騙されて異世界へ

だんご

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 「おい、リック……本当にいいのか?」

 「ん?何がだ?」

 「ほれ……タバサとその、な?」

 「なっ……?!なっ、それは、それだっ!!」

 「そっか。それは、それで、これは、これか」

 「どれが、それだよっ?!」

 「え~……それが、それだよ……」

 「どっ、どっちなんだっ?」

 リックが頭を抱えて、それ・これ悩んでいるのをニヤニヤ見てるのもいいかもしれんな。

 「おぅ、ソブル。あんまり虐めんなよ?」
 
 「おっ?上がりか?」
 
 どうやらビルも仕事終わりの様だ。
 夜勤と交代なんだろうな。
 ギルドは24時間営業なんだと。
 大変な仕事だよな……

 「おぅ。リック達の事は、ギルド全体で生温かく見守ってるからなぁ……無理はいかんぞ?まぁ、いい仕事はしたがな。焦れったいたら無かったからなぁ」

 「そりゃ、良かった。命の恩人だったが、あまりにアレだったからなぁ。ついな、つい」
 
 「ギ、ギルドぜんたい……って……?」
 
 リックが真っ赤だな。
 いやぁ、青春だな。 

 「まぁ……初対面の俺が気付く位ならなぁ?」

 「気付かねぇ方がおかしいよなぁ?」

 「なーーーーっっ?!」

 リックが壊れたな。
 真っ赤な顔面抑えて、崩れ落ちた。

 「待たせたな。ん?リックは、どうしたんだ?」

 ギルド付きの飲み屋で、テイクアウトの夕食を買って来たタバサ。
 オッサンズのイジりを見ないで済んで何よりだ。

 「まっ、大丈夫だろ?」

 「だな。ソブル、軽く遠慮しとけよ?」

 「勿論!恩人だからな!」

 ニヤリ。
 ビルと共に悪い顔をして、別れたよ。

 「別に遠慮しなくてもいいからな?」

 「いや、タバサ。それじゃない。そうじゃないんだ……」

 急浮上して来たリックが何か言ってるが、タバサは頭にハテナが浮いている。

 「まっ、適当にヨロシクな」

 「はぁ~……わかった。行くぞ……」
 
 「?」

 リックの家は、ギルドから30分程の所にある一軒家だったが……
 2階建てだった。
 ちょっとした御屋敷っぽい雰囲気だ。
 こいつ、かなりの金持ちボンボンだったか、貴族絡みの何者かじゃなかろうか?

 「お……おい、リック……いや、リック様?」

 震える指で家を指差す。
 無礼打ち案件が数件貯まってるからな。

 「なんだよ急に……気持ち悪いぞ?」

 「2階建ての家をお持ちだなんて、聞いてやがりませんぞ?」

 「ソブル……使い慣れない言葉使うなよ。滅茶苦茶になってるぞ?」

 「いや、でもよ?2階建てだぞ?2階建て……タバサと住んでる訳でもないんだろ?」

 「なんだよ、2階建てにこだわるなぉ。稼ぎがいいからに決まってんだろ?」

 ︵ズガァーーーーンッッ!!︶

 「なんだ?雷魔法受けたみたいになりやがって……」

 「タバサとどうこう心配した俺がバカだった……チマチマ稼いでた︵日本での︶俺の夢がぁ~っ踏みにじられたぁ~!!」

 「おっ、おいっ、急に泣き出すなっての……」

 「いいよなぁ、リック……綺麗な嫁がいて、立派な家があるんだもんなぁ……」
 
 「「よっ、よっ……?!」」

 「ちぇっ……遠慮なんかせず、お邪魔してやる」

 「ま、まぁ、遠慮すんな。汚いが、お前達を招く場所位はあるさ……」

 「「…………」」

 このちっちゃな汚屋敷は、汚部屋だった。

 「ん?2人してどうした?その辺で寛いでくれ」

 「「…………」」

 この汚部屋に寛げる場所なぞ存在しない。

 ︵カサカサカサカサ……︶

 「「っっっっ?!」」 

 「あ~、ここ、庭つきだから虫がよく入ってくるんだよなぁ~……まぁ、森ほど出ないから、大丈夫だろ?」

 ︵︵︵カサカサカサカサカサ………︶︶︶
 
 「「っっっっ?!」」

 「どうした?2人して、顔が青いぞ?」  

 「……きゅ~……」

 「タバサっ?!ここで倒れるなよっ?!まみれるぞっ?!」

 あまりの汚部屋っぷりに意識を失ったタバサを素早くキャッチ。
 汚部屋から守るべく、抱え込む。
 
  「なっ?!タバサっ?!ソッ、ソブル、お前っ?!」
 
  「リックっ?!お前、タバサに触んじゃねぇっっ!!」

 リックの伸ばして来た手を払う。
 俺らに触んじゃねぇよっ!
 汚れるだろうがっ!
 この汚坊っちゃんめっ!
 恋愛云々言ってる場合じゃねぇっ!
 カサカサする悪魔が目視で数匹いるんだぞっ?!
 ふざけんなよっ?!

 「なにっ?!ふざけんじゃねぇぞっ?!」

 「そっちこそ、マジでふざけんなよっ?!なんだこの汚部屋はっ?!こんなん健全な俺らを殺す気かぁっ?!」

 「なっ?!そこまで酷くねぇだろ?!」

 「酷えってもんじゃねぇよっ!!ここはっ!!そのうちアンデッドが発生するんじゃねぇかってほど、よどみきってるぞっ?!」

 「なっ?!……何もそこまで……」

 「こんな家に、ウチの可愛いいタバサは嫁がせないからなっ?!」

 「ウチのって……」

 「タバサが苦労するなんて……父ちゃん絶対に許さんっ!!」

 「父ちゃんって……」

 「えぇい黙れぃ!!掃除だっ!!こんな汚家は許さんっっ!!掃除して出直してこいぃっ!!」

 「出直すったって……ちょこっと汚いだけだろ?」

 「本気で言ってんのか……?」

 「えぇ?冗談言ってどうすんだよ。俺、掃除なんてした事ないけど……死ぬ訳じゃないし…?」

 えっ……?
 コイツ、マジで?
 マジに言ってんの?

 『※その認識でOKです』  

 「死ぬからなっ?!不潔で死ねるからなっ?!腐ったもん食えば普通に腹下すし、弱るし、死ぬからなっ?!」

 「外で食えば……」

 「部屋汚れりゃ臭ぇからな?!お前にも臭い移るからなっ?!」

 「【清浄】や【消臭】使えば大丈夫だし……」

 「それを部屋にも使えよっ?!ふざけんなよっ?!」

 「え~……家に帰ったら、魔力使いたくないだろ?」

 「ぶちのめすぞっ?!コノヤロー!!」

 響かない言い合いを、タバサが気が付くまで永遠と繰り返してしまった……

 

  「まずは……掃除だ……ありえない、こんなの、ありえない……」

 青褪めたタバサの言葉にリックは深く項垂れた。
 当たり前だぞコノヤロー。

 「いや、でも、タバサも疲れているし?ソブルだって、色々あって休みたいだろ?」

 「ないの……」

 「タバサ?」

 「休む場所が無いのっ!黒い悪魔がいる中で?!無理だっ!無理無理っ!ここで過ごしたら、私はアンデッドになるっ!!」

 「タバサ……」

 「ホレみろ。リック、お前ダラシナイと、嫌われるぞ?」

 ︵ズガーーーーーーンッッ!!︶

 「俺も手伝ってやるから、一緒に【清浄】するぞ?」

 放心状態になったリックが僅かに頷いたので、そのまま御屋敷に連行した。
 タバサとは、また明日会おうと話しわかれたよ。
 無性に風呂が恋しくなったに違いない。
 特に【鑑定】持ちには辛いだろうさ。
 この情報量……
 見たくない情報が多過ぎるから、カットしよう……
 視界を埋め尽くす【鑑定】表示、別ウィンドー……
 タバサの【鑑定】が全部視覚に映るタイプだったら、寒気が止まらないだろうな。

 『※その認識でOKです』

 ……うわぁ。
 百年の恋も冷めてしまうわぁ。

 「リック、とりあえず家の窓、全部開けろ。その後、手分けして【清浄】かけてくぞ?」

 「ぉぅ……」

 「シャキッとしろよな?捨てられるぞ?」

 「おぅ……」

 【清浄】【消臭】を一晩中かけて回ったわ……
 滅茶苦茶だな……
 
 
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