 しかも、保護してたとして……あちらのお土地の方々から激しい苦情・抗議ありそうだよね……
 誘拐犯扱いされそう。

 『※その認識でOKです』

 まかり間違って、暗殺とかあり『※その認識(プツッ)』そう……って?!
 あるのかよっ?!
 うわぁ~……
 見なかった事にしたい。
 したいが、どうしても見逃せないワードもあるよな。

 【転生者(猫)】って。
 (猫)って。猫ってあるぞっ?!
 今、迷い猫が衰弱してるって事だろっ?!
 しかも子猫がっ?!
 子猫が1匹で弱っているなんて、許されていいはずがないじゃないかっ!!
 放置なんて最低だっ!
 猫好きとしてっ!
 いや、人としても最低な行為だっ!!
 
 いや、見なかった事にしたいと一瞬思ったけどな?
 でも実際にやる奴なんざ居ないだろ?
 居ないよな?
 居ないって言ってくれ!
 ……まぁ、俺は人の良心を信じているよ。
 そう信じたい。

 それよりも。
 脳内演説を素早く打ち切り、ソッと草むらに近付く。
 怯えさせない様に、慎重に草をかき分けて……

 「っ?!」

 俺は息をするのも忘れてしまった。 
 草むらの根元にノベッとしている毛玉が、去年死別した我が愛猫に瓜二つだったからだ。

 「そんな……まさか……」

 涙腺崩壊を起こし、手が膝が震えている。
 呼吸だってなんか変だ。
 喉の奥がヒューヒューしてる。
 けど、そんなんはどうでもよろしい。
 目の前に愛猫が……ヒュッ……
 ヒュゥ……キナコが……ヒュ……
 子猫なキナコ……ヒャゥ………
 生まれ代わり?!
 いや転生だっヒュゴッ

 「ギなゴォ~~~~!」

 「にゃ……」

  迷惑顔の『にゃ』が完全にキナコ顔だっ!

 「ハッ!」

 いかんっ!
 先ず回復させねばっ!

 思いつくのと同時に【回復魔法(小)】を連続で使い続けた。
 【鑑定】しながら重ね掛けし、衰弱が空腹に変わった。
 
 「良かった……けど、カリカリ系の物が何もない……」

 朝屋台で買った、ウィンナーをナンで巻いた感じの物しかない……
 にゃんこさんに与えるには、塩分が強すぎてダメだ。
 前の世界から持って来たブドウ糖なんかもあるが、適量が分からないし……
 ヤバいヤバいヤバいヤバい。
 せっかく会えたキナコと、またお別れの危機じゃないかっ?!
 とりあえず水だ。
 まず水を飲ませないと……
 皿……皿がない……
 いや、手でイケる!
 てゆーかへばってる時に、悠長に皿なんか使うかっ!!
 あぁ……ペットボトルの蓋に水入れて、指につけて少しずつ口の周りを湿らせてみるか……

 ヤバい。
 俺、今かなり焦ってる。
 1度落ち着かなければ……酷いミスをしそうだ……
 キナコ……グスンッ……

 ペロッ

 「っ?!」

 今、舌でペロッとしたよなっ?!
 少し口元に水を含ませていくか!
 少しずつだ。
 焦るな、俺。
 少しずつ、少しずつ……

 ペロペロ……

 少しずつ、ゴクゴクいけるまで続けて、ようやくキナコ……いや、推定キナコの焦点が定まってきたようだ。
 同時に俺の涙腺や震えも治まり、落ち着いてきた。
 

 「良かった……大丈夫そうだな?」

 「にゃ」

 お返事できるにゃんこさんは、大変良いにゃんこさんです。

 「腹減ってるよなぁ……すまん。カリカリや猫用の食べ物が無いんだよ……」

 「……」

 あぁ……明らかに耳がしょんぼりしている……
 キナコとソックリだ……

 「一応、人用の味の濃いウィンナーパンはあるんだが……猫には塩分は毒だしな……」

 「にゃっ!」

 ん?なんだ?
 まさか食べれるとでも言ってるのか?

 『※その認識でOKです』

 えぇ!?
 異世界の猫スゲェなっ?!
 いや、待てよ?
 この獣人ってヤツだからか?

 『※その認識でOKです』

 あっ!
 今、獣化してるからかっ!
 んじゃ、人化もできるって事だな?!

 『※その認識でOKです』

 「あ~……食べても大丈夫なんだな?」

 「にゃんっ!」
 
 「言葉も……通じてるよな?」
 
 「にゃんっ!」

 「なら……いい……のか?」

 「にゃんっ!」
 
 大丈夫だろうか……食べ物欲しさに適当に答えてないか不安になる程の良い返事だ。
 そんな所もキナコとソックリだ。
 
 「一応出して見るが、無理するなよ?千切った方が食いやすいか?」

 「にゃんっ!」

 そうかそうか。
 手頃な葉っぱを皿代わりにし、一口大にしていく。
 丸呑みはしない様に、時々声掛けすればいいな。
 これで大丈夫……なんだよな?

 やはり人間用の食べ物を与えるのが心配で、皿を置くのをためらっていると、足にチョイチョイと当たる感触がした。
 それはキナコの技。
 お手とおかわりちゃんだ。
 キナコは欲しい物を前にした時、お手をして、手を変えておかわりちゃんをしてくるのだ。
 うちの子可愛いでメロメロにされる瞬間だ。

 「キナコ……ちょっと待ってな?」

 「くるるっ」

 あぁ……否定系の『くるる』が出たな……キナコで間違いない。
 再び涙が止まらない。
 が、しっぽがビタンビタンになって来たので、ソッと葉っぱ皿を置く。

 「はぎはぎはぎはぎあぎあぎ」

 あぁ……キナコだぁ……
 牙を剥き出しに、凶悪な顔で食べるこの姿は、間違いなくキナコ。
 キナコの子猫時代の姿がまた見られるとは……
 感動で涙が止まらない。
 ほっそりとしたフォルムで、耳が大き目の尻尾が長いにゃんこだ。
 オレンジ色に近い茶毛で、ゴールドの目。
 にゃん種的にはアビシニアンかな?とも思っていたが、拾ったので何とも言えない過去を持つキナコ。
 前世の出会いは、カラスに追われて排水口に逃げ込んでいたのを見つけたってヤツだな。
 危機一髪の所だった。
 マジでカラスに殺意が沸いたが、自然界の事だからどうにもできない話でもあったし。

 外にいる子猫達は、肉食の生き物に狙われる。
 カラスだったりヘビだったり、その他にもたくさん。
 守るべき親が居ない場合、つまり捨てられていた場合は、ほとんどの者達が残酷な最期を迎える事が多いのだ。 

 他にも危険は多いが……
 まず捨てないで欲しい。
 捨てる事イコール殺す事と捉えて欲しい。 
 『誰かに拾って貰って幸せに……』なんてならない。
 間違いなくカラスに食われる。
 そして、この場合。
 悪いのはカラスじゃない。
 捨てた奴だ。 
 護る事を放棄した奴が1番悪い。

 俺も猫を捨てた経験があるんだ。
 子供の頃、子猫を拾ってな? 
 家に連れ帰ったんだ。
 昔はよく捨て猫がいたんだ。
 可哀想で……でも可愛くて。
 けど、家で飼う事は不可能で。

 『もといた所に戻してきなさい』

 悲しかったし、怖かった。
 子供の手のひらに乗る程の命を置いてくる事に、罪悪感が恐ろしい程、のしかかったさ。
 元の場所へ戻るまで、可能な限り「猫を飼ってくれませんか?」と聞きながら進むが……時間が過ぎるだけだった。

 側で無事を見届けたいのに、暗闇が迫ってくる。
 子供の俺は、家に帰らなければいけなかった。
 1人で生きて行くのは不可能だから。
 『子供はなんて無力なんだろう』と痛感したし『大人になったら絶対に命を諦めない』とも誓った。
 
 翌日、小さな段ボールは消え、斜め後ろの家の出窓に子猫を見た。
 あの子猫である事を強く祈って……そこの道を通るのを辞めたのだ。

 今の時代はネットで飼手探しができるし、助けを求め易い時代になったと思う。
 なにより、大人になれた。
 オッサンになったが、もう無力じゃない。
 諦める事はしなくてもよくなった。
 もう護れる側にまわれたのだ。と。
 キナコとの出会いで、自分の在り方を思い出したんだよな。
  
 「にゃっ」

 「おっ、水か?」

 「にゃん」

 「今、コレに入れる。少しずつだぞ?」

 ペットボトルの蓋に水を入れて差し出す。
 手で持って飲ませてる感覚に幸せを噛みしめる。

 「ポフッ(お手)ポフッ(おかわりちゃん)」

 「うへへ……了解だぁ」

 多分、だらしない顔になってんだろうが、御希望のおかわりちゃんを速やかに用意。
 2度繰り返して終了となった。

 食後の顔洗いをしてるキナコに話しかける。
 
 「キナコだよな?」

 「にゃん」

 「こっちの世界で生まれたのか?」

 「にゃん」

 「どうしてこんな所にいたんだ?拐われたのか?」

 「……」

 「逃げ出したのか?」
 
 「にゃん」

 前世と同様にYES・NO方式で聞いていく。
 キナコは賢いから、返事してくれるんだよ。
 基本YESに返事を返してくれる。
 もしくはYESの時に、ゆっくり瞬きやウィンクだ。
 前世の時も面白くて色々聞いたんだ。

 つい出来心で前前世の時の話を聞いてみた事もあった。
 キナコは覚えていると言ってた。
 砂の多い暑い国で、なんか鳥じゃないけど空飛ぶ生き物だったそうだ。
 今回生まれてから見た事もない生き物らしい。
 コウモリかな?
 こうして転生しても記憶があるって事は、キナコにも色々あるのだろう。

 今回の聞き取りで、生まれてからしばらくは猫として暮らしているつもりだったらしい。
 離乳食に野菜が混じり『?』となり、人間に獣ミミや尻尾があるし、母親の匂いの猫ミミ人間が現れて、いよいよ『オカシイぞ?』と思ったそうだ。

 『転生者が出たらしい。狩りが始まる』と親達が話しているのを聞いて『マズい気がする』と1歳前に逃げ出したそうだ。
 兄妹猫達の動きを見ながら、キナコも成長度合いを誤魔化していたらしい。
 賢いな。
 猫的な成長をしていたが、1歳で成人ではないそうで、無事に育った子供のお披露目式みたいだったらしい。
 そこで【鑑定】を受けると聞いて、ヤバい予感がしたから逃げ出したそうだ。
 スゲェなキナコ。
 よくそこまで考えが回ったな。
 賢い通り超えてないか?

 「まさか、異世界転生物のアニメを参考にしたとか?」

 「にゃんっ!にゃにゃんっ!」

 よくわからんが、大変参考になっていたらしい。
 そう言えば、俺が晩酌しながらかけてた深夜アニメ、一緒に観てたもんな……

 「キナコ。逃げ出して正解だ。転生者(猫)はヤバい扱いが待っていたらしいぞ……」

 「にゃ……」

 臭くもないのにフレーメン反応……
 こんなに表情豊かだったかな……?

 「俺は転移だが、異世界人とバレないように【ステータス】イジったんだよ」

 「にゃ?」

 首をひねる動作が可愛ぇ!あざと可愛ぇ!!

 「異世界に関わる情報を【鑑定】に出ない様に、隠すスキル【隠匿】を使ったんだ」
 
 「にゃ……にゃん!にゃ~!」

 ポフッ(お手)
 ポフッ(おかわりちゃん)

 「おぉ……キナコも隠したいのか?」

 「にゃん!」

 猫のカテゴリーに当てはまらい猫。
 それが、キナコ。
 今や獣人。
 うちの猫、尊い。





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